民主化運動に揺れる80年代韓国で実際に起こった事件!
いまだ終息が見えない新型ウイルスへの不安、そして世界的な危機にもかかわらず不可解な対応を繰り返す政府への不信感が募るいまこそ、本作を観るべき時かもしれない。『1987、ある闘いの真実』(2017年)は80年代後半、全斗煥(チョン・ドゥファン)による軍事独裁政権下の韓国で、民主化を勝ち取るために命がけで闘った人々の姿を描いた実話ベースの社会派作品である。
本作は、1980年の光州事件の真実を描いた『タクシー運転手~約束は海を越えて~』(2017年)に連なる、韓国がいかにして自由を勝ち取ったかを伝える物語。南営洞警察のパク所長(キム・ユンソク)の指揮のもと、北のスパイ疑惑をかけられ拷問を受けた大学生・朴鍾哲パク・ジョンチョル(ヨ・ジング)が死亡する。警察側の「取り調べ中に心臓マヒを起こした」という言い分に隠蔽のにおいを感じ取ったチェ検事(ハ・ジョンウ)は司法解剖を命じるが、警察官が2名逮捕されただけで捜査は行われなかった。
そこからチェ検事が真相究明のために戦う物語のように思えるが、あえてヒロイックな主人公を立てていないのが本作のキモ。刑務所の看守ハン・ピョンヨン(ユ・ヘジン)と姪の女子大生ヨニ(キム・テリ)、指名手配中の民主運動家キム・ジョンナム(ソル・ギョング)、真実を追う新聞記者ユン・サンサム(イ・ヒジュン)、拷問に加わったチョ刑事(パク・ヒスン)、そして運動家の大学生イ・ハニョル(カン・ドンウォン)、それぞれの“正義”を求める行動が徐々に重なり合っていく群像劇に仕上がっている。
暴走する権力といかに戦うべきか? 現在の日本への示唆に富んだ作品
警察の横暴や残酷な拷問の描写からは、まさに“命がけ”の民主化運動だったことが伺い知れる。この翌年、1988年に開催されたソウルオリンピックは自由と平和を勝ち取った韓国民にとって、非常に感慨深い平和の祭典となった。どこかの国のようにカネをばらまいて得た利権まみれの税金無駄遣いイベントとは意義がまったく違うのである。
なお、スパイの検挙という名目で長年にわたって行われてきた恐ろしい言論弾圧については、2016年製作のドキュメンタリー『スパイネーション/自白』が理解の一助になるだろう。そこで行われてきた取り調べ=拷問の残虐性は、基本的人権を完全に無視した蛮行である。
チャン・ジュナン監督が事件の遺族の存在を知り映画化を決意したという本作も、反政府の姿勢を取る文化人をブラックリスト化していた朴槿恵(パク・クネ)政権による言論弾圧のもとでは製作が難しかったかもしれない(ポン・ジュノ監督もそのリストに入れられていたことは有名)。不都合な真実がことごとく政府に握りつぶされる現在の日本に住む我々にとって、韓国の人々がいかに権力と闘ったのか、本作から学ぶところは非常に大きいはずだ。