2020年を代表する1本にしてスパイク・リーの最高傑作!?
2020年を代表する1本だ。ちょっとまだ早いかもしれないけれど、そう言い切ってしまおう。『ザ・ファイブ・ブラッズ』は、『ブラック・クランズマン』(2018年)でアカデミー脚色賞を受賞したスパイク・リーの最新作。Netflix配信だ。ハリウッドのスタジオでは企画が通らなかったという。
予告編を見ると“ベトナム戦争もの”といったイメージだが、主な舞台は現代のベトナム。ベトナム帰還兵の黒人4人組が、再びベトナムを訪れる。目的の一つは、戦時中に隠した金塊を掘り返すこと。もう一つは部隊のカリスマ的リーダーだったノーマン(チャドウィック・ボーズマン)の遺骨を回収して、アメリカの戦没者慰霊施設に埋葬することだ。彼らの旅が、兵士だった頃のエピソードと並行して描かれていく。
題材としてはアクション・サスペンス系。しかし、そこはスパイク・リーである。(これまであまり映画で扱われることのなかった)黒人兵、黒人帰還兵のドラマは容赦なく“アメリカの罪”を抉り出す。主人公グループの1人は黒人なのに、トランプ大統領を支持していたりもする。PTSDに苦しみ、ランボーを「嘘の映画」と言い、ベトナムに恋人を残してきた者もいる。
この作品が現実の問題と地続きであることを強調する映像の数々
冒頭に登場するのは、モハメド・アリが徴兵拒否について語るインタビュー映像。キング牧師、マルコムX、アレサ・フランクリン、さらにはメキシコ五輪(1968年)での差別抗議行動「ブラックパワー・サリュート」も登場する。ドキュメンタリー映像と記録写真が随所に挿入されることで、スパイク・リーは『ザ・ファイブ・ブラッズ』が現実と地続きであることを強調する。
戦争中の回想シーンは16mmフィルムで撮影されたとのことで、映画の途中で画面サイズも変わる。戦争で人生を壊された男ポール(デルロイ・リンドー)の切なすぎる独白シーンには息を呑んだ。映像・編集テクニックの鮮やかさも含め、『ザ・ファイブ・ブラッズ』はスパイク・リーの真骨頂。新たな代表作であり最高傑作と言ってもいい。
奴隷制度、ベトナム戦争、構造的人種差別……現代につながる「アメリカの罪」
本作に出てくるモチーフ、そのすべてが“アメリカ”だ。アメリカは黒人たちに何をしてきたのか。黒人も込みでアメリカはベトナムに何をしてきたのか。その行為の根底にあるものは何か。そして“アメリカの罪”は現代を照らし、BLM(Black Lives Matter)運動にもつながっていく。本作の配信開始は2020年6月12日。まさに今、この時に見られるべき作品としか言いようがない。
見終わった後、マーヴィン・ゲイ「What’s Going On」が頭の中でいつまでも鳴り続ける。映画の余韻は体の芯に残り続ける。スクリーンで見たかった作品だ。だけどスマホで見ようとテレビ画面で見ようと、とてつもない体験であることは間違いない。
文:橋本宗洋
『ザ・ファイブ・ブラッズ』はNetflixで独占配信中
『ザ・ファイブ・ブラッズ』
ベトナム戦争からほぼ半世紀。ともに戦った4人の黒人退役軍人が、隊長の亡骸と埋められた金塊を探し出すために戦場へと舞い戻る。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
Netflixで独占配信中