『憎しみ』『レ・ミゼラブル』、そして『ディヴァイン』
僕の個人的なNetflixあるあるとして、サムネイル画像にピンとこなくて中身に触れるまでに時間がかかる、というのがある。そこをよっこらせと重い腰を上げて再生ボタンを押せば、終わる頃には見てよかったな~ってことになるんだけど。ウーダ・ベニャミナ監督の長編デビュー『ディヴァイン』もまさにそう。第69回カンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞した快作だ。
パリ郊外の貧困街でビッグマネーを手にしたい女子高生のドゥニア(ウーヤラ・アマムラ ※ベニャミナ監督の妹でもある)は同級生のマイナム(デボラ・ルクムエナ)と共に、万引きした商品を転売することで日銭を稼いでいた。ある日、道端で見かけた取引をきっかけにドラッグディーラーのレベッカ(ジスカ・カルヴァンダ)と出会い、売人として荒稼ぎするようになる。
フランスにはマチュー・カソヴィッツ監督の『憎しみ』(1995年)を筆頭に、2020年に日本でも公開され話題となったラジ・リ監督の『レ・ミゼラブル』(2019年)など、貧困地域を舞台に格差を描く作品がジャンルを問わず数多くある。『ディヴァイン』はタフな世界で生き抜こうともがく少女たちが主人公で、全体的に悲壮感が漲ってはいるが、若者ならではのエネルギッシュな描写はとても力強い。ベニャミナ監督は本作について「“そこ”に住む人々と、その感情についての物語」だとインタビューで語っていた。
十代の少女に恋よりも金を選ばせてしまう、絶望的なスラムの現実
金を稼ぐことにしか興味のないドゥニアはドラッグの売買に携わることに陶酔しているが、普通の高校生ではいられくなった現実に対して時折、後悔しているような表情を浮かべる。それは、ひょんなことから出会ったダンサーのジギ(ケヴィン・ミシェル)への恋心による部分が大きい。ドゥニアが窮地に立たされるたびにフラッシュバックするジギの姿は、彼女の精神を正常に戻す唯一の存在として機能している。
スーパーで警備員として働くジギは、常に向上心を持って練習に打ち込み、ダンスチームのレギュラーメンバーに昇格する。そんな彼と、目先の金銭に心を奪われ引き返せなくなっているドゥニアの対比には胸が痛む。その後の悲劇的な顛末を思うと、彼の誘いを断らなければ別の未来があったのでは……という失望は避けられない。
撮影当時としてはまだ比較的斬新だったであろう、スマートフォン撮影に切り替わる演出も印象的だ。全編iPhone撮影の『タンジェリン』(2015年)などもセンセーショナルだったが、本作はまるで主人公のプライベート撮影のような切り替えで、通常のカメラ撮影とのコントラストが有機的に機能している。
文;巽啓伍(never young beach)
『ディヴァイン』はNetflixで独占配信中
『ディヴァイン』
勝ち気な十代の少女が親友とつるんで考えることはひとつ。お金が欲しい、罪を犯しても。ドラッグの売人をして金を稼ぐ女を見て、少女は後に続こうと考える。
制作年: | 2016 |
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監督: | |
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