巷で噂の伝説的ヒットマン……の正体は、理想のハードボイルドを極めたいだけの小説家だった! 齢78にしてジャンルを問わず活躍する名バイプレイヤー・石橋蓮司の19年ぶりとなる主演作としても話題の映画『一度も撃ってません』。渋みの効いた可笑しみを身にまとった石橋が、過剰にハードボイルドを気取って夜の街を徘徊する時代遅れの小説家を好演した、阪本順治監督の最新作だ。
日本映画界を代表する重鎮から若手まで錚々たるキャストが集結した本作から、石橋蓮司と岸部一徳による洒脱な“男の美学”が詰まった爆笑インタビューをどうぞ。
岸部「阪本監督で蓮司さんが主演? 当然参加します」
―最初に脚本を読まれたときのご感想は?
石橋:懐かしさを感じました。昔はこの手の物語は沢山ありましたが、いまはあまり見かけなくなりましたね。
岸部:私が子どものころに観ていた“映画の世界”を感じました。自分が俳優になってからは、このような物語とは出会いませんでした。誰がこの脚本を演じるかによるんでしょうが、石橋蓮司さんが演じる想定で読むと成立する物語だと思いましたね。まずは参加したいと思いました。
―阪本順治監督から今回の企画についてどんなお話があったのでしょうか?
岸部:阪本監督から直接オファーがくる場合や、または脚本があって「監督は誰ですか?」と聞いたときに「阪本監督です」というのが従来の流れですが、今回は阪本監督が蓮司さんを主演で作品を作ろうというところから始まっているので、やるとかやらないとかではないです。
石橋:(笑)。
岸部:当然参加します。大勢の人たちが面白いと思って集まっていますが、阪本監督は面白いだけで終わらせない監督ですね。“作品”に仕上げる力がある。どうなるのかが面白いところですね。
石橋:阪本監督から招かれて、この企画を聞いたときは「どうぞ、おやりください。私の力を貸しますから」という感じでした。阪本監督は脚本を映像化するのに長けた監督です。現代に求められているような作品を作り上げますね。映画作家としての阪本監督の力は相当のものじゃないかと思っています。
石橋「寛 一郎には『俺を時代遅れのガラケーのようにバカにしてくれ』と言いました。この映画はそれぐらいで丁度いい」
―世代の異なる俳優陣が集結していますが、その空気感はいかがでしたか?
石橋:まず寛 一郎に関しては「この映画が成立するかはお前にかかっている」と。つまり、俺なんかを「バカだ」と言ってくれるぐらいに、ガラケーのように時代遅れにしてくれないとリアリティがないから、会うたびに「頼むな」と言っていました。それが見事にあいつにバカにされて、腹が立つぐらいでしたね(笑)。
岸部:(笑)
石橋:途中で「何だてめえこの野郎」って言ったけど(笑)。腹立つぐらいでしたけど、それぐらいがこの映画ではいいんです。「あなたたちの時代の人はいらないんです。そういうところ直したらいかがですか?」と、ぜひそういう風に寛 一郎くんには接してもらいたかったので。(柄本)佑なんかは、面白がりや。それはお父さんとの血の繋がりもあるし、俺はお父さんとも長くやっているから、この作品を俺やお父さんたちとは違う土俵に持っていくという意気込みでくるから、すごく素敵でした。
―うかうかしていられない、という感じでしょうか。
石橋:そうだね、決着はつけたいね(笑)。バカにされたままじゃ身も蓋もねぇよという感じです。でも、それぐらい見事にやってくれました。本当にホッとしています。
岸部:寛 一郎とか佑が若い世代の代表選手だとすると、普段から彼らとぶつかる機会がないんです。蓮司さんも僕も70代で、普通はおじいさんで、枯れていって、そのへんに置いといて日向ぼっこをするような映画が多いんですけど、そういうところじゃないところで生きている人がいると。それが今回の俳優・石橋蓮司さんが演じた役で、そこに向かって若い人たちが思い切ってやってみたいことをやっている映画、という気がしますね。
彼らにとっては貴重な機会だし、財産になると思います。僕は憧れの石橋蓮司さんと共演できたし、僕からすると蓮司さんも、大楠(道代)さんも、桃井(かおり)さんも出会ったときのこととか、色んなことが重なってきて、いま一つになってやっているんです。また一緒にできる、こんな幸せなことはない。この歳になって実現するんですから、阪本監督には感謝しないといけないな。
石橋「どうしても“小細工”を入れたくなる(笑)。でも今回はそうしないほうがいいかなと」
―撮影中、特に印象深かったことは?
岸部:蓮司さんと一緒に演じて、この人の本当の凄さ、力が見たいな思っていたんですが、今回は「男の生き方の二枚目はこうなんだよ」と最初から最後まで通されていて、それにまとわりついていた感じだったので、土台の柱が見事に通されていましたね。そこが凄かった。そのおかけで全てが成立したと思います。
石橋:二枚目なんだって(笑)。カッコつけて生きているので、どうしても役者はそこでつぶしをかけたくなるもので、どこかでつまずいてやろうとか思うんですよ。そうするとダメ。今回はずっと、それを“やらないこと”の可笑しさの方がいいかなと。つぶしをかけてしまうと、保障をかけてしまうことにもなる。この人物は“ただカッコつけているだけ”という説明になっちゃうんです。だから結果として「お前コケてるよ」となればいいなと。変なところで小細工を入れない。
岸部:小細工、入れたくなるでしょ。
石橋:入れたくなるんだ(笑)、どうしてもね。コップの一つでも落としたいんだよ。でも、今回はそういったことをやらない滑稽さの方がいいかなって。(岸部が演じた)石田と会う長いカウンターのバーのシーンは、あれが俺たちのダンディズムの原型だよね。シュッとタバコをつけるときに、失敗して“アチチ”とかやってもいいんだけど、やらない(笑)。マティーニを出されて「それ何?」と聞いちゃダメ。そこでやっていたら初っ端から終わってしまう。
岸部:蓮司さんはカッコつけてるのが似合うんですよ。映画は終わったのに、まだずっと続けているんじゃないのかと(笑)。
―地下のバー「Y」のセットにはどんな思い入れがありますか?
石橋:まさに60年代、70年代のゴールデン街の雰囲気そのまんま。ただ、もっと激しかったかもしれない。とにかく懐かしかったな。映画や演劇、詩、写真などの文化があそこから沢山生まれたんだ。ゴールデン街なくして、文化はなかったかもしれない。
『一度も撃ってません』は2020年7月3日(金)より公開
『一度も撃ってません』
大都会のバー「Y」で旧友のヤメ検エリート・石田や元ミュージカル界の歌姫・ひかると共に夜な夜な酒を交わし、情報交換をする。
そう、彼は巷で噂の“伝説のヒットマン”だ。
今日も“殺し”の依頼がやってきた――。
が、しかし本当の姿は……ただの売れない小説家。妻・弥生の年金暮らし、担当編集者の児玉からも愛想をつかされている。
物語のリアリティにこだわり過ぎた市川は“理想のハードボイルド小説”を極めるために、密かに“殺し”の依頼を受けては、本物のヒットマン・今西に仕事を頼み、その暗殺の状況を取材しているのだった。
そんな市川に、ついにツケが回ってきた。妻には浮気を疑われ、敵のヒットマンには命を狙われることに! ただのネタ集めのつもりが、人生最大のピンチ。
“一度も撃ったことがない”伝説のヒットマンの長い夜が、始まる。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
出演: |
2020年7月3日(金)より公開