ホテル勤務の自閉青年が仕掛けた“隠しカメラ”で殺人を目撃!
『ナイト・ウォッチャー』は、ホテルの受付で夜勤として働くアスペルガー症候群(自閉スペクトラム症)の青年が、部屋にこっそり仕掛けていた隠しカメラで殺人現場を目撃してしまったことから始まるサスペンス映画。主人公のバートを演じるのは『レディ・プレイヤー1』(2018年)のタイ・シェリダン、彼がほのかに恋心を抱くアンドレアを『ブレードランナー2049』(2017年)のアナ・デ・アルマスが演じる。
限定的な空間、カメラによる覗き見、殺人に関わる人物の目撃という設定は、アルフレッド・ヒッチコックの『裏窓』(1954年)を彷彿させる。本作では、電源タップやリモコンの中に簡単に仕掛けられてしまう超小型の隠しカメラによる“のぞき見”に置き換えられているわけだ。さすがに堂々とのぞきをするわけにはいかない現代劇として、序盤は一味違うサスペンス映画の空気感で期待を煽る。
バートが隠しカメラを仕掛けるのは、他人のやり取りを観察することで自身のコミュニケーションスキルを向上させるため(実際に効果があるのかどうかは不明)。そのおかげで客室で起こった事件を目撃するわけだが、さすがにカメラの件を言うわけにはいかないバートは案の定、第一容疑者とされてしまう。この症状を持つ多くの人々と同じくバートは人並み以上に聡明ではあるものの、いわゆるコミュ障に見えるがゆえに、容疑者として怪しまれるのに十分な雰囲気を放ってしまっているのだ。
ベタなラブ・サスペンスかと思いきや……不可思議なシーンの連続!
そろそろ独り立ちしてもいい年齢の人間が、自身の抱える症状とどう付き合っていくか? 社会の受け入れ体制は整っているのか? という現実の厳しさを多少は描いているが、それが物語にあまり生かされていないのが残念。アスペルガーの症状はのぞき見設定を正当化する以外にはほとんど機能していないし、街の人々とのズレたやり取りをコミカルに描いたりするあたりも大いに問題アリだ。マイケル・クリストファー監督には同じ症状を持つ親戚がいるらしいが、それなのになぜこの脚本が通ってしまったのか不思議である。
その割に、バートとアンドレアのご都合的なイチャコラシーンにそこそこの時間を割いていて(アルマスのトップレスまで!)、これは監督の個人的な趣味なのでは……? と穿ってしまうレベル。アンドレアは非モテ男子からすると理想のミューズのように振る舞うが、バートと同じ症状を持つ弟がいるという設定も薄っぺらい。ただ、このまま妙なラブストーリーに終始したらどうしてくれようか……という不安は的中しないので、そのあたりはご安心を。この2人が出演するだけあって、物語の骨組み自体は決して悪くないのだ。
それにしても、タイ・シェリダンとアナ・デ・アルマスという猛烈に旬の俳優たちを起用しておいて、よくもここまで謎い映画が作れたものだなと逆に感心してしまう。当然ながら2人の存在感に救われている部分は大きく、ヘレン・ハントも(ヘレン・ハントであるという)さすがの重厚感で母親役を好演している。ただ、せっかくジョン・レグイザモをキャスティングしたのに、人情味ある刑事という以上の魅力を発揮させていないのは残念。捜査らしい捜査すら描かれないのは、もはやサスペンス劇として破綻しているのでは……。
視点を変えればカルトな味わい? 悲哀と狂気の“ほころび”を楽しむべし
しかし、最後の最後までカメラによるのぞき見によってしか進展しないという決定的な“ほころび”を甘んじて受け入れると、急に“異常な作品”としての歪んだ魅力が浮き出てくる。アスペルガーの症状としては共感性の欠如がよく知られているが、距離感が異様に近いアンドレアにやさしくされただけで「彼女のためならエンヤコラ」モードになったバートが、相手の気持を一切慮らずに暴走してしまうところなどは、悲哀と狂気を内包していてたまらない。
そもそも隠しカメラをせっせと仕掛ける時点で完全にアウトな主人公であり、もっと禍々しい男性として描かれる可能性もあっただろう。現代のモラルに合わせるという部分では失敗しているものの、シェリダンの顔立ちは時代設定にとらわれない魅力もあって、おかげで往年のサスペンス映画のような趣を醸し出している。
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最終的にはアンドレアのご都合的な行動にも(一応)納得できるようになっているし、『ノック・ノック』(2015年)を彷彿させる悪女な雰囲気もチラリ。次期ボンドガールとして出世街道まっしぐらのアルマスをじっくり拝める、観ておいて損はない作品だ。
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『ナイト・ウォッチャー』はヒューマントラストシネマ渋谷「未体験ゾーンの映画たち2020 延長戦」で2020年7月17日(金) より公開
『ナイト・ウォッチャー』
アスペルガー障害を抱える聡明な青年バートは、ホテルで夜間受付の仕事をしながら自身のソーシャルスキルを向上させるため、秘密裏に客室にカメラを仕掛け、客の行動を記録している。ある夜、バートが勤務中に殺人事件が起こる。女性客が殺害されたその事件でバートは第一容疑者になってしまうが、客室に仕掛けていたカメラの映像が彼の無実を証明していることをバートは明かせない。警察の捜査が進む一方で、バートは美しい女性客アンドレアと知り合う。交流を深めていく中、バートはアンドレアが殺害ターゲットにされていると気づき、彼女が次の犠牲者になる前に、犯人による犯行を何とか阻止しようとするが――。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
ヒューマントラストシネマ渋谷「未体験ゾーンの映画たち2020 延長戦」で2020年7月17日(金) より公開