トンデモ系サメ映画の総本山アサイラムの本領発揮!
サメ映画史上もっとも莫大な予算を投じて作られたアドベンチャー・パニック映画の一つ、『MEG ザ・モンスター』(2018年)。同名の小説を原作に持つこのサメ映画は、90年代から幾度となく映像化が企画されてきたものの、諸事情により頓挫を繰り返し、結局2018年まで完成することはなかった。しかし、ようやくできあがった本作は、それまでの鬱憤を晴らすかのように大ヒット。サメ映画の歴史に残る興行収入を記録してみせた。
そんなエピソードとは一切関係ないが、世に大作が出るとあれば、とりあえず便乗して似たようなモックバスターを作ってみせるのが、アメリカの映画会社・アサイラムである。そうでなくとも『シャークネード』シリーズ(2013~2018年)や『メガ・シャーク』シリーズ(2009年~)などのトンデモ系サメ映画を得意とする彼らが、この機に乗じぬはずがなかった。
公開時期を合わせてアサイラム社が製作したサメ映画は、『MEGALODON ザ・メガロドン』(2018)。原題もストレートに『MEGALODON』だ。なお国内盤の装丁では、“MEGALODON”のタイトルロゴの内“ALO”の三文字部分を小さくして、“MEG”とついでに“DON”の部分を強調している。これはまたなんらかの小細工か、それとも単にデザイン的な都合なのか定かではないが……とりあえずジャケットの構図は、あからさまに本家『MEG ザ・モンスター』に被せてきている。
それはさておき今回は、この『MEGALODON ザ・メガロドン』について紹介していこう。となお、本作とは別に『メガロドン』(原題:『MEGALODON』)というサメ映画が2002年に公開されている。一応、間違えないように注意しよう。
なぜ出た!? 主演はタランティーノ作品の常連マイケル・マドセン!
『MEGALODON ザ・メガロドン』の監督はジェームズ・トーマス。彼は、過去に同じアサイラム製アクション映画である『トゥームインベイダー』(2018年)や『ウォーズ・オブ・ギャラクシー』(2019年)を手掛けている。どちらとも決して最高とは言わないが、最低とも言えないラインのモックバスターである。
もう一人、主人公のキング大将を演じるのはマイケル・マドセン。アクション映画を中心に幅広く活躍している彼は、主に『レザボア・ドッグス』(1991年)のMr.ブロンドとして、あるいは『キル・ビル』Vol.1~2(2003、2004年)や『ヘイトフル・エイト』(2015年)で毎度、独特の存在感を醸し出している俳優だ。
ハワイ沖の深海。誰の目も届かぬ奈落の底で、南太平洋通信ケーブルを狙うロシアの潜水艦が、密かに掘削作業を行っていた。だが、船員を指揮するイワノフ艦長の強引な采配によって、潜水艦に異常が発生。さらには海底を掘る際の轟音と亀裂によって、地底に眠っていた太古の巨大ザメ“メガロドン”が覚醒してしまった。
早速その凶暴性を発揮したメガロドンの牙によって、瞬く間に潜水艦は沈没。冷徹極まりないイワノフ艦長は、海洋生物学者のヤナと、操舵手を務めるミハイルの二人を引き連れ、残りの船員をまとめて見殺しにすることで辛くも生き延びる……。
一方、同じ海域を通りかかった駆逐艦・ショーでは、アメリカ合衆国の誇る数多くの海軍士官候補生たちが、引退を間近に控えたキング大将や、艦長として指揮を執るスティーパー大佐の下で鍛錬に励んでいた。だが、そこで一同は偶然にも、機能停止したロシアの潜水艦をソナーで探知。海軍所属のリンチ中佐は、最新鋭の小型潜水艦・ベルを操縦して、見事にイワノフ艦長を含む生存者三人を救出する。しかし、任を果たして浮上するベルの行く手に立ちはだかるのはやはり、血に飢えたメガロドンであった……。
小型潜水艦・ベルごとメガロドンの口に飲み込まれ、身動きの取れなくなったリンチ中佐。この前代未聞の状況を前に、信念の違いから対立するキング大将とスティーパー大佐。そして、混乱に乗じてなにやら脱出を目論むイワノフ艦長。様々な思惑が交差する中で、大自然の生んだ殺人マシーンが、暴走を開始する……。
さすがアサイラム! 迫力満点の巨大サメが終始大暴れ……しない!?
この『MEGALODON ザ・メガロドン』は実にコテコテの、昔懐かしきアクション映画めいた雰囲気をほのかに漂わせている。すなわち、ここぞというタイミングで主要人物が愛国的なスピーチを始めたり、独断専行や命令違反の目立つ主人公が、自省や成長もないままに結果的に成果を出して許されたり、決め台詞とするにはいささか長く、あまり印象に残らない言葉を主要人物がクライマックスの場で吐き捨てる……というような一連のありふれた要素が、全編を通して詰まっているのだ。
とはいえ、それだけならば致命的な欠点のようにあげつらう必要もないだろう。むしろその手の“お約束”は、そもそもが低予算早撮りで“クリシェ”上等のサメ映画というジャンルにおいて、一種の愛嬌として受け入れられる余地さえある。問題は、本作が『MEGALODON』の名を冠しておきながら、メガロドンをよそにもっぱら“ロシア工作員とアメリカ海軍の攻防”のほうに尺を割いていることだ。
本作に登場する、やたらゴツゴツと角張った造形のメガロドンは、話の合間にちらりと顔を覗かせるだけで、たいした活躍は見せてくれない。その代わりに出張ってくる敵役はイワノフ艦長を筆頭とする三人のロシア人だが、これといった見せ場も無いに等しいため、どうも全体的にダラダラとした印象がぬぐえない。よって本作は、表題通りの“メガロドン”に期待していると、とんでもない肩透かしを食らうことになるだろう。
色々な意味でアサイラムらしいサメ映画ではある。ただし、『シャークネード』シリーズや『メガ・シャーク』シリーズのような瞬間最大風速はなく、良く言えば「一定のペースで安定している」、悪く言えば「単調でフックに欠ける」ため、本作もまた「人を選ぶ」一本にはなるかもしれない。もしあなたがレンタルショップを訪れた際に、本家『MEG ザ・モンスター』がすべて貸し出されていたという場合には、本作の鑑賞を検討してみるべきだろう。
文:知的風ハット
『MEGALODON ザ・メガロドン』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年7月放送
『MEGALODON ザ・メガロドン』
ハワイ沖で沈没したロシア潜水艦を発見したアメリカ海軍駆逐艦。潜水艇で救助に向かったリンチ中佐らは絶滅したと思われていた巨大な古代鮫メガロドンに遭遇、潜水艇ごと飲み込まれてしまう。潜水艇の救出、ハワイ本土への被害を食い止めるため、兵士たちは史上最強のモンスターに壮絶な戦いを挑む!
制作年: | 2018 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年7月放送