動物好きの間で「犬派か猫派か?」なんて質問が定番になっているように、映画にも“動物と人間”を描いた作品が多く、一つのジャンルになっている。そのほとんどが種を超えた絆を描いているが、特に“最良のパートナー”と称される犬が登場する傾向が強い。
さらに、そのなかでも「おじさんと犬」が絡む作品が一定数存在し、犬派はもちろん“おじさん派”にも訴求する名作が多かったりする。そんな、想像するだけで泣けてくる「おじさんと犬」映画の中から、比較的新しい名作たちを紹介したい。
爆泣き注意! デフォーとハスキー犬の絆に涙腺が決壊する『トーゴー』
ディズニープラス・オリジナル作品『トーゴー』(2019年)は、アラスカの雪原を疾走する大迫力の犬ぞりシーンから始まる。ウィレム・デフォー演じる主人公レナードと、相棒のそり犬トーゴーとの信頼関係に胸が熱く……なる暇もなく、早々に命がけのミッションに挑むことに。飛行機を飛ばせない猛吹雪のなか、伝染病の血清をそり犬たちがリレーで運ぶことになったという、1925年の実話を基にした物語だ。
最小限のやり取りの中で、犬たちがそりを牽引させるためだけの家畜ではないことがひしひしと伝わってくる演出は胸熱。手に汗握る過酷なミッションの合間に過去の映像が挿入されるのだが、なにかと手を焼かせるイタズラ犬だった幼いトーゴーのふわっふわの可愛らしさは悶絶モノ。最初は「このバカ犬!」と罵っていたデフォーもといレナードが、トーゴーの秘めた資質に気づく流れをじっくり描き、その後はちょっとしたことでも涙腺ダムが決壊してしまうというという、理想的な「おじさんと犬」映画に仕上がっている。
CGは多用せず、ほとんどのシーンを犬たちとデフォー自身が演じているという本作。その過程で犬への愛情が高まったのだろう、「犬を飼ったことはないんだけど、撮影中あまりに可愛くて大好きになったよ」と満面の笑顔で語るデフォーが最高なインタビュー動画があるので、ぜひ本編の締めくくりとして見ていただきたい。
なお、この“血清リレー”の逸話からは、別の犬を主人公にしたスティーヴン・スピルバーグ製作のアニメ映画『バルト』(1995年)も生まれたが、本作は同リレーの“真のヒーロー犬”であるトーゴーの名をタイトルに冠し、その貢献に最大級のリスペクトを捧げている。ともあれ、もはやデフォーがメソメソしているだけの終盤シーンですら嗚咽モノなので、序盤から覚悟して鑑賞しよう。
ハリソン・フォードと甘ったれ犬がワイルドライフを通して成長する『野性の呼び声』
ハリソン・フォード主演、作家ジャック・ロンドンの冒険小説の映画化作品『野性の呼び声』(2020年)の主人公は髭モジャのソーントンおじさんと、誘拐され売り飛ばされ、嫌々そり犬となった甘ったれのバック。100年以上前、ゴールドラッシュに沸くカナダのユーコン準州というアラスカにほど近い極寒地帯を舞台に繰り広げられる、特に犬が好きではない人にも犬=パートナーとの人生を想像させてしまうロマンにあふれた感動のアドベンチャー大作だ。
思いのほかコミカルなオープニングに肩透かしを食うかもしれないが、序盤は実際「もしかして『ベートーベン』[1992年]みたいな感じ?」とビックリするくらいのコメディなのでお楽しみに。そして「銀牙-流れ星 銀-」をコントにしたような犬たちの絆を描くパートに移り、信頼を勝ち取ったバックの本領発揮! なカタルシス全開の展開で、数々のハプニングを乗り越えながら中盤まで突っ走る。
オマール・シー&カーラ・ジー演じる郵便配達員との交流を経て、ダン・スティーヴンス演じるチンピラに重傷を負わされるも、かろうじてソーントンに救われるバック。互いに傷を抱えた一人と一匹が、過酷な大自然の中で主従関係を超えた絆を育んでいく。もちろん、ソーントンの独り言に首を傾げるバック、アル中気味なソーントンの酒瓶を捨てるバックなどなど、まるでマンガのような「おじさんと犬」シーンも満載だ。
しかし、ベタな感動アニマル映画だと思って観ていると、いきなり『ツイン・ピークス』シリーズ(1990~1991年、2017年)のトミー・“ホーク”・ヒルことマイケル・ホースが登場したりと、いちいち気の利いたシーンを突っ込んでくるから侮れない。そして終盤、タイトル通り“野生”に目覚めたバックがソーントンにも変化をもたらすクライマックスは、涙なしには観ていられないだろう。
