シルヴェスター・スタローンを有名にしたのは『ロッキー』(1976年)だが、不動のスターに押し上げたのは『ランボー』(1982年)だろう。“ランボー”という言葉は翻訳なしでそのまま世界に通用する。それほど世界中でヒットした。シリーズ物の特徴で、回を追うごとにアクションがパワーアップし、ランボーが無敵化していくが、1作目の『ランボー』は戦争後遺症や帰還兵の孤独といった社会問題が描き込まれた、異色のアクション映画だ。
非情な偏見と不条理な暴力をランボーが正当防衛でフルボッコ!
ベトナム帰還兵ジョン・J・ランボー(スタローン)が戦友を訪ねて山間の町にやってくる。しかし、親友はベトナムで使われた化学兵器のせいでガンになって死んでいた。町の保安官のティーズル(ブライアン・デネヒー。残念ながら2020年4月15日に81歳で逝去してしまった)は、流れ者のランボーを不審者扱いし町の外へ追い払おうとするが、反発して戻ろうとするランボーに腹を立て、公務執行妨害と凶器の所持で逮捕し、署に連れ帰って保安官助手たちに取り調べさせる。
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地下の取調室でサディスティックな扱いを受けるうちに、ランボーの脳裏にベトナムで捕虜になり拷問されたときの悪夢が蘇り、反射的に全員を倒し、通りかかったバイクを奪って山中に逃亡する。面子を潰された保安官は、ドーベルマンとヘリコプターの派遣を要請し、山狩りを開始。が、トラウトマン大佐(リチャード・クレンナ)にグリーンベレー隊員としてサバイバル技術を叩き込まれ、ベトナムのジャングルで何度もゲリラ戦を闘い抜いたランボーの敵ではなかった……。
原作はデヴィッド・マレルのデビュー作「一人だけの軍隊 ランボー」(1972年刊)。原題の『First Blood(ファースト・ブラッド)』とはボクシング用語で“最初の出血”、つまり“先に仕掛けること”。サディスティックな保安官助手アーサー(演じるのは名脇役でB級映画の監督でもあるジャック・スターレット)にヘリから銃で撃たれ、さらにヘリから落ちて死んだアーサーの敵討ちに保安官たちからも撃たれたことを指す。先に相手に仕掛けられたら、反撃しても正当防衛が成立する、という西部劇の決闘と同じセオリーだ。
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後にスタ&シュワの代表作を手掛けることになる製作会社の初ヒット作!
監督のテッド・コッチェフは1931年カナダ生まれ。テレビ映画や舞台演出を経て映画界に進出。1971年にオーストラリアで撮った『荒野の千鳥足』をオーストラリア代表としてカンヌ映画祭に出品、1974年の『The Apprenticeship of Duddy Kravitz(原題)』(日本未公開)でベルリン映画祭金熊賞受賞。『料理長(シェフ)殿、ご用心』(1978年)や『ノース・ダラス40』(1979年)といった軽妙なコメディで知られる彼が、なぜ『ランボー』の監督に抜擢されたのかは定かではないが、抜擢したのはレバノン出身のマリオ・カサールとハンガリー出身のアンドリュー・ヴァイナのプロデューサー・コンビだ。
『ランボー』は、二人が立ちあげた製作会社カロルコ・ピクチャーズの最初の大ヒット作となって、のちの『クリフハンガー』(1993年)などのスタローン作品や、『トータル・リコール』(1990年)や『ターミネーター』シリーズ(1984年~)などのアーノルド・シュワルツェネッガー作品を製作していくきっかけになった。
共演は、保安官役に本作で悪役に新境地を開いたブライアン・デネヒー、トラウトマン大佐役が評判になり、シリーズ3作および“ランボー”のパロディ『ホット・ショット2』(1993年)でも大佐役のパロディを演じたリチャード・クレンナ。他に、保安官助手ミッチ役で『CSI:マイアミ』シリーズ(2002~2012年)のタフガイ刑事ホレイショ・ケイン役で有名になる前の、若きデヴィッド・カルーソーが出演している。
筋肉の塊になる前の俊敏なスタローンのストイックなアクションが見もの!
主演のシルヴェスター・スタローンは1946年ニューヨーク生まれ。父親は美容師、母親は有名な占星術師。幼い頃に両親が離婚し、荒れた少年時代を送る。演劇を志してからも苦労を重ね、何度もオーディションに落ちた末に、ボクシングのヘビー級タイトルマッチ(モハメド・アリ対チャック・ウェプナー戦)を観戦したのがきっかけで、3日で脚本を書きあげ、自分を主役として売り込んだ『ロッキー』の成功で一躍有名になった。
本作でのスタローンは36歳。『ロッキー』のトレーニングもあり、すでに見事な筋肉をつけているものの、外見はまだブライアン・デネヒーの方が頑丈そうに見えるほど(大学時代アメフトの奨学生だったデネヒーの身長はスタローンより10㎝以上高い)。余計な肉がないぶん動きがしなやかで、特に山の中の場面で敏捷さが発揮されている。本作のランボーは、まだ戦争のPTSDとベトナム帰還兵への周囲の無理解に苦しむ青年であって、最強の戦士といった雰囲気はない。ラストで大佐の胸に顔を埋めて泣きじゃくる場面に驚く人は多いだろう(残念ながら、こんな影の部分はシリーズが進むと消え失せてしまうのだが)。
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見どころは、スタントマンを極力使わずにアクションをこなすスタローンの魅力にある(吐く息の白さを見てもロケの過酷さが分かる)。爆破やカーチェースの派手さはないが、舞台を山に限定したところも(“山では俺が法律だ”)、サバイバルナイフを活用し、手作りの武器で次々に敵を撃退していくところも、丁寧な描写で見せる。
長い髪を布で縛り、M60機関銃を軽々と操るランボー像はこの映画で誕生した。アクション映画ファンにとっては記念すべき第1作である。
文:齋藤敦子
『ランボー』はAmazon Prime Video他で配信中
シリーズ最新作『ランボー ラスト・ブラッド』は2020年6月26日(金)公開
『ランボー』
ベトナム時代の戦友を訪ねたランボーは、ある街の警官たちにからかわれ、虐待される。耐えかねたランボーは、あっという間に警官を叩きのめして逃走。近代兵器と多数の警官を投入して追う警察に対し、サバイバルの特殊訓練を受けたランボーはたった1人で立ち向かっていく。
制作年: | 1982 |
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