変人キャラ男子と自殺願望女子の交流とすれ違い
先日、知り合いのGucchi’s Free School(グッチーズ・フリースクール)という映画配給チームが「USムービー・ホットサンド」(フィルムアート社刊)という2010年代アメリカ映画の本を出版しまして、そちらを拝読させていただいていたんですが、改めてエル・ファニングが出てきたことって結構、重要なポイントだよなーなんて思ってたんですよ。マイク・ミルズやソフィア・コッポラなどのお気にりでもあるとことか。なかでも『20センチュリー・ウーマン』(2016年)で彼女に魅せられた方も多いんではないでしょうか。
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そんなエル・ファニングが主演するNetflixオリジナル作品が『最高に素晴らしいこと』(原題『ALL THE BRIGHT PLACES』)。監督は『ハーツ・ビート・ラウド たびだちのうた』(2018年)のブレット・ヘイリー、脚本は『ロング・ショット 僕と彼女のありえない恋』(2019年)も好評だったリズ・ハンナ、そしてもう一人の主演にジャスティス・スミス(恐竜映画やポケモン映画で有名になったけれど、Amazon Prime Videoで配信中の地味ながらも素敵な映画『エブリデイ』[2018年]に出演)っていう、2010年代終盤に頭角を表してきた若手たちが集まっている。
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学校では周囲から浮いているセオドア(ジャスティス)が、亡き姉の誕生日に事故現場で自殺しようとしているバイオレット(エル)を助けたことから交流が始まる。「地元の名所を紹介する」という学校の課題のパートナーになった2人は次第に惹かれ合うようになるが、お互いの心の深い部分を知ろうとしてすれちがっていく……。
身につまされる? モラトリアム全開のティーンエイジャー描写に悶絶
この作品は、どの映画でもよく語られる「多様性」にフォーカスしているように感じる。セオドアは学園モノによくいる“変人扱いされてるヤツ”で、目線の高い物言いが言葉の端々から感じられる。自分自身を認めて欲しいと思いつつも器はむっちゃ小さいっていう、呆れるほどにモラトリアム真っ最中。だから友達も幼なじみとその恋人だけっていう、スクールカーストから完全にあぶれちゃてる男子だ。
パンパンに膨れ上がった自意識や全能感は日常では発散できず、日々感じた単語をメモに殴り書き、部屋中に貼りまくってるセオドア。ティーンエイジャーにありがちなこのキャラクターを見ていると、冷笑しつつも昔の自分のようで恥ずかしくなる……なんて人もいるんじゃないだろうか。
クラスメイトたちは変人というレッテルを張って排除しようとするし、「若者はこうあるべき」というテンプレートに支配されている教師はカウンセリングを勧めてきて、彼の意思を汲もうともしない。学校に漂う同調圧力のなかでセオドアは、自殺を選ぶほど心をすり減らしていたバイオレットと出会い、お互いの存在が唯一の希望となっていく。
バイオレットは事故で亡くなった姉の死から数ヶ月経っても立ち直れず、学校でも上の空。ただ、ちょっとだけそんな自分に陶酔している様子もあったり、セオドアの強引な誘いに負けて地元の名所に連れ回されるんだけど、自分にない視点に気づかされたからってすぐさま変人キャラの奴と仲良くなるかね? と、つい穿って見てしまったり……。
Maribou State、Joji、NONONO……テン年代を象徴するようなサウンドトラック
こんなことを書いてる僕は、多様性への理解が浅いのかも。そう、たしかに理解の早い人間がいてもいいですよね、描かれない部分で2人が交わした言葉もあるだろうし。演出されていること、見えてることが全てではないんだから、もっと奥行きを楽しまないと。
そんな若い彼らの葛藤の中で鳴るサウンドトラックに、Khruangbinとのコラボで有名……なんて紹介するのも野暮なMaribou Stateや、<88rising>のJoji、Claire George&Yumi Zouma、Tobias Jesso Jr.も作曲に参加していたNONONOらの曲も流れるっていう、インディーミュージック好きにも推せる映画です。
文:巽啓伍(never young beach)
『最高に素晴らしいこと』はNetflixで独占配信中
『最高に素晴らしいこと』
心にそれぞれ痛みを抱える2人の高校生が、インディアナ州の名所をめぐる学校の課題に取り組む中で、癒やしに満ちた時間をともに過ごし、深いきずなで結ばれていく。
制作年: | 2020 |
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監督: | |
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