ウェス・アンダーソンを通して出会ったノア・バームバック作品
僕がノア・バームバックを知ったのは、ウェス・アンダーソン監督の『ライフ・アクアティック』(2005年)の脚本に参加していたからだった。『天才マックスの世界』(1998年)をきっかけにウェス作品にどっぷりハマった僕は、スタッフロールを一時停止してはメモして、近くのレンタルビデオ屋に走って関連作を探していた。その中でも、バームバックの『イカとクジラ』(2005年)は登場する息子たちのように思春期だった僕に、家族について考えたり考えなかったりさせた。
『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』(2017年)は、そんなノア・バームバックによるNetflixオリジナル作品。家庭を顧みず彫刻に没頭していた自己中心的な父ハロルド・マイヤーウィッツ(ダスティン・ホフマン) は、音楽の才能があったにも関わらず挫折した三姉兄弟の長男・ダニー(アダム・サンドラー)の離婚をきっかけに、再び同じ屋根の下で生活することになる。
父に芸術家としての将来を期待されていたが現在は実業家として活躍する異母弟・マシュー(ベン・スティラー)と長女・ジーン(エリザベス・マーヴェル)も、それぞれの生活や過去に問題を抱えながら生きていたが、父のもとに数年ぶりに集まり、過ぎてしまった時間や溝ができた関係を埋めようとする。
不器用な人々を可笑しく描きながらも温かく肯定するバームバック作法
バームバックはたびたび「家族」や「つながり」にピントを合わせて作品を撮るが、どの作品においてもその行動に至る過程や心の動きを台詞とカメラワーク、編集方法を通して表現し、登場人物たちを肯定していくところが魅力だ。
本作のハロルドは気が短く、ビリヤードがうまくいかないだけで「サノバビッチ!」と叫んだり(ダニーの口癖も「サノバビッチ」)、挨拶しただけのシガニー・ウィーバーのことをいつまでも自慢したり。そんな、年齢を重ねても変化しないハロルドの精神性から飛び出るいびつな言動や行動は、どこかユーモラスでやさしく写り、姉兄弟がどうしても憎むことのできなかった父親の存在を肯定しているように思える。
そんな姉兄弟も、父に対してそれぞれに清算しきれない過去を抱きながらも衝突できずにいる。いや、衝突し、温度が上昇していくことはあっても、バームバックがそうさせない。その“過程”で終わらせてしまう。あえて台詞尻でカットを切ることによって逆に余白を持たせた演出はテンポが良い。大人になってしまい、ぎこちない彼らの心情と相反するコミュニケーションの繊細さを際立たせる。
なにかのコマーシャルで「かっこつけることをやめるとその年齢の魅力が出てくんのよ~」みたいなことを安藤サクラが言ってたけど、そういう不器用さや不格好さを受け入れた先にある人々の魅力を楽しめる作品です。
文:巽啓伍(never young beach)
『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』はNetflixで独占配信中
『マイヤーウィッツ家の人々(改訂版)』
積年の恨みや競争心を抱えたまま、NYで顔を合わせた3人の兄妹。大人になった今、過去の栄光にしがみつき、老いてなお気難しい芸術家の父に振り回される……。
制作年: | 2017 |
---|---|
監督: | |
出演: |