初めてだけど何したらいいんだろう? からの、帰りは汗だく
―コスプレをしたお客さんだけでなく、普通の格好でも行けるんですか?
渡久山(以下、T):それは全然、普通の格好でも。それこそ『バーフバリ』公式のTシャツが出た後は、サリーとか着るほど熱心じゃないけど、コスプレのひとつとして公式Tシャツくらいは着て観に行こうかなっていう、花火大会に浴衣で行く感覚で来てくださるお客さんもいますね。
E:ユニフォームはないけれど……っていう感じで。どっちかっていうと音楽のライブを観に行って、一体感みたいなものも一緒に楽しむみたいな意図ができあがってきているのかな、という感触は見ていてありますね。作品の公式グッズとしてTシャツとかがあるときは、そういうものを着て観に行くっていう方もいらっしゃいます。でも、ほとんどの方は会社帰りとか、平日の開催のときは普通の格好でいらして、最初は「初めてだけど、何したらいいんだろう?」っていう感じですけど、帰りは汗だく、みたいな(笑)。そういう方もいらっしゃるので、何かが“外れる”んでしょうね。
K:“タガ”がね(笑)
―絶叫上映を楽しむコツは?
T:初見がいいのか、何度か見てる方がいいのか、っていうのはありますね。作品にもよるのかな? このあいだ、マ・ドンソクさん主演の『ファイティン!』(2018年)っていう韓国映画をやったとき、ポスターしか情報がなくて、それを見るとゴリッゴリの腕相撲なんです。もう腕相撲しかしない、みたいな(笑)。そういうアピールのポスターだったんですけど、全然そんなことはなくヒューマンドラマで、なんならほっこりして泣けるくらいの(笑)。いい意味で期待を裏切られ続けっぱなしの絶叫上映だったんで、自然と声援にも力が入るっていう。涙ぐみながら「頑張れー!」って(笑)、そういう感覚は楽しかったですね。
K:基本的にはリピーター向けのイベントとしてはやってはいるんですけど。
E:合いの手のタイミングとかありますもんね。
K:でも、なるべく自由に楽しんでほしいなと思っていて。我々のイベントでは「ここでこれ言わなきゃ」とか「このタイミングでサイリウムは赤」とか、そういうのはナシにしていて。アニメとか邦画だと、若干キャラクターの色が決まっていて「この人は水色」とかあるらしいんですけど、洋画のお客さんにはそういうのはあまり合わないので。
E:前説の注意事項というか導入でも必ず言いますけれども、絶叫上映という特別なイベントだからといって、必ず声を出さなきゃいけないとか、あれしなきゃいけないとか、これしなきゃ仲間はずれにされるみたいな、そういう同調圧力とか内輪的な楽しみ方っていうのは極力排除するようにしていて。本当に何もしないで、いつも通り静かに観ていただいてもOK。それはそれで、声援を送っている人とかサイリウム職人みたいな人もいますから、そういう方々と一緒に映画を楽しむっていうこともできますし。あとは気持ちのまま、応援したいキャラクターに声援を送る。まあ素直になって映画を楽しむっていうところに戻れれば、一番いいんじゃないかなという気はします。
―絶叫上映を始めるときに“ルール決め”みたいなものはあったんですか?
K:最初はわりとユルかったですけど……。
T:このあいだ部屋を整理してたら初期の頃の台本が見つかったんですけど、ペラ紙1枚でした(笑)。今は3枚綴じでやってるんですけど。
E:ルールだけで結構ある。
T:意外とガチガチなんですよね、ルール(笑)。
K:やっていくうちに「あれはやめた方がいいかな……」とか。
E:あとは「こういうことは言っておいた方がいいかな」とか。お客さんからの声とかも結構こまめにいただいていたので、そういうものを反映しながら付けたり減らしたりっていうのを繰り返して、今に至る感じですね。
―ルールとして設定したものは、例えばどんなものですか?
K:「悪口とかはやめよう」とか。
E:防止線を張ったという感じですね。
T:これを言っておけば絶対に迷惑行為は起きないだろうっていう。「ヤジとか誹謗中傷はNGです」的な。悪口、差別発言。
E:そういう公序良俗に反するような行動。あとは危険行為ですね。椅子の上に立ちあがったり、通路を走り回ったりとか。ひとつ枠を外すと、どこまでやっていいか? というのが、ある程度ライン引きをしておかないと、もしもの時に何かトラブルがあると色んなところに迷惑がかかってしまうので、その辺は慎重にやっていきました。
K:まあでも、たまたま公共の劇場の普通の上映でやらせてもらっているので丁寧にやってますけど、本当はね、ルールなんて……いらないんだけど……。
T:めっちゃ小声ですけど!?(笑)
E:本当に「自分が劇場持ってたらこんなもんじゃないぞ」っていう(笑)
T:あ、本当はもっとやりたいんですね。
E:一応「やらせていただいている」っていう、人様のお庭で遊ばせていただいている感じなので、そこはやっぱり迷惑をかけない。あとはやっぱり、初めて作品を観たお客さんとか、イベントに来ていただいたお客さんが「うわ、怖っ!」とか「こんなのあり得ない!」って言って、映画全体から退いてしまうようなことは避けたいっていうのは、なんとなくありますね。
―お客さんから言われて印象的だったことはありますか?
T:これは作品に関してなのかもしれないんですけど、『マッドマックス 怒りのデス・ロード』を観て、自分の働いていたブラック企業から抜け出したっていう人を2~3人知ってます(笑)。作品がそれくらい影響を与えるんだなって。
K:「映画ってこういう楽しみ方もあるんだ」とか「普段の劇場よりも自由で好きだ」とか、本当に上手く盛り上がると「人生最高の映画体験だった」みたいに言ってくださる人もちらほらいて、本当にありがたいです。
E:それは若い人に限らず、普段から割と映画をご覧になっているベテランというか、昔から映画をよく観てきた方々からもそういうご意見をいただくことがあるのは、すごくありがたいですね。
K:そうそう、よくお年を召した方から「昔の映画館ってこういう雰囲気だったんだよなあ」って言われることがあって。東映のやくざモノを観ながら「健さん!」「文太さん!」って言ってたよ、みたいな話もときどき聞くし。
T:昔の怪獣映画って、オープニングに監督とか美術とか(のクレジットが)出るじゃないですか。当時のガチなファンは、そこで拍手するんですって。
E:あ~、映画祭みたいですね。
―東京以外の地方でも絶叫上映は開催されていますか?
K:我々の活動としては、たまにお呼びがかかってやらせてもらっています。
E:遠征という形でお邪魔させていただくことが、今年も何度かありましたね。
K:あるいは企画書とか資料だけを送ることもあります。
T:あ、台本だけ送ったこともありましたね。劇場のスタッフさんにやってもらうっていう。
K:割と毎回オファーがあったら行ってるんですけど、僕ら別に元祖でもないし本家でもないので、皆さん自身がやったらいいと思いますよっていう話はしてるんですけどね。
E:むしろ我々に“お伺いを立てる”みたいな感じで来られても困っちゃうっていう。
T:あ、そういう方もいるんですかね?「ちょっとV8ジャパンに話通しとこう」みたいな(笑)
E:あからさまではないですけど、そういう感じで来られる方もいらっしゃるので、その辺は誤解のないようにしていただきたいなあと。我々は別にコピーライツを持っているわけでもないですし(笑)
K:もともとマサラ上映とか『ロッキー・ホラー・ショー』とか、あとアニメのイベント上映とかって昔からあることなので、たまたま我々は規模を大きくやっていますけど本当にたまたまで、みなさんも自分の好きなイベントをやって下さったらいいですし、必要とあれば我々の、あのー……色々と失敗してきてるんで(笑)、そういうの全部書き溜めてあるんで。
E:注意事項くらいはね。「これやっちゃいけないよ」とか「これやると事故るよ」みたいな(笑)。意外とそっちの方が重要だったりするんですよね。
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