• BANGER!!! トップ
  • >
  • 映画
  • >
  • パリ郊外のスラムが舞台の映画『憎しみ』ミュージカル化へ! 監督マチュー・カソヴィッツが語る“映画のリズム感”

パリ郊外のスラムが舞台の映画『憎しみ』ミュージカル化へ! 監督マチュー・カソヴィッツが語る“映画のリズム感”

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook
ライター:#佐藤久理子
パリ郊外のスラムが舞台の映画『憎しみ』ミュージカル化へ! 監督マチュー・カソヴィッツが語る“映画のリズム感”
POLYGRAM / Allstar Picture Library / Zeta Image

スラムに光を当てた『憎しみ』で社会現象を巻き起こしたマチュー・カソヴィッツ

現在40~50歳代のフランス人にとって、マチュー・カソヴィッツは特別な存在だ。1995年、パリ郊外(バンリュー)の街を舞台にした『憎しみ』でフランス映画界を席巻して以来、当時28歳のカソヴィッツは「恐るべき子供」として、同世代を代表する監督になった。

https://www.instagram.com/p/CACoTUrqji9/

それまで誰も顧みなかったバンリューの問題に光を当て社会現象を起こしつつ、純粋に社会派映画というわけでも、あるいはヌーヴェル・ヴァーグを継承する作家主義的な映画ともまた異なる作風で、独自の立ち位置を築いた。以来、『アサシンズ』(1997年)『クリムゾン・リバー』(2000年)、ハリウッドにわたって撮った『ゴシカ』(2003年)、実話を題材にした『裏切りの戦場 葬られた誓い』(2011年)などの話題作を撮るかたわら、俳優としても活躍を続け、その人気は衰えることがない。

『憎しみ』フランス公開当時のポスター

同じくバンリューを舞台にし、2020年アカデミー賞国際長編映画賞にフランスからノミネートされたラジ・リ監督の『レ・ミゼラブル』(2019年)は、現代の『憎しみ』と称されたほど。それだけカソヴィッツの作品はいまも大きな影響を与え続けている。

『憎しみ』から25周年を迎えた今年、ライブ・ミュージカル版を準備しているカソヴィッツに、電話インタビューに応じてもらった。

https://www.instagram.com/p/B_zq3M9KZ31/

「『憎しみ』によってバンリューが注目を集めなかったら、いまはもっとひどい事態になっていただろう」

―25年を振り返って早かったと感じますか。それともずいぶん遠いことのように感じますか

早かったよ。幸いなことに多くの仕事に恵まれてきたから、気付いたら25年も経っていたという感じ。若い頃というのは時間なんてあまり意識しないものだけど、時が経つのは早い。若いうちにいろいろと有意義に過ごした方がいいね(笑)。

https://www.instagram.com/p/B9XC9GbKwsO/

―フランスでは2019年にリリースされたラジ・リ監督の『レ・ミゼラブル』によって、バンリューと呼ばれるパリ郊外の荒んだ街の治安問題、とくに警察による暴力が再び取沙汰されています。『憎しみ』以降、バンリューの問題は何か変わったと思いますか。

変化はあったと思う。当時バンリューは、完全に忘れられた地域だった。いま取り上げられているような問題は、一般に知られていなかった。いまは少なくともニュースになる。果たして問題は解決されたか? 残念ながらされていない。でも当時バンリューがあれほど注目を集めなかったら、いまはもっとひどい事態になっていただろう。

いまでも警察官による暴力はおこなわれている。でもそれはニュースになるし、政治家も認識しているし、警察もおおっぴらに暴力行為をおこなうことはできない。でも、当時はそういう事態を一般の人に信じてもらうことさえ難しかったし、警察官による暴力は日常茶飯事だった。今はどこにでもカメラがあるし、すぐに映像を撮られるから、彼らも以前のような態度でいることはできない。暴力や不正を告発し続けること、そして被害者に敬意を表することは大切だ。

https://www.instagram.com/p/B_w7XzpqP08/

―『レ・ミゼラブル』はご覧になりましたか?

うん、優れた映画だと思う。ラジは自分の住んでいる地域で、自分の知っている世界を映像にした。だから素晴らしいものができる。『憎しみ』とはスタイルが違うけれど、監督にはそれぞれのスタイルがあるものだ。自分の語りたいものにあったスタイルを選ぶことが大事だよ。

「映画には独自のリズムがあって、必ずしも音楽が必要というわけじゃない」

―モノクロ映像の『憎しみ』は、一見ラフなドキュメント・スタイルを装いながら、そのじつ映像はとても審美的で、カメラの動きも計算され、荒々しいドキュ・フィクションとは異なります。こうしたスタイルにしようと思った理由は?

