『帝一の國』(2017年)『新聞記者』(2019年)といった話題作や、再生回数5億回を突破した米津玄師のミュージックビデオ「Lemon」の撮影監督を務めた今村圭佑の長編監督デビュー作品『燕 Yan』が、2020年6月5日(金)より公開中。日本人の父親と台湾人の母親の間に生まれた青年が、自らのアイデンティティを求めて台湾・高雄を旅する物語だ。
母(一青窈)は弟の燕(水間ロン)を日本に残し、兄の龍心(山中崇)を連れて故郷の台湾に帰郷した。「母に捨てられた」という辛い思いを抱えながら大人へと成長した燕。28歳になった燕は、父からある書類を兄に届けてほしいと頼まれて、20年以上会っていない兄を探しに台湾の高雄へ旅に出ることに……。「母はなぜ自分を見捨てたのか? 母や兄はなぜ手紙の一つも送ってくれなかったのか?」離れ離れになった家族それぞれが抱く苦しく切ない感情が紐解かれていく。
本作の主人公・早川燕を演じ、自身も日本と中国にルーツを持つ主演の水間ロンさんに本作への想いを聞いた。
「僕は日本人と台湾人 どっちだと思う?」
―この作品には企画段階から参加されたそうですね。
最初から参加させてもらっています。プロデューサーの松野恵美子さんが映画を作るというお話をされていて、自分がずっと想っていたことと共通点があったので、そういう流れから参加させてもらいました。制作側で関わることは初めてだったので本当に何もわからなくて、ただ見ていたって感じですけどね(笑)。
―主人公の燕はご自身の思い出なども盛り込んで作り上げたキャラクターだと思うのですが、どのように役にアプローチしましたか?
企画から関わらせてもらって、脚本には小さい燕が母親に「日本人のママが良かった」と言うシーンや家族で水餃子を食べるシーンなど、ぼく自身の生い立ちが反映されているところもあります。脚本作りの段階から燕というキャラクター形成をみんなで話し合ったので、そのなかで無意識的にというか、時間をかけて作られたものが奥底にあったので、“こういう風に演じよう”と考えたというよりも、その時間で培ったものを現場で出し合ったという感じですね。だからキャラクターに対して共感できる部分も多くて、自分のアイデンティティに悩んでいるところとか、かなり深くまで入り込めたんじゃないかなと思います。
―水間さんご自身は、そういったアイデンティティの悩みとどう向き合いましたか?
ぼくの場合は19歳のときに父親が倒れて、あまり二人きりで会話をするようなタイプの父親ではなかったんですが、そこではじめて深い話をしました。父親のルーツだったりとかを聞いて、自分自身のルーツやアイデンティティに向き合うきっかけになりました。そこから自分のなかで考え方が変わったんじゃないかなと思っています。
ぼく自身の経験もそうなんですが、この映画の最後のほうのシーンで燕がある少年に「ぼくは日本人なの? 台湾人なの?」って聞くシーンがあって、そこで彼は「どっちでもいいよ」って答えるんです。それがすべてですね。ぼくも本当に“どっちでもいい”と思っていて、どっちかに決める必要はないっていうことですかね。そういう風に思えば少しは楽になれますし、世界が広がるんじゃないかなって思います。
―共演の山中崇さんとのシーンはいかがでしたか?
もともと事務所の先輩で、プライベートでもお付き合いがあるんですが、すごく良くしていただいてます。でも共演しても、そこまで長い時間のシーンを共有したことはあまりなかったんです。崇さん本人のことはよく知っていたんですが、今回初めてガッツリ一緒にやってみて、俳優としてのすごさっていうのを体感しました。
―撮影監督としても有名な今村監督の印象はいかがでしたか?
今村監督のことはもともと知っていて、画もすごく好きですし、今村監督が撮ってくれたらスゴい作品になるんだろうなと撮影前から思っていました。現場ではどういう風に仕上がるか分からなかったんですけど、完成したものを観てスゴいと思いましたし、今村監督だからこそ出来上がった作品だと感じましたね。
現場でも本当にいろんな角度から撮影されました(笑)。あまり口数が多い方ではないんですが、カメラを持ったときは今村監督が何かを伝えてくる感覚がすごくありました。基本的には手持ちでご自身と一緒にカメラを動かすんですが、それを芝居しながら感じていました。何を求めているのかを感じられるタイプの監督ですね。表情や目線というよりも、カメラ越しに。カメラの動きなどから、そういうものを感じることはありました。
―台湾・高雄での撮影はいかがでしたか?
本当に暑かったです(笑)。5月の下旬だったんですけど40度ぐらいあったみたいで。やっぱり体力を消耗するので、ご飯の時間は楽しみでしたね。日本の現場とは違って、みんなで一斉に「ご飯食べまーす」って食事に入って、外のロケ地とかでも簡易的な椅子を台湾の制作部さんが用意してくれて。みんなでそういう所に座って一緒に食べるので、楽しかったです。しかも「明日は何が食べたい?」って聞いてくれるんですよ。だから「冷たいもの」って応えてました、冷麺とか(笑)。あとは、差し入れでいただいたスイカジュースの味が忘れられないですね。気温と疲れも相まって、メチャクチャおいしく感じました。
「この作品を観て、身の回りに無意識に引いている線を飛び越える勇気を持ってもらえたらうれしい」
―『モーターサイクル・ダイアリーズ』(2003年)や『イントゥ・ザ・ワイルド』(2007年)、『マイ・プライベート・アイダホ』(1991年)といったロードムービーがお好きだとお聞きしました。
旅することに憧れていたっていうのが大きいかもしれませんね。そういう作品がきっかけで、自分も旅をするようになりました。『モーターサイクル・ダイアリーズ』は本当にきっかけとして大きいです。当時は親のこともあったので、中国大陸を一人で回りました。今後もいろんな文化に触れたいなっていう憧れはすごくあります。
―最後に、この映画を楽しみにしている皆さんにメッセージをお願いします。
このような時期に劇場に来ていただいて、観ていただけることにすごく感謝しています。本当にありがたいです。先ほどお伝えした、燕が「ぼくは日本人なの? 台湾人なの?」とある少年に質問した際に、その少年が「どっちでもいいよ」と答えたセリフにこの映画の全てが集約されていると思っているので、観ることによって自分の身の回りに無意識に引いている線を飛び越える勇気を持ってもらえたら、うれしいなと思います。
『燕 Yan』は2020年6月5日(金)より新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺にて公開中。以降、全国順次公開!
『燕 Yan』
28歳の早川燕は父に頼まれ、ある書類を台湾の高雄に住む兄・龍心に届けることになる。燕の母は台湾出身で、彼が5歳の時に兄だけを連れて台湾に帰ってしまった。そのまま手紙すらくれずに亡くなった母に、自分は捨てられたとの想いを抱き続けていた燕は台湾行きに難色を示す。それでも渋々向かった高雄で、20年以上も離ればなれだった兄との再会を果たす……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年6月5日(金)より新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺にて公開中。以降、全国順次公開!