さて、今年のオスカーは誰の手に?
『女王陛下のお気に入り』『ROMA/ローマ』各10ノミネート
賞レースの真打ち、第91回アカデミー賞ノミネートが1月22日発表となった。前評判通りに強かったのは『女王陛下のお気に入り』で9部門10ノミネート、予想以上に強かったのがNetflix配信の『ROMA/ローマ』で、10部門10ノミネート。日本関連も3作品がノミネートを獲得。さて、今年のアカデミー賞の傾向は?
ノミネート作品全体を俯瞰して目につくのは、候補者が白人ばかりで“白いアカデミー”と揶揄され、ボイコット運動まで起きた3年前から、アカデミー協会が目指してきた“多様性”が効果を発揮してきたこと。作品賞にノミネートされた8本のうち、『ブラックパンサー』、『ブラック・クランズマン』、『グリーンブック』の3本が黒人と黒人問題を取り上げた作品だ。特にオール黒人キャストのスーパーヒーロー物、しかも世界的に大ヒットという快挙を成し遂げた『ブラックパンサー』は、この種の娯楽映画がノミネートされないという批判を受けたアカデミー協会にとって(一度は人気映画部門を新設すると発表したが、今年は立ち消えになった)、二重の意味で救世主的な存在だ。
アルフォンソ・キュアロンの『ROMA/ローマ』は、70年代のメキシコで暮らす家族を描いた自伝的な作品で、昨年のヴェネツィア映画祭でネット配信作品として初めて金獅子賞を受賞し、話題になった。メキシコといえば、トランプ政権になって以来、政治的な軋轢が増している隣国で、反トランプ派のリベラルな映画人から支持を集めそうだ。また、ネット配信作品が映画祭や賞レースに登場することで映画界がどう変化していくか、いまだにネット配信作品を閉め出しているカンヌ映画祭にどんな影響を与えるかにも興味がある。(今は『ROMA/ローマ』の高評価で、ネット配信礼賛的なレビューを多く目にするが、ここには根深い問題が隠れているので、カンヌ映画祭をレポートする際に改めて触れることにしたい)。
対抗の『女王陛下のお気に入り』のヨルゴス・ランティモスは、カンヌ映画祭ある視点部門でグランプリを獲った『籠の中の乙女』(原題は『犬歯』)を見て以来、その特異な世界観に魅了されたギリシャ人監督。今はイギリスを拠点に活動しているが、こんなに早くアカデミー賞という大舞台に登場してくるとは思わなかった。これもイギリス王室物というアメリカ人が大好きなジャンルを取り上げた効果かもしれないし、主演女優、助演女優で3人がノミネートという女優陣の活躍のおかげかもしれない。
グレン・クローズ、7度目の正直あるか?最注目は主演女優賞
私が注目する部門は何といっても主演女優賞だ。今まで助演女優に3度、主演女優に3度ノミネートされながら1度も受賞していないグレン・クローズが、ついに受賞なるか、だが、『天才作家の妻 -40年目の真実-』という素晴らしい役を得て、素晴らしい演技を見せた彼女が受賞出来なかったら、運が悪すぎるというもの。対抗は『女王陛下のお気に入り』のオリヴィア・コールマンだが、アメリカ人のアカデミー会員はグレンを支持するはず。
主演男優賞は激太り対決!クリスチャン・ベールVSヴィゴ・モーテンセン
主演男優賞は、20キロ太ってチェイニー元副大統領を演じた『バイス』のクリスチャン・ベールと、14キロ太って愛すべきイタリア系運転手兼用心棒を演じた『グリーンブック』のヴィゴ・モーテンセンの激太り対決。ただ、ベイルは役作りで常に痩せたり太ったりしているから、20キロといってもさほど驚かないし(本当は凄いことだが)、チェイニー本人が嫌われている分、不利かもしれない。
では、助演男優賞と助演女優賞は?
助演男優賞は、『グリーンブック』のマハーシャラ・アリで決まりだろう。他の候補者もそれぞれ素晴らしい演技を見せているが、彼に比べて役が小さすぎる。助演女優賞は、『女王陛下のお気に入り』のエマ・ストーンとレイチェル・ワイズのどちらかだろうが、評が割れたら『ビール・ストリートの恋人たち』のレジーナ・キングが漁夫の利を得るかもしれない。
日本映画『万引き家族』『未来のミライ』と、日本が舞台のウェス『犬ヶ島』
日本映画は、大方の予想通り、第71回カンヌ映画祭最高賞パルム・ドールの是枝裕和『万引き家族』が外国語映画賞に、細田守『未来のミライ』が長編アニメーション部門にノミネートされた。日本関連で言えば、日本を舞台にしたウェス・アンダーソンの『犬ヶ島』も長編アニメーションと作曲賞の2部門にノミネートされている。ただし、今回は外国語映画賞に『ROMA/ローマ』という、とてつもなく強い映画があるし、長編アニメーション部門も伝統的にディズニー・ピクサーが強いので、受賞しなくても日本人はがっかりしないように。
さて、以上は私の予想だが、結果は2月24日夜(日本時間25日朝)ハリウッドのドルビー・シアターで発表される。今年はケヴィン・ハートのドタキャンで司会者不在の変則授賞式になるようだ。受賞結果にも波乱があるかも?
文:齋藤敦子