オーストリア出身、英ロンドン在住の俳優クリストフ・ヴァルツは1956年生まれの63歳(2020年4月現在)。ほとんどの映画ファンにとって彼の存在を意識したのは、クエンティン・タランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ』(2009年)で演じたハンス・ランダ大佐だろう。知的かつ冷血なナチス将校役は、もはやこの人しか考えられない! というほどのハマり役で、第82回アカデミー賞助演男優賞を獲得した。
オーストリアの国民的俳優からまたたく間にハリウッド屈指の実力派となった遅咲きの怪優、クリストフ・ヴァルツのオススメ出演作を(独断で)ご紹介!
タラのマカロニ愛を受け止めた『ジャンゴ 繋がれざる者』
『イングロ』でヴァルツを世界に知らしめたタランティーノ監督は、続く『ジャンゴ 繋がれざる者』(2012年)でもヴァルツを起用する。彼が本作で演じるのは、黒人奴隷ジャンゴを鎖から解き放ち賞金稼ぎのイロハを教え込む歯科医、Dr.キング・シュルツ。南北戦争前夜のアメリカを舞台に、最強凸凹コンビとなったジャンゴとシュルツは、お互いの目的を果たすため巨悪に挑む。
タランティーノがマカロニ・ウエスタン愛を爆発させた本作。そのタイトルから、セルジオ・コルブッチ監督の『続・荒野の用心棒』(1966年)のタラ流リメイクかと思いきや、主人公の名前のほか象徴的なファクターをいくつか頂戴してはいるものの、黒人奴隷と白人歯科医のバディものであり、愛する女性を救うべく戦うラブストーリーであり、ついに悪逆な奴隷主(レオナルド・ディカプリオが熱演!)を成敗するリベンジものでもあるという、映画の気持ちいい部分を全部詰め込んだエンターテインメント大作に仕上げている。
※『続・荒野の~』についてはセルジオ石熊氏によるこちらの記事をどうぞ
本作で再びアカデミー助演男優賞を獲得したヴァルツは2014年、ハリウッドのウォーク・オブ・フェームに殿堂入りを果たす。ハリウッド本格進出からわずか5年という快挙だった。
https://www.youtube.com/watch?v=WZN3gfV76Ts
ああ恥ずかしい! 苦笑失笑必至のコメディ『おとなのけんか』
超然としたキャラクターばかり演じている印象が強いヴァルツだが、ケイト・ウィンスレット、ジョディ・フォスター、ジョン・C・ライリーという強烈な面々と競演したロマン・ポランスキー監督作『おとなのけんか』(2011年)では、苦笑・失笑必至の大人げないおっさん役である。
本作は、NYブルックリンに暮らす二組の夫婦が子ども同士のケンカをきっかけに、表面上は平静を装いつつ、見栄と建前にまみれた泥沼バトルを繰り広げるコメディ。職業的(弁護士や作家)にもかなり良識があるはずの白人夫婦なのに、発言の端々がささくれのようにお互いのプライドをチクチクと刺激し、次第に収拾不可能な無差別大喧嘩に発展していく。
ヴァルツが演じるクセモノ弁護士アランは絶妙にKYな発言と態度で、相手夫婦どころか妻ナンシーの神経まで逆なでする問題人物。たびたび仕事の電話に出るため席を外し、話の腰を折って自体を悪化させる。一見冷静だが家族の問題解決能力(というか興味)はゼロで、終盤は暴走する妻たちに翻弄されまくり。ケータイが水没して狼狽するヴァルツが見られるのは本作だけ!
落ち着いた物腰に秘めた狂気!『007/スペクター』
『007』シリーズ24作目にしてダニエル・クレイグ版4作目の『007/スペクター』(2015年)でヴァルツは、フランツ・オーベルハウザーを演じている。オーベルハウザーは謎の組織を率いる人物だが、彼の正体を明かすとネタバレになってしまうので、数々の俳優が演じてきた『007』シリーズの名悪役とだけ言っておこう。
本作は、殺し屋Mr.ヒンクス役のデイヴ・バウティスタをはじめ、ボンドガールのマドレーヌ・スワンを演じるレア・セドゥや抱かれ役のモニカ・ベルッチ、ボンドの同僚イヴ・マネーペニー役のナオミ・ハリスなど女優陣も豪華。監督は前作『スカイフォール』に続き、『1917 命をかけた伝令』(2019年)で第92回アカデミー賞撮影賞や視覚効果賞など3部門を獲得したサム・メンデス。しっとりセクシー系だったクレイグ版ボンドの『007』をスタイリッシュかつモダンに一新させ、マットな質感の映像でボンドの新たな魅力を引き出した。
ヴァルツ演じるオーベルハウザーは中盤過ぎまでほとんど登場しないが、シリーズ全体の鍵を握る超重要人物。『スペクター』に続き、シリーズ最新作『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2020年11月公開)にも同役での出演が決定したようなので、彼の復活を楽しみに待とう。
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』は2020年11月20日(金)より公開
『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』
ボンドは現役を退きジャマイカで穏やかな生活を満喫していた。しかし、CIA出身の旧友フィリックス・ライターが助けを求めてきたことで平穏な生活は突如終わってしまう。誘拐された科学者を救出するという任務は、想像以上に危険なもので、やがて、それは脅威をもたらす最新の技術を保有する黒幕を追うことになる。
制作年: | 2020 |
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2020年11月20日(金)より公開