トマトが街を襲う『アタック・オブ・ザ・キラートマト』(1978年)、コンドームがアレを食いちぎる『キラーコンドーム』(1996年)、打ち捨てられたタイヤが不思議な能力で破壊のかぎりを尽くす『ラバー』(2010年)などなど、無機物が恐怖の存在となる(コメディ要素強めの)映画は一定の人気を得てきた。このたび日本に上陸した『キラーソファ』はそんな無機物ホラー映画の最新系であり、過去の無機物ホラーとは一味違った後味を提供してくれる怪作だ。
呪いのソファが人間を襲う! 以上!! ……とはいかない面白さ
そのタイトルどおり本作の見どころは、人をダメにするソファならぬ“自発的に人を襲うソファ”である。しかしこのソファ、背もたれ部分の留め具が目のようになっていて、そのつぶらな瞳はリラックマでおなじみサンエックスさんが商品化していてもおかしくないレベルの可愛らしさ。ところが、その正体は“ディブク”というユダヤ系に伝わる悪霊が憑依した、世にも恐ろしい呪いのソファだった!
みなさんご想像のとおり、この『キラーソファ』は基本的には笑って叫んでヒーヒー楽しめるポップコーン・ホラー映画だ。ただし、序盤から地味~に痛そうな描写をちょいちょい見せてくるので、血を見るのが苦手な人はご用心。ゴア描写はかなりチープだし予算の都合かハッキリ見せることはないものの、製作側の「痛がらせてやろう」「嫌な気分にさせてやろう」という心意気が漏れ出ていて、意外なほどズシンとくる。
チープだからこその“ヤダ味”は低予算ホラーの大きな魅力であり、呪われた◯◯が悲劇を巻き起こすことになる……というホラーのセオリーを踏襲していて安心感もある。呪いの対象をソファにした理由はまったく理解できないが、古めかしいソファのスプリングとリクライニング用のレバーなどなど、外面のクッションに隠された硬い金属パーツが人間を襲うという非常に嫌な“痛そうさ”は想像しやすいだろう。
『キラーソファ』© 2018 Mad Kiwi Films LTD, All Rights Reserved
お気軽コメディホラーと侮っていると……最後に予想外すぎる展開が!?
本作のメイン登場人物は、ダンサーでだめんずホイホイのフランチェスカとミュージシャン志望のマキシという、タイプは異なるが親友同士の女性2人。なぜか知り合った男が次々とストーカー化してしまう不思議な魅力を持っているフランチェスカにキラーソファもメロメロになったのか、関わる人間を惨殺していく。
しかも、普通のソファと違ってキラーソファくんは機動性がすさまじく、一度狙ったターゲットを屋外まで追いかけていくからタチが悪い。そしてソファに憑いた呪いの存在に気づいたラビの老人とブードゥーの魔術師が協力し、ソファの行方を探すことになる。
『キラーソファ』© 2018 Mad Kiwi Films LTD, All Rights Reserved本作は真面目に観る必要はまったくない、というかチープかつ強引な展開で真剣に観ようとする気持ちをガンガンに削いでくれる。ただしクライマックスからの、それまでの流れを完全に覆してしまう予想外の“ある展開”には、この監督もしかしてすごい才能の持ち主なのでは……? と深読みしたくもなってくるので、いろんな意味で侮れない作品だ。ともあれ、80分弱という尺も潔いサクッと観られるホラーコメディなので、ぜひ気軽に劇場に足を運んで鑑賞してほしい。
『キラーソファ』は、CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年1月放送
『キラーソファ』
フランチェスカは、事件に巻き込まれ行方不明になった知人の所有する一人掛けソファを譲り受けることに。だがそのソファは呪われていて、変わった男たちを魅了するフランチェスカに恋をしてしまう。殺人鬼と化したソファは彼女の身も心も独占しようと、家を訪れる人間に次々と襲いかかる! つぶらなボタンの瞳、快適な座り心地からは想像できない残忍な手口、そして想像を超える機動性。果たして悪夢のような恐怖から逃れることはできるのか?
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2021年1月放送