“強い運び屋”の映画といえば、ジェイソン・ステイサムの『トランスポーター』シリーズ(2002年~)などを想起するが、『ザ・クーリエ』の主人公はあの可憐なオルガ・キュリレンコである。本作は「ただの運び屋だと思ってた女性が実は元特殊部隊員でした」というベタな設定ながら、シリアス一辺倒ではないウィットなやり取りも楽しめるサスペンス・アクションだ。
主人公は“最強の”運び屋! だけど逆境すぎてフルボッコ!?
しかしこの『ザ・クーリエ』という映画、オルガに妙に厳しいというかなんというか、これほど「え、死んだ?」みたいな目に遭う主人公はそうそういないのでは……? と思ってしまうほど肉体的に過酷な展開が続く。犯罪組織のボス(ゲイリー・オールドマン)が狙う重要な証人を守る羽目になるわ、早々に包囲・封鎖されたビルでサバイバル状態に陥るわ、そもそも主人公なのに役名が“運び屋”だわ、とにかくオルガがしんどい目に遭いまくるのである。
特に中盤までは、運び屋自身が予期せぬ事態に翻弄されながらも苦境を攻略していくという展開なので、ヒリヒリした緊張感もあって全く飽きさせない。しかも運び屋自身にはあんまり悲壮感がないというか、証人ニックを演じるアミット・シャーとの凸凹なやり取りで、めちゃくちゃピンチな状況でも笑いを取りにくるものだから、なんとも不思議な味わいを醸し出している。ただ、これは壮絶な過去を持つ運び屋を悲壮感のあるキャラにしすぎないための演出だろうし、深いトラウマを抱えた主人公のキャラ造形としても非常にバランスが良い。
ところでアミット・シャーといえば、デイヴ・バウティスタ&ピアース・ブロスナンの『ファイナル・スコア』(2018年) で意外な活躍を見せるスタジアム職員を演じていた人で、戦闘力ほぼゼロの薄弱ギーク男子を演じさせたらピカイチ! ということを本作で改めて証明している。ちょっとどうかと思うくらい非力なのでもう少しがんばれよと言いたくなるが、単独行動になった運び屋の“本当の強さ”を引き立ててもいて、最後に少しだけ意地を見せるので憎みきれない。
オルガの本格スタントは一見の価値あり! ゲイリー・オールドマンも貫禄たっぷり
名優オールドマンの隻眼どチンピラぶりも明快で、どっしり構えた省エネ演技……もといベテランの貫禄を見せつけてくれる。彼のシーンはドタバタした現場との対比なのか過剰に優雅に描かれていて、運び屋の頑張りと反比例してどんどん立場が危うくなっていき、徐々に小物感が漏れ出てしまうというオールドマンならではの名演技を堪能できる。それにしても劇中で全く移動しないので、そのうち観客にも存在を忘れられてしまうのではないかと心配になるほどの省エネ(以下略
サクサク展開と本格的かつ過激なアクション(ゴア描写あり)で、100分弱を文字通り駆け抜ける『ザ・クーリエ』。シンプルに格闘や銃撃戦などの暴力を楽しめて、過酷なスタントに挑んだオルガを心底応援できて、しかも登場人物が最小限なので頭がこんがらがることもないという、意外なほどクオリティの高い逸品だった。
『ザ・クーリエ』はヒューマントラストシネマ渋谷「未体験ゾーンの映画たち2020 延長戦」で2020年7月3日(金)より公開
https://www.youtube.com/watch?v=S2b_zax-620
『ザ・クーリエ』
シリア政府軍の壊滅作戦に参加した元特殊部隊最強の女。しかし、戦地で兄を失い、表舞台から姿を消し、血塗られた過去を償うように運び屋としてひっそりと生きていた。それから数年後のある日、彼女は配達中に武装した部隊に襲撃される。巨大犯罪組織のボス、マニングスが殺人事件の証人ニックを消す現場を目撃してしまったのだ。彼女は証人のニックを乗せてバイクを駆る。そして自ら生き残るために、過去と向き合い、再び銃を取る――。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
ヒューマントラストシネマ渋谷「未体験ゾーンの映画たち2020 延長戦」で2020年7月3日(金)より公開