世界中のアーティストに多大な影響を与えた大林作品
大林宣彦監督は、これまで40本以上の作品を残しています。初期の作品である『HOUSE ハウス』(1977年)『ねらわれた学園』(1981年)『転校生』(1982年)『時をかける少女』(1983年)などは、「これを見ないと映画は語れない!」というようなキャッチコピーで、よくレンタルビデオ屋でオススメされていて、大学生の頃に観ました。
思い返せば当時は、なんとなくゆるい仕事をしながらバンドを続けたいという甘い気持ちで就職活動に臨んだところ全然ダメで、しかもバンドも休止してまあまあ暇になって、お先真っ暗な気分でした。ヘラヘラしていましたが人生的には全然ポジティブじゃなく、授業やアルバイトの後、毎日DVDを借りて暗澹たる気持ちで映画を観ていて、未来に対する思考を完全にストップさせていました。大林監督の名前を見ると、すごくその頃を思い出します。
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それらの作品は今ほどCGや特殊効果が発達していない当時に最大限、監督のイマジネーションを形にしようと試みられており、結果、映像はかなり衝撃的に芸術性を帯びていて、未体験のものでかなり興奮しました。メンバーのまおともよく話していたように思います。何回も観直している『HOUSE ハウス』に関しては、好きなバンドのAnimal CollectiveがTシャツを着ていたり、ゴダイゴが手掛けたサントラがレコードで再発されたり、再上映も定期的にされているので、根強い人気を感じます。
大林監督の後世へのメッセージと情熱が結びついたパワーに満ちた作品
長くなってしまいましたが、『海辺の映画館―キネマの玉手箱』は3時間にわたって大林監督が次の世代にメッセージを残そうとしてくれている作品と言えます。自分が人生を共にしてきた映画というものの成り立ちや、戦争の個人レベルでの恐ろしさを切に訴えてくるような、いくつものエピソードがオムニバス的にたちあらわれては消えてゆきます。見ているうちにすっかり恐ろしくなっていました。
作品の舞台は映画館で、そこにいる観客に向けて映画を上映し始めるのですが、映画の歴史と戦争の歴史をクロスオーバーさせた映画が進んでいくうちに、観客もスクリーンに入り込んでいて……と思ったら画面の外にも話しかけてきて……というようなメタ的な構造で、何を観ているのか分からなくなってくるような没入感があります。また、同じ俳優が違う時代にも現れて、登場人物も皆混乱しているという構造には、マジックリアリズム的なものを感じました。
「映画はこれからも革新されていく」という大林監督の宣言と、監督が目にしてきたものを後世に残すという情熱が強烈に結びついた、パワーに満ちた作品だと思いました。
文:川辺素(ミツメ)
『海辺の映画館―キネマの玉手箱』は2020年7月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開
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『海辺の映画館―キネマの玉手箱』
尾道の海辺にある唯一の映画館「瀬戸内キネマ」が、閉館を迎えた。嵐の夜となった最終日のプログラムは、「日本の戦争映画大特集」のオールナイト上映。上映がはじまると、映画を観ていた青年の毬男、鳳介、茂は、突然劇場を襲った稲妻の閃光に包まれ、スクリーンの世界にタイムリープする。
江戸時代から、乱世の幕末、戊辰戦争、日中戦争、太平洋戦争の沖縄……3人は、次第に自分たちが上映中の「戦争映画」の世界を旅していることに気づく。そして戦争の歴史の変遷に伴って、映画の技術もまた白黒サイレント、トーキーから総天然色へと進化し移り変わる。
3人は、映画の中で出会った、希子、一美、和子ら無垢なヒロインたちが、戦争の犠牲となっていく姿を目の当たりにしていく。3人にとって映画は「虚構(嘘)の世界」だが、彼女たちにとっては「現実(真)の世界」。彼らにも「戦争」が、リアルなものとして迫ってくる。
そして、舞台は原爆投下前夜の広島へ――。そこで出会ったのは看板女優の園井惠子(常盤)が率いる移動劇団「桜隊」だった。3人の青年は、「桜隊」を救うため運命を変えようと奔走するのだが……!?
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年7月31日(金)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国公開