2020年もホラー映画ブームは続く!?
ここ数年ホラー映画界は活況を呈しています。ざっと思いつくだけでも『IT/イット』2部作(2017~2019年)、『へレディタリー/継承』(2018年)、『ミッドサマー』(2019年)、『ゲット・アウト』(2017年)『アス』(2019年)『死霊館』シリーズ(2013年~)、リメイク版『サスペリア』(2018年)、リブート版『ハロウィン』(2018年)……と、見応えある作品が多い。
僕の記憶の中でホラー映画がブームだったのは1970~1980年代の終わりぐらいで、1973年に『エクソシスト』、1974年に『悪魔のいけにえ』、1978年に『ハロウィン』『ゾンビ』、1980年に『13日の金曜日』『シャイニング』、1981年に『死霊のはらわた』、1984年に『エルム街の悪夢』、1988年に『チャイルド・プレイ』……いまなお語り継がれる(そしてリメイクされる)ホラーの名作が多い時代です。
もしかすると、子どもの頃にホラーの洗礼を受けた世代(このへんのホラーはレンタルビデオ店でも鉄板の人気なので)が映画製作の一線に立つようになって、かつて好きだったようなホラー映画を再び作り始めているのかもしれません。
『クワイエット・プレイス』の脚本家コンビ監督&イーライ・ロス製作!
今回ご紹介する『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』は、まさにそれ。監督たち(共同監督なので“たち”です)が自ら「本作は1970~1980年代のスラッシャー=殺人鬼映画へのオマージュ」と明言していますから。
なお、本作の監督コンビは昨年話題をよんだ『クワイエット・プレイス』(2018年)の脚本家コンビ(ブライアン・ウッズ&スコット・ベック)です。
プロットは極めてシンプルで、「ハロウィンの夜に若者たちが訪れたお化け屋敷は、本物の殺人鬼たちが運営していた!」というもの。アメリカではハロウィンのシーズンになると、夜の遊園地でホラー関連のイベントが開催されたり、町のいたるところに仮設のお化け屋敷がオープンするようです。まさに、そうしたお化け屋敷が本物の恐怖の館だったわけです。
お化け屋敷の中に本物の怪人が紛れ込んでいた、という映画は過去にもありました。有名なのは『悪魔のいけにえ』のトビー・フーパー監督によるカルト作『ファンハウス/惨劇の館』(1981年)。最近では『IT/イット “それ”が見えたら、終わり。』でも、ペニーワイズが遊園地の中の鏡の迷路に現れて少年を襲います。また、アトラクションの出し物が恐怖の存在になるというパターンなら、テーマパークのロボットが人間に襲い掛かる『ウエストワールド』(1973年)、行動展示されている恐竜が暴走し人々に牙をむく『ジュラシック・パーク(ジュラシック・ワールド)』シリーズ(1993年~)があります。
しかし、本作は殺人鬼たちがたまたま遊園地にいたのではなく、またお化け屋敷のシステムが故障して若者たちに危機が迫るのではなく、最初から人々を殺すために遊園地を運営していたというのがミソです。
そういう意味で言うと、宿泊したホステルはとんでもないところだった! という『ホステル』(2005年)、伝統のお祭りは恐怖の祭典だった! という『ミッドサマー』に通じる怖さがあります。なお『ホステル』の監督イーライ・ロスは本作のプロデューサーを務めています。
ホラーが苦手でも大丈夫! 自粛明けの“ホラー初め”に最適!!
というわけで、絶望的な空間の中で殺人鬼たちが襲撃してくるわけですが、彼らはこのお化け屋敷の演者でもあるので、みんなホラー怪人の格好をしています。
『悪魔のいけにえ』のレザーフェイスもどき、『スクリーム』(1996年)のゴーストもどき、悪魔、魔女、ゾンビ、そしていまやホラー怪人といったら欠かせない存在となったピエロ。つまり、仮面をかぶった殺人鬼たちが若者たちを襲う、という展開になります。ここが往年のスラッシャー=殺人鬼映画へのオマージュというわけですね。トラウマをかかえた女主人公が怪人どもに立ち向かうというのも、かつてのスラッシャー映画の定番ともいうべき展開で、いつしか彼女を応援したくなるでしょう。
そして観ているうちに、なんとなく『クロール -凶暴領域-』(2019年)を思い出しました。あの作品も「嵐と洪水で閉じこめられた家にワニが侵入してくる」という一言で語れるシチュエーションの中で、ワニと主人公たちの息詰まる戦いを描きますよね。本作もワンシチュエーションで、あとはどれだけドキドキさせる見せ場を盛り込めるか、という構成になっています。
ワニが人を襲うのは本能であるのと同じように、この殺人鬼たちがなぜこんなことをするのか? という部分に特に理由は語られません。“殺人鬼だから”としか言いようがないのです。観ている間に体がかなりこわばり、とても怖がらせてくれる映画ですが、必要以上に残酷な描写はありません(あくまでも“必要以上に”です。十分グロいシーンはあります笑)。
『へレディタリー/継承』『ミッドサマー』『サスペリア(リメイク版)』ほどトラウマにはならないし、『ゲット・アウト』『アス』ほど後をひく薄気味悪さはない。単純に「来るぞ、来るぞ……来たあああ!」と楽しめるホラーです。ひさしぶりの映画館で“ホラー初め”をするには最適の映画でしょう。
文:杉山すぴ豊
『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』は2020年6月12日よりTOHOシネマズ系列ほかにて全国公開
『ホーンテッド 世界一怖いお化け屋敷』
米イリノイ州に住む大学生ハーパーは、ルームメイトに誘われるままパーティに繰り出す。せっかくのハロウィンの夜、お化け屋敷に行ってみよう――6人の大学生たちは町外れの街道沿いに建つ“究極のお化け屋敷”という名のアトラクションへ。同意書にサインし、ルールに従って携帯電話を入り口に預け、ドキドキしながら中へと入っていく。最初のうちは肝試し気分だったが、ひとりが腕を負傷したことで状況は一変。出口は見つからず、そればかりか惨殺死体が転がり始めた。そう、この館はマスクを付けた殺人鬼たちが殺しのためにつくった真のホラーハウスだった――
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年6月12日よりTOHOシネマズ系列ほかにて全国公開