文化と芸術の都パリ! ルーヴル美術館から始める映画旅行
映画でパリを観光するなら、どんな映画がいいだろう? パリには名所が山ほどあるし、歩いているだけで絵になる美しい街だから、パリが出てくる映画はごまんとある。切り口によって何百何千通りのパリの映画ガイドができるだろうが、文化と芸術の都として捉えるならば、ルーヴル美術館が事件の発端となる『ダ・ヴィンチ・コード』(2006年)が一番だ。映画はこんな風に始まる。
ルーヴル美術館館長ソニエールが殺され、パリに講演に来ていたハーヴァード大学の宗教象徴学教授ロバート・ラングドン(トム・ハンクス)がフランス警察から捜査の協力を求められる。ルーヴル美術館のピラミッドの前でファーシュ警部(ジャン・レノ)に出迎えられたラングドンは、グランド・ギャラリーの床に、ダ・ヴィンチのウィトルウィウス的人体図を模した姿で横たわり、胸に五芒星の傷をつけたソニエールの遺体を発見する。
なぜこんな姿で死んでいるのか。床に血で書かれた謎のメッセージを解こうとすると、暗号解読官のソフィー・ヌヴー(オドレイ・トトゥ)が現れ、容疑者として逮捕されようとしていたラングドンを救い出す。実はソフィーはソニエールの孫娘で、2人は宗教史学者リー・ティービング(イアン・マッケラン)の助けを得て、ソニエールのメッセージを解き、ダ・ヴィンチの絵に隠された暗号(コード)を解明しようとする。
歴史の謎解き物語『ダ・ヴィンチ・コード』とリメイクされ続ける傑作『オペラ座の怪人』
ダン・ブラウンの原作「ダ・ヴィンチ・コード」は2003年に発表されるや、世界的な大ベストセラーとなり、小説を読んで歴史の謎解きに目覚めたファンがルーヴル美術館やサン・シュルピス教会に押し寄せた。ロンドンのウェストミンスター寺院やテンプル教会も同じだったろうが、当然のことながら、ルーヴル美術館のモナ・リザに人気が集中、館内に長い長い列が出来た。私がブームがかなり下火になってから行ってみたときでも、まだ行列をさばくための柵が残っていた。
https://www.instagram.com/p/B9uAguFo4f7/
ルーヴル美術館が今のような姿に整ったのは、1980年代にミッテラン大統領の発案で行われた大ルーヴル計画による。古びた建物全体を修復し、中庭に中国人建築家I.M.ペイ設計によるピラミッド、地下に巨大なエントランス・ホールが作られた。
https://www.instagram.com/p/CB7te2bi_GA/
ピラミッドによって印象が一変したルーヴルに当初は賛否両論あった(ジャン・レノ演じるファーシュ警部がちくりと批判する)が、今ではすっかり街になじんで、夜のライトアップも美しく、パリの新名所となっている。
https://www.instagram.com/p/B7LjRalC6K-/
さてルーヴル美術館を出て北に向かうと、演劇の殿堂コメディ・フランセーズの横からオペラ通りが始まり、その突き当たりにオペラ座(ガルニエ宮)がある。世界の主要な都市には様々なオペラ座、オペラ・ハウスがある(東京にもある)が、世界で一番有名なオペラ座といえば、このガルニエ宮だろう。
https://www.instagram.com/p/CClAknEooaK/
オペラ座を舞台にした映画といえば、何と言っても『オペラ座の怪人』だ。原作はベルエポックの時代に活躍した人気作家ガストン・ルルーの同名小説で、ガルニエ宮にまつわる噂話を集めて怪奇小説に仕立てたもの。新聞連載中から大人気で、1910年に出版されるとベストセラーとなり、1925年にはハリウッドで初の映画化、以後、翻案を含めて10作以上リメイクされた。
今回は、2020年6月22日に80歳で死去したジョエル・シューマカー監督を追悼する意味を込めて、彼が2004年に監督したミュージカル版を紹介しよう。
もはやオペラ座が主人公!? 美しくも哀しき三角関係を描く怪奇ロマンス
ミュージカルの初演は1986年のロンドン。『キャッツ』『エビータ』などのアンドリュー・ロイド=ウェバー作曲で、当時彼の妻だったサラ・ブライトマンをスターにした作品でもある。このミュージカルはルルーの原作に忠実にパリのオペラ座を舞台にしているが、シューマカーの映画化では、演出の都合かオペラ・ポピュレールという架空の劇場に変えられている。
https://www.instagram.com/p/BwpWNxDg2S3/
世界で最も成功したミュージカルのひとつなので、今さらストーリーを紹介するまでもないだろう。オペラ座の地下に住む怪人ファントム、ファントムが歌手として育てるコーラスガールのクリスティーヌ、彼女の幼なじみでオペラ座の後援者ラウル子爵の三角関係によるラヴ・ロマンスである。映画化での配役は、ファントムにジェラルド・バトラー、クリスティーヌにエミー・ロッサム、ラウルにパトリック・ウィルソンで、当時ほとんど無名だったジェラルド・バトラーの出世作となった。
映画化にあたって、シューマカーは映像でしか出来ない演出にこだわったようだ。まるでオペラ座そのものが主人公のように、天井裏のキャットウォークから地下の下水道までカメラが縦横無尽に動き回る。特に素晴らしいのは、朽ち果てたオペラ座が過去にフラッシュバックして美しく蘇るオープニングで、まさに映像のマジック。何度も繰り返し見たくなるほど素晴らしい。
すでにかっちりとできあがり、大成功したミュージカルの映画化、しかも作者のロイド=ウェバーがプロデューサーであるという制約の中で、シューマカーはいつものように過不足なく、そつなく演出している。そう、この誠実さが彼の持ち味だったなと改めて思う。
文:齋藤敦子
『ダ・ヴィンチ・コード』はAmazon Prime Videoほか配信中