僕にとって映画の審美性はとても大切だ。観客の興味を引き、キャラクターたちに興味を持って、映画を観たいと思ってもらうためにもね。

https://www.instagram.com/p/B-c1Cs9K8Wj/

―本作のカメラの動きは滑らかなリズム感がありますね。すべてあらかじめ計算し、現場で変えることはなかったということでしょうか。

うん、僕はもともと映画のリズムに敏感でね。リズム感のあるカメラワークを得るためには、すべてのディテールを綿密に、事前に決める必要がある。シーンごとにどう繋いでいくか、というのも頭のなかに決め込んでいるから、現場で変えるということはほとんどない。即興もリハーサルの時点では試すけれど、現場で即興することはないよ。

POLYGRAM / Allstar Picture Library / Zeta Image

―『憎しみ』にはラップ/ヒップホップやファンクなどの音楽が引用されていますが、現場で音楽を聴きながら撮影することはありますか?

いや、まったくないね。僕は基本的に、映画に音楽を使うことに対しては積極的ではないんだ。映画には独自のリズムがあって、必ずしも音楽が必要というわけじゃない。

たとえば(クエンティン・)タランティーノは、すごく早い段階で音楽を決めて、音楽を聴きながら撮影したり、編集したりする。でも僕はそういうやり方に興味をそそられない。映画に固有のリズムがあるなら、音楽は必要ないと思うから。一方コーエン兄弟は、音楽を使うことも少なくないけれど、『ノーカントリー』(2007年)では一切使っていない。でも映画自体にリズムがあるから、観客は音楽がないことにも気付かない。

僕に言わせれば、監督は自らヴィジュアル・コンポーザーでなければだめなんだ。だから僕のやり方は、タランティーノよりもコーエン兄弟に近いね。脚本を書いているときから、頭のなかに固有のリズムがある。

「『ダンサー・イン・ザ・ダーク』はミュージカル映画に制限はないんだということを教えてくれた」

最近まで、フランスの人気テレビシリーズ「Le Bureau des Légendes」に俳優として主演していたカソヴィッツ(いくつかのエピソードでは監督も兼任している)は、2011年の『裏切りの戦場~』以来 、新作を撮っていない。だが、『憎しみ』25周年を機にミュージカル版のプロジェクトが持ち上がり、来年末の公演を目指して現在準備中だという。

https://www.instagram.com/p/B7VVdynIYOD/

―どんなプロジェクトになるのでしょうか。

50人ぐらいのプロのダンサーや俳優を集めた、派手なショーになると思う。ラップ、ヒップホップにダンスと特殊効果も使ったライブショー。時代だけ現代に移し替え、映画にあるシーンをショーで見せる。同じテーマを、映画とはまた違ったアングルで表現するという感じ。すごく面白いものになると思うよ。

―ミュージカルは以前からやりたいと思っていたのですか?

以前から興味があったし、『憎しみ』もミュージカルにしたら面白いだろうというアイディアはずっと持っていたんだ。でも大きなプロダクションでやりたかったから、なかなか具体化できず、今回25周年というきっかけでやっと実現できることになった。

―ちなみにお好きなミュージカル映画はありますか?

若い頃はいろいろな映画を観まくっていたから、好きなものはたくさんあるよ。50年代のジーン・ケリー(※『雨に唄えば』[1952年]などで知られる俳優。1996年没)作品もよく観ていた。50年代のハリウッド•ミュージカルは、あの時代にこんな完璧な作品がよく撮れたものだと唸らされる。一方、たとえばラース・フォン・トリアーの『ダンサー・イン・ザ・ダーク』(2000年)は、ミュージカル映画に制限はないんだということをわからせてくれた。いまスピルバーグが撮っている(リメイク版の)『ウエスト・サイド物語』も、どんなものになるか楽しみだね。とにかく監督によってスタイルは異なるものだから、僕も僕なりのスタイルを追求できればと思う。

https://www.instagram.com/p/B_4UbA2qOnf/

取材・文:佐藤久理子

Share On
  • Twitter
  • LINE
  • Facebook