シャラメとエル、週末のマンハッタンですったもんだの恋の行方は……?
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』は、2017年の『女と男の観覧車』から約3年ぶりとなるウディ・アレンの新監督作。既に完成からしばらく経っていたそうだが、アレン自身のゴタゴタもあって延期していたところ、やっとこさ公開される。
主演を務めるのは、グレタ・ガーウィグの最新作『ストーリー・オブ・マイライフ/わたしの若草物語』(2019年)でも、その端正なルックスと確かな演技力で好評を得ているティモシー・シャラメ。彼をはじめ、エル・ファニングやセレーナ・ゴメス、ジュード・ロウなど豪華キャストでも話題だ。
ニューヨーク郊外の大学に通うギャツビー(シャラメ)とアシュレー(ファニング)のカップルは、マンハッタンで週末を過ごす計画を立てる。きっかけはアシュレーの大学新聞の取材で、著名な映画監督であるローランド・ポラードにインタビューすることだった。生粋のニューヨーカーであるギャツビーはアリゾナ出身のアシュレーに対して、取材を早々に終わらせて地元のおすすめスポットをまわるプランを立てる。しかしニューヨークへ到着したものの、ポラードの取材から少しずつボタンがかけ違っていく……という男と女の群像劇。
シャラメが新たな魅力を見せる!? 日常の“ぎこちなさ”を積み重ねた味わい深い人間ドラマ
ティモシー・シャラメの出演作はいくつか拝見したんですが、魅力がいまいちわかっていなかったんですよ。どうしてもスマート過ぎるというか、綺麗すぎるんですよね、いい意味で。90年代半ばのレオナルド・ディカプリオのような、ちょっとだらしない感じの演技があればもっと魅力的なのにな、見てみたいなって思ってたところにコレです。
ティモシーがこんなにもアンチ・スノッブな姿を見せているのに、相変わらず地元の友達には小馬鹿にされるなんて痛快すぎる! かたやエル演じるアシュレーも、地方都市出身のお金持ちというキャラを利用した世間知らずぶりやミーハー具合で、おまけに自分の美しさには無自覚というダメ押しまで。
小気味良いブラックジョークを繰り返すやりとりも、スマートでテンポが良い。そこらへんは、何かが少し欠落した人々を嫌味なくユーモラスに描いたら一級品のウディ・アレンならではでしょう。ただ、アシュレーが自らを「シネフィルだ」と自称するシーンで出る例えが“黒澤明”だったり、フランク・シナトラや『風と共に去りぬ』からの引用は、ちょっと前時代的すぎじゃない? と思ったりもしたけれど、現代劇を描くにあたって今回はそういった“ズレ”も必要だったのかも。
また、複数のカットを集めてシークエンスを作り出すような演出も魅力的。ギャツビーが兄の家を訪ねるシーンでは、入り口、リビング、廊下など場所を変えながら会話を続けるのだけど、それはニューヨーカーらしいピンポンのようにリズムよく打ち合う会話とせっかちさを表現しているように感じた。
この映画は、生活の中で日常的に起こる違和感や物事がうまくいなかいぎこちなさを、“会話”を通して積み重ねた作品だと思う。人間は歳を重ねるにつれて角が取れていくものだけど、84歳になってもまだヒップな連中に対して静かに中指を立てるような表現をし続けるウディ・アレンに幸あれ。
文:巽啓伍(never young beach)
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』は2020年7月3日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラスト有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開
『レイニーデイ・イン・ニューヨーク』
大学生のカップル、ギャツビーとアシュレーは、ニューヨークでロマンチックな週末を過ごそうとしていた。きっかけは、アシュレーが学校の課題で有名な映画監督ポラードにマンハッタンでインタビューをすることになったこと。生粋のニューヨーカーのギャツビーは、アリゾナ生まれのアシュレーに街を案内したくてたまらない。ギャツビーは自分好みのデートプランを詰め込むが、2人の計画は晴れた日の夕立のように瞬く間に狂い始め、思いもしなかった出来事が次々と起こるのだった……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年7月3日(金)より新宿ピカデリー、ヒューマントラスト有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほか全国公開