本作は犬同士の交流も多分に描かれるため、CGによって表情表現がマシマシになっているのが特徴。もちろん相当リアルではあるものの、やはりCGであることを意識してしまう質感ではある。それでも観ているうちにCG感はほとんど気にならなくなり、むしろ人間くさい仕草や微妙な目の動きに感情を揺さぶられてしまうはず。実際に犬を飼っている人ならば、「そうそう、こういう仕草よくする!」なんて“犬あるある”も楽めるだろう。
サイモン・ペッグ主演! 皮肉の効いたシュールなSFわんこコメディ『ミラクル・ニール!』
ちょっと変わり種の「おじさんと犬」映画といえば、いまやシリアス演技もこなすスター俳優となったサイモン・ペッグ主演の『ミラクル・ニール!』(2015年)だ。本作は『銀河ヒッチハイク・ガイド』(2005年)のウィットに『ニューヨーク東8番街の奇跡』(1987年)の人情味を(ほんっの少しだけ)加えた“わんこSFコメディ”である。
本作の監督は『モンティ・パイソン・アンド・ホーリー・グレイル』(1975年)などで知られるテリー・ジョーンズだけあって、テリー・ギリアム、ジョン・クリーズ、マイケル・パリン、エリック・アイドルらパイソンズ、さらにロビン・ウィリアムズまでもが声優として出演する豪華さ。ただしシュールさとバカバカしさも、そのへんのコメディ映画とは比べ物にならないほど放り込んでくるので、そのあたりは覚悟しておこう。
冴えない中学校教師のニールは、あるとき「地球いらなくね?」と雑に滅亡させようとしている宇宙人たちによって、試験的に“何もかもが思い通りになる”という最強の能力を与えられてしまう。しかし、ニールはせっかくの能力を(未来から来た猫型ロボットにひみつ道具を与えられた某小学生よりも)超しょうもないことにしか使用しないというボンクラぶり……。そんなダメダメおじさんと絡むのは、テリア系の雑種犬デニスだ。
超能力を得たニールによって喋れるようなり、会話を成立させるために理性まで与えられたのに、本能的な欲求には逆らえない“犬全開”なデニスの登場シーンはどれも爆笑モノ。犬の頭の中って実際こんな感じなのかもな……と苦笑してしまう迷犬っぷりなのだが、飼い主のニールは輪をかけてダメダメなので、相殺し合いつつますますシュール路線を突き進んでいく。しかも監督がパイソンズだけあって、道徳的にマトモな願い事をすると逆に世界(地球)がおかしなことになってしまうという、なんとも皮肉な展開に。しょうもないギャグを延々と見せておきながら唐突に現実社会のジレンマを叩き込んでくるあたり、やはり油断できないおじさんたちである。
あの名作日本映画をポール・ウォーカー主演でディズニーがリメイクした『南極物語』
『ワイルド・スピード』シリーズ(2001年~)の人気を牽引した故ポール・ウォーカー主演の『南極物語』(2006年)は言わずもがな、社会現象レベルの大ヒットを記録した実話ベースの日本映画『南極物語』(1983年)のリメイクである。オリジナル版の樺太犬をハスキーが、そして高倉健のポジションをポールが演じ、よりアドベンチャー要素の強いヒューマンドラマに仕上げている。
オリジナル版では南極に置き去りにされた犬たちのサバイバルシーンが衝撃的だったが、本作ではポール演じる主人公ジェリーが負傷し、大嵐を避けるため犬を残して基地から離れることを余儀なくされるという展開で踏襲。その後、悪天候のため何ヶ月も戻れなくなってしまったジェリーは、人生の相棒である犬たちを置き去りにしてきた罪悪感に苛まれながらも、なんとか南極に戻ろうと資金調達に奔走する……。美しいオーロラのシーンなど基本的には忠実にリメイクしているものの、本作はディズニー映画だけあって悲壮感を抑えた演出が印象的だ(ラブストーリーもプラス)。
はたしてポールをおじさん枠に入れていいものかという気がしないでもないが、本作のプレミアにはまだ幼かった愛娘メドウと一緒に訪れたそうで、彼女も大いに楽しんだという微笑ましいエピソードもある。家族と一緒に安心して観られる映画を……というポールの気持ちに想いを馳せると涙なしには観られない、ファンにとっても特別な1本だ。
https://www.instagram.com/p/B2UY60uJ856/
『野性の呼び声』Amazon Prime Videoほかレンタル配信中
『トーゴー』『南極物語』はディズニープラスで独占配信中
『ミラクル・ニール!』はAmazon Prime Videoで配信中