• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • 「社会的にアウトの人を生んでしまった、ぼくたち自体を考え直す」大森立嗣監督が語る『MOTHER マザー』

「社会的にアウトの人を生んでしまった、ぼくたち自体を考え直す」大森立嗣監督が語る『MOTHER マザー』

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#BANGER!!! 編集部
「社会的にアウトの人を生んでしまった、ぼくたち自体を考え直す」大森立嗣監督が語る『MOTHER マザー』
『MOTHER マザー』©2020「MOTHER」製作委員会

『さよなら渓谷』(2013年)、『日日是好日』(2018年)を手掛けた大森立嗣監督の最新作『MOTHER マザー』。実際に起きたある少年による殺害事件をベースに、その少年・周平(奥平大兼)と母親・秋子(長澤まさみ)の歪んだ関係に焦点を当てた本作。

複雑な親子関係や、周囲の行政や福祉がなぜ彼らを救えなかったのかという、社会の中で見過ごされがちな厳しい現実に光をあてた大森立嗣監督に話を伺った。

『MOTHER マザー』©2020「MOTHER」製作委員会

「社会的にアウトになった人たちを生んでしまった、ぼくたち自体を考え直さないといけない」

―監督ご自身は実際の事件について、どういった印象をお持ちですか?

常識とか法律、モラルとか道徳みたいなもの、もっと言うと慣習みたいなものとか、あるいは物事をこうやって見ないといけないんじゃないかっていうような、いわゆる周りと同じ見方をしなきゃいけないというものに対しては、徹底的に信用しないようにしなくちゃいけないと思って生きてきてるんです。逆に、そうやって物事を見つめていたら映画を作っていないと思うんですよ。人が思うことがあって、それをどう受け止めていくかっていうことのほうが大事なんですよね。

ぼくだってある程度の常識のなかで生きてますけど、何かを押し付けるようなやり方は間違っている気がするんです。そうじゃなくて、いろんな人たちがいて、いろんな想いがあるなかで、ギリギリアウトかもしれないけど、その人にも「お前は一体何なんだ?」っていう眼差しを向けてあげないと、社会としては豊かじゃないと思うんです。

『MOTHER マザー』©2020「MOTHER」製作委員会

たとえば殺人犯がいるとして、法律的にはアウトで社会から疎外して、社会には参加しないでくださいっていう社会契約があるわけじゃないですか。でも、もし“より良い社会”を作ろうとするんだったら、そういう人たちを生んでしまった社会というか、ぼくたち自体を考え直さないといけないんじゃないかって。そういう風に物事を見ていないと、何か間違っちゃう気がしますね。いまは特に恐ろしいことが起きかねないかなって感じています。

撮影していて、長澤さんの演じる秋子が本当に何を考えているのか分からない表情をしてるんですよ。ぼくはそれが撮れたときがすごい嬉しいんですよね。長澤さんが、なんでその表情をしてるのかはわからないけど、絶対に何かを考えていて、映画としての積み重ねだったり、限られた情報をちゃんと自分のなかで取捨選択して考えているから出てくるんです。

『MOTHER マザー』©2020「MOTHER」製作委員会

脚本を書いているとき、最後に周平が言う“あるセリフ”を思いついたときには、自分のなかで何か踏み出せたかなという感覚はありました。相変わらず、そこまでたどり着くのに時間はかかりましたけどね(笑)。例えば、皆川猿時さんが演じる区役所の職員とか、夏帆さんが演じる児童養護施設の人とか、ある種の“社会的な側面”で周平を助けなければいけない人たちは、そこには辿り着けないんです。

『MOTHER マザー』©2020「MOTHER」製作委員会

当事者が社会とは別に感じてしまう、どんなに厳しい法律があろうが人を好きになって愛してしまうこととか、死ぬときに何を思うかは自由であるということって、この時代に人間でいるためにギリギリ許されていることなんじゃないかなって思ったときに、彼はすごくロマンティックに生きられていたんだと、ある種の可能性を感じるんですよね。これが、単に社会のせいにしている少年だったらダメだと思うんです。彼が自分で人のことをちゃんと好きになれているということに、人間としての可能性が見えてくる感じがあって、そこがものすごく好きな部分ではあるんですよね。

『MOTHER マザー』©2020「MOTHER」製作委員会

―作品を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。

秋子と周平の間には愛とは言い切れない何かもあって、ものすごくきつい部分も描かれています。社会からこぼれ落ちて、社会的に生きていけない親子のなかにでも、愛なんて言えないぐらいの、ささいな何かが見え隠れしてると思うんです。それをどういう風に観るかは……観る前にあんまりはっきり言いたくないかな(笑)。みなさんが、ある程度自分たちで選んで観に行くことで、この映画が観てくれた人の心に深く残っていくことになるのかなと思います。自分で考えて発見したものの方が、絶対心に残っていくと思うので。ものすごいギリギリまで攻め込んでいるので、そこをどう感じるのか、ぜひご覧ください。

『MOTHER マザー』は2020年7月3日(金)より全国公開

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

『MOTHER マザー』

シングルマザーの秋子(長澤まさみ)は、息子・周平(郡司翔)を連れて実家を訪れていた。その日暮らしの生活に困り、両親に金を借りに来たのだ。これまでも散々家族からの借金をくり返してきた秋子は、愛想を尽かされ追い返されてしまう。金策のあてが外れ、昼間からゲームセンターで飲んだくれていた秋子はホストの遼(阿部サダヲ)と出会う。

制作年: 2020
監督:
出演: