あの極悪麻薬王が高潔な国連職員にジョブチェンジ!?
大ヒットしたNetflixオリジナルシリーズ『ナルコス』(2015~2016年)で麻薬王パブロ・エスコバルを演じたワグネル・モウラが、同じくNetflixオリジナル作品『セルジオ:世界を救うために戦った男』で主役を務めた。
演じるのは、やはり実在の人物。国連人権高等弁務官のセルジオ・ヴィエイラ・デメロだ。麻薬王からのギャップがとてつもないが、しかし本作での演技も堂々たるもの。
コソボや東ティモールといった“現場”で問題解決、支援にあたってきたセルジオ。その最後の活動の場はイラクだった。2003年、バグダッドの国連本部が爆破テロの標的となる。映画では、瓦礫に押し潰されたセルジオの救出作業と、彼の過去の回想が並行して描かれていく。
「世界を修理する男」と呼ばれた主人公もヒロイックには描かない複雑で味のある作品
イラクでは米軍からの独立性を強調し、兵士たちの蛮行を許さない。どの国でも、その土地で暮らす人々への優しいまなざしを忘れず、同時に紛争の指導者たちとはタフに交渉していく。人呼んで「世界を修理する男」。このセルジオが持つ人間味とカリスマ性の両面を、モウラは見事に演じていると言っていいだろう。爆破テロに関しては、セルジオの“後悔”も描かれる。単に主人公をヒーローとして描くのではなく、複雑な味のある作品だ。
監督のグレッグ・バーカーはセルジオについてのドキュメンタリーも撮っており、対象への理解度も深いということだろう。本作は主人公の活躍だけでなく、家族との(あまりうまくいっているとは言えない)関係や、“現場”での恋愛についても描き出す。“人間・セルジオ”がテーマなわけだ。
恋愛も含めた人間ドラマにしたいというのは分かるとして、それでも映画のバランスとしては疑問が残る。恋愛模様がやけに長い。爆破テロで死の淵に立たされ、米軍と渡り合う以上のボリュームで彼女(アナ・デ・アルマス)とイチャイチャしているのである。ベッドシーンもけっこうじっくり。
それよりも、モウラ演じるセルジオのカリスマ、タフ・ネゴシエイターぶりをもっと見たかったと思うのだが。「それはニュースでもドキュメンタリーでも見られるので」ということか。ここは好みが分かれるところだろう。
文:橋本宗洋
『セルジオ:世界を救うために戦った男』はNetflixで独占配信中
『セルジオ:世界を救うために戦った男』
多くの人に慕われた国連大使セルジオ・ヴィエイラ・デメロ。どんなに厳しい現実に直面しても決して情熱と理想を捨てなかった彼が、イラクで絶体絶命の危機に陥る。
制作年: | 2020 |
---|---|
監督: | |
出演: |