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世界中で上映禁止の実録殺人鬼映画、37年を経て遂に解禁!! 不安と不快のどん底に叩き込む『アングスト/不安』

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ライター:#BANGER!!! 編集部
世界中で上映禁止の実録殺人鬼映画、37年を経て遂に解禁!! 不安と不快のどん底に叩き込む『アングスト/不安』
『アングスト/不安』©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

1983年に公開された『アングスト/不安』は本国オーストリアでは即上映打ち切りとなり、世界各国でも上映禁止や発禁になったという、いわゆる“封印映画”である。40年近く前の映画を2020年に観たらどれくらいヤバいのか? というタイムカプセル的なスリルも味わえるのだが、実際には“問題作”とか“衝撃作”などという言葉は逆に不適切なのでは……と頭を抱えてしまうような恐ろしいシロモノだ。

『アングスト/不安』©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

監督自身もヤバい人なのでは!? 狂気が詰め込まれた実録殺人鬼映画

本作は、オーストリアの連続殺人鬼ヴェルナー・クニーセク(現在も獄中?)による一家惨殺事件が題材であり、完全な創作でないことが救いになっているというか、むしろ心のどこかで安心感を覚えてしまう。同時に、監督のジェラルド・カーグルは本作の製作に全財産を投げ売って業界から引退したそうで、本気でヤバい人が何らかの思いに駆られて撮ってしまった映画ということで、不思議な重みも感じざるを得ない。

『アングスト/不安』©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

▶賛否両論の嵐! 稀代の変態監督ラース・フォン・トリアーが殺人鬼を描く超過激作『ハウス・ジャック・ビルト』は至高芸術か嫌がらせか!?

幼少期から残虐性を垣間見せていた主人公。複雑な家庭環境、大人たちによる体罰、性的行為の強要などなど、精神がひん曲がるには十分すぎる要素。16歳で母親をメッタ刺しにし(かろうじて存命)、逮捕後にサディズム的な性癖があることを打ち明けるが、医師は「彼の責任能力を否定する理由にはならない」と数年の禁錮だけで世に放ってしまった。案の定、老婆を撃ち殺して再び逮捕され、精神異常の訴えは退けられるも10年未満でシャバへ。本作で詳しく描かれるのは、このあたり以降に実際に繰り広げられた恐るべき惨殺事件である。

『アングスト/不安』©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

▶実在したシリアルキラーの殺人行脚を淡々ドライに描いた犯罪映画史に残る傑作『復讐するは我にあり』

実録っぽさ漂う映像は、モキュメンタリー風バイオレンス『ありふれた事件』(1992年)を彷彿させるものの、あの作品にあったアッパーな空気感は皆無。しかし、主人公の荒い息づかいと理解不能な行為をじっとりとフィルムに焼き付けたような奇妙なテンションの高さに、観る者の心拍数も上っていく。どちらかといえば、屍体愛好ロマンス『ネクロマンティック』(1987年)をうっかり観てしまったときの衝撃に近いというか、なんとも他に例えようがない怪作である。

『アングスト/不安』©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

▶腐臭が漂ってきそう!? 壁越しに死体と暮らした実在の男『屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ』

殺人鬼モノなのに妙にアーティスティックな“攻め”の映像がクセになる!

他の殺人鬼モノと一線を画している理由としては、ジョン・レノン「イマジン」のミュージックビデオを出掛けたズビグニェフ・リプチンスキが撮影監督を務めているのが大きい。リプチンスキはアナログ実験映像とでも言うべき創意工夫あふれるカメラワークを披露していて、低予算の自主映画だと思って観ていると意外なほどアーティーな映像を堪能できる。

▶実話! 史上最凶殺人鬼の素顔はIQ160のイケメン!? ザック・エフロンが狂演『テッド・バンディ』

もちろんテーマがテーマだけに、映像自体のトーンは最初から最後まで陰鬱だ。その中で、主人公が子どもじみた欲求を示すカットや唐突に始まる不条理な殺生をザクザクと立て続けに見せ、映像の質感以上に不安を煽ってくる。そんな凶行と凶行の合間に、プログレ~クラウトロックをベースに電子音楽の先駆者となったクラウス・シュルツが手掛ける無機質で硬質な音楽が使用されているのだが、逆に心拍数が上がってしまうのでまったく気が休まらない!

『アングスト/不安』©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

▶実在の美しき殺人鬼、17歳の堕天使を演じた魅惑の若手俳優  ロレンソ・フェロが『永遠に僕のもの』の魅力を語る

ガチのヤバい人にしか見えない主演のアーウィン・レダーは、実は名作『U・ボート』(1981年)に出演し、2003年には『アンダーワールド』で狼男の一人を演じたれっきとした俳優なので、そのあたりは安心してほしい。観客をゲンナリさせる嫌~な映像を撮らせたら右に出るものはいないギャスパー・ノエが「60回観た」と(不安になるくらい)絶賛しているのも納得の、万国共通“発禁”映画をスクリーンで堪能できるレアな機会をお見逃しなく!

▶鬼才ギャスパー・ノエが語る! 中毒必至の最新作『CLIMAX クライマックス』は即興映画!?

『アングスト/不安』©1983 Gerald Kargl Ges.m.b.H. Filmproduktion

『アングスト/不安』は2020年7月3日(金)よりシネマート新宿ほか全国順次公開

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『アングスト/不安』

実在の殺人鬼ヴェルナー・クニーセクが1980年1月に起こした、オーストリアでの一家惨殺事件。約8年の刑期を終えて予定されていた釈放の1ヵ月前、就職先を探すために3日間のみ外出を許された際の凶行と心理状態を冷酷非情なタッチで描写した実録映画。

制作年: 1983
監督:
出演: