ミヤコ・ベリッツィが手掛ける的確な衣装に注目!
Netflixオリジナル作品『アンカット・ダイヤモンド』。この映画は登場人物が多いので、先に羅列しておこうと思う。主人公の宝石商ハワードと、その家族。愛人、親戚、ユダヤコネクション(と言っていいのかな)、宝石店の従業員、出入りのブローカー、お客の半グレ、お客のNBAプレーヤー。質屋、バスケ賭博の仕切り、その合間を縫って主人公を追い回す借金取り。
現場はニューヨーク。僕はずっと憧れているけれど、いまだ訪れたことのない街。そう、登場人物たちはみんなニューヨーカー。さすがみんなお洒落です。とか言うのって古臭いだろうか。でもみんなかっこいい服を着ているんです。
衣装デザイナーのミヤコ・ベリッツィという人は、本作の監督サフディ兄弟といつも仕事をしている人で、この人の服の使い方がとにかく的確だと思う。
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例えば主人公ハワードが、待遇に怒っている従業員に対して「ゴメンゴメン」といった感じでソファに放ったらかしにしてあったグッチの新品の新作シャツをプレゼントするシーンがあるんだけれど、ハワードがグッチを着るシーンは出てこない。事務所のソファに新作シャツが放ってあるってことは、たぶん誰かからのプレゼントとか、質屋のタネだったりってことなんじゃないかな。
そのときハワードはリバーアイランドの黒革ジャケットにフェラガモの革ベルト・革靴という出で立ち。グッチは着ないんだけど、「ゴメンゴメン」の代わりになり得るって思っているんだから、もちろんグッチの価値は分かっているってことでしょう。着ないんだけど。ハワードって、ステューシーのシャツは着てたりするのに、グッチのシャツは着ない。こういう細かい価値の相違が結構面白い。
いつも革靴のハワードが珍しくスニーカーを履いているシーンがあって、それは新しいエアジョーダンで。ハワードがバスケ狂いだって散々描かれたあとなので「こいつバスケ大好きだな」と可愛くなるんだけど、カラーは黒。応援しているチームがボストン・セルティックスだからって、白と緑のカラーリングは選ばない。スパイク・リーとは服の着方が違うんだ。
登場人物たちの積み重なった“価値観の相違”がこの映画の面白さ
こういうディテールが登場人物全員に行き届いていて、もちろんそれは衣装だけの話でもないんだけど(例えば、The Weekndが本人役で出てくるんだけど「ブラックライトが当たってないステージじゃ歌えない」って駄々こねたり。これも一つの価値の違いだと思う)、衣装が果たす役目はやっぱり多いと思う。特に、この映画に関しては登場人物がすごく多いから、それぞれを細かく描写していったら4時間越えの映画になっちゃう。4時間越えはクールじゃないですよね、これは僕の価値観ですが。
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各々が抱いている「何か」に対する細かい価値の相違が積み重なっていくのが、この映画の面白さなんじゃないだろうか。というのも、この物語の中心にあるオパールだって得体の知れない代物で、価値があるのかないのかも結局よくわからないまま。原題の『Uncut Gems』とは、その特別なオパールのことを言っているんだけど、ある人にとってはただの石ころだし、ある人にとっては運命を変える石なんだ。結局、石ころにはかわりないんだけど。
興味深いのが、このオパールがオークションにかけられるシーン。それまで棚上げにされてきたオパールに、分かりやすくお金という指標で価値が付いてしまうシーンが、この映画の山場なんじゃないかなって思うのは、やっぱり僕の価値観なので、ぜひみんなにも観ていただきたいです。
あ、邦題の『アンカット・ダイヤモンド』は一度忘れてください。この映画にダイヤモンドはマジで一切関係ないので。
文:松㟢翔平
『アンカット・ダイヤモンド』はNetflixで独占配信中
『アンカット・ダイヤモンド』
ニューヨークのカリスマ宝石商、ハワード・ラトナーは常に金儲けのチャンスを狙っていた。だが、巨額の金を手に入れようと無謀な賭けに出たために、失敗は命取りの危ない橋を渡ることに。仕事と家庭を両立し、あちらこちらから迫り来る敵をかわしながら、彼は勝利を信じてがむしゃらに突き進んでいく。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |