いまだリブートされないアンタッチャブルな傑作『グレムリン』
80~90年代のハリウッド映画は、いまなお愛され続ける個性的な作品とキャラクターたちを数多く生み出してきた。その中でも僕がとりわけ愛してやまないのが1984年に誕生した『グレムリン』シリーズであり、作中に登場する愛くるしい珍獣・ギズモだ。
21世紀に入り数多のハリウッドキャラクターがフルCGでリブートされるいっぽう、『グレムリン』シリーズは続編の企画が何度もニュースになっては立ち消えてを繰り返している、ある意味不遇な作品である。
しかしながら、そのアイコンとしての魅力が衰えることはなく、いまも毎年のようにアパレルブランドとのコラボアイテムやキャラクターグッズが商品化され続けているほど。しかし、なぜかギズモTシャツを着ている若者にかぎって『グレムリン』シリーズを観たことがなかったりするのだ!(※異論は認めます)。
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……さて、第1作『グレムリン』は、脚本を初期『ハリー・ポッター』シリーズの監督としても有名なクリス・コロンバス(『賢者の石』[2001年]~『炎のゴブレット』[2005年])が務めたダークファンタジー・テイストなクリスマスムービー。主人公・ビリーはクリスマスプレゼントとして父親が買ってきた不思議な生き物・モグワイに「ギズモ」と名前を付け可愛がるが、モグワイを飼育するには絶対に守らねばならない3つのルールがあった。
※玉袋筋太郎氏による『グレムリン』コラムはこちら
当然、お約束どおりそのすべてのルールを破ってしまった結果、ぬいぐるみのように愛らしかったモグワイは凶暴でグロテスクなグレムリンに変貌し増殖、聖夜の街を恐怖に陥れる……という内容。お伽話のような世界観がたいへん素晴らしくマストな作品なのだが、僕がこの時期にあえてオススメしたいのは、第2作『グレムリン2/新・種・誕・生』のほうだ。
あのトランプもパロディ! 徹底した“イジり”コメディ映画『グレムリン2』
1作目から6年後の1990年に公開された本作は、前作の舞台だった田舎町から一変、NYマンハッタンのハイテク超高層ビル<クランプ・センター・ビル>を中心に物語が展開する。
ビリーはクランプ・センターの従業員として働いているが、ひょんなことからビルの中でギズモと再会。家に連れて帰ろうと試みるも、またしても予期せぬトラブルが連発。例のルールは見事に破られ、バラエティに富んだ新種のグレムリンたちが高層ビルの中で増殖を始める! という筋書きだ。
ファンタジックな前作から一転、本作は徹底的にネタに走ったドタバタ・悪ノリ・パニックムービーに振り切っている。まず舞台となるクランプ・センターを所有するのが、不動産王ダニエル・クランプ。そう、いまやアメリカ合衆国大統領に上り詰めたドナルド・トランプのパロディーだ。これは当時、マンハッタンにゴージャスな高層ビル<トランプ・タワー>を建設して話題を集めていたトランプに対する、明らかな“イジり”である。
本作のイジりはこれにとどまらず、作中では数え切れないほどの映画のパロディやオマージュ、さらには作品そのものにツッコむ、いわゆるメタ描写が乱れ打ちされる。映画好きにとっては、これだけで相当お楽しみポイントが多い。
歯向かってもケガするだけ! グレムリンの不思議な“怖さ”とは
さて、そんなコメディームービーであるいっぽう、『グレムリン』シリーズはホラーにもカテゴライズされる作品だ。実際、僕も子供の頃に初めて観てから、いまだに「ちょっと怖いな」という感覚が付きまとっている。
とはいえ、このシリーズでは人が襲われまくるわりに、実は意外と死者は少ない。グレムリンがしでかす悪さも、せいぜい人を引っ掻くとか、電子レンジに金物を入れるとか、サンドイッチにネズミ捕りを挟んでおくとか、エレベーターをめちゃくちゃ上げ下げするといった類のもの。厄介だけど、「死と隣り合わせの恐怖」という類の感覚とはちょっと違う。では、何がそんなに怖いのか。
ひとつは「グレムリンが無軌道すぎる」ということ。変貌する前のギズモがビリーに従順で人懐こいのと対照的に、そこから派生したグレムリンは徹底的に好戦的で悪知恵が働き、越えちゃいけないラインをガンガン越えてくる。ちょっと古い言葉で言うなら“DQN”なのだ。そういうヤバい奴らのコミュニティに飛び込んでしまったとき、生半可な理屈や道徳は通用しない。太刀打ちしようとしてもケガするだけ。グレムリンにはそういう生理的な怖さがある。
もうひとつは、「グレムリンは人災でもある」ということ。そもそも、前述した3つのルールをビリーたちがうっかり破ってしまったことをきっかけにグレムリンが誕生し、爆発的な増殖を起こすわけだ。また、グレムリンの脅威を過小評価する人、グレムリンが出現してもなお日常性バイアスにとらわれ仕事優先で行動しようとする人は、積極的に被害に遭う。そういった人間の愚かさを容赦なく見せつけてくるあたりがツラい。
意外と現代の感覚にフィットする!? 個性豊かでポンコツな面々に注目
ただし、ちゃんと人間賛歌的な側面もある。『2』に登場する主要人物たちは皆ひとクセあるポンコツキャラなのだが、危機的状況に直面する中でそれぞれが個性を活かし、思わぬ奮闘を見せてくれるのだ。
どのキャラもやりすぎなほどカリカチュア的に描かれ、蔑視すれすれな描写もあるが、物語が進むにつれて彼らが互いの多様性を尊重しあっていくさまは、不思議とグレムリンの気味悪さを忘れるほど爽快だ。30年前の映画ではあるが、ある意味当時より現代の価値観にフィットする作品かもしれない。
人間の素晴らしさと愚かさに気づかせてくれる寓話、それが『グレムリン』シリーズ。この機会に、そんな味わい方で2作品続けて楽しんでもらえたら幸いである。
……いや、やはり無理やりこんなお行儀よくまとめず、本音を言おう。とにかくギズモだ。ギズモが可愛い。『グレムリン2』のギズモは、とにかくキュン死レベルで猛烈に可愛い。そこを観てほしい。そうすれば、あなたが袖を通すギズモTシャツにも、それ以前とは比べものにならないほどの愛着が湧くはずだ。
文:ナカムラリョウ
『グレムリン2/新・種・誕・生』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年5月放送
『グレムリン2/新・種・誕・生』
ニューヨークにやってきたビリーとケイトは、大富豪クランプの支配するクランプ・センターで働いていた。ビリーはセンターで研究材料にされかけているギズモと再会するが、水を浴びてしまいまたもグレムリンに変身。さらにバイオテクノロジーと融合し、より凶暴な新種が大量発生してしまう。
制作年: | 1990 |
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監督: | |
出演: |
CS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年5月放送