ジャンルを問わず様々な映画で見かける中堅俳優という印象だったのに、いつの間にか映画賞の常連俳優になっていた……。映画ファンの中でもツウ好みするクセモノ俳優サム・ロックウェルだが、ここ数年の大活躍で新規ファンがドカンと増えたはず。そんなロックウェルの魅力が堪能できる4作品を選出してみたので、ステイホーム鑑賞の参考にしていただければ幸いだ。
レイシストの脳筋野郎を熱演!『スリー・ビルボード』
もはや説明するまでもないと思うが、第90回アカデミー賞でフランシス・マクドーマンドが主演女優賞、サム・ロックウェルが助演男優賞を獲得した『スリー・ビルボード』(2017年)は、娘を惨殺された中年女性が警察の捜査に対する批判を3枚の“看板”に掲げたことから始まる、憎しみの連鎖を描いたサスペンスドラマだ。
ロックウェルが演じるのは、主人公ミルドレッドと激しく対立する地元警官のディクソン。いわゆる脳筋系のガサツな男で、さらにレイシスト気味という救いようのないクズである。住民たちから敬愛されている警察署長(ウディ・ハレルソン)にケンカを売ったミルドレッドは地元で孤立無援の状態になり、そこにディクソンが容赦のない嫌がらせを仕掛けてくるのだった。
愛する我が子を失った人間の後悔と執念、制裁を求めるミルドレッドの揺るぎない信念。かたや手段を問わず迎合と屈従を求めるディクソン。普通なら対ミルドレッド側を“悪”として描きそうなものだが、オラオラなディクソンもロックウェルの奥行きのある演技と相まって、“真の悪人”としては描かれていないところがミソ。犯人が最後まで明かされないことなどが賛否を呼び、一部映画ファンから独自の解釈による珍説・奇説も飛び出した。
持ち前の軽薄オーラが光る!『セブン・サイコパス』
そんな『スリー・ビルボード』のマーティン・マクドナー監督が注目を集めるきっかけとなったクライム・コメディが『セブン・サイコパス』(2012年)だ。主人公の脚本家マーティ(コリン・ファレル)は“セブン・サイコパス”と題した作品の脚本のネタに詰まり、犬の誘拐で日銭を稼いでいるビリーが見つけてきた新聞記事からアイデアを拝借する。
ロックウェルは本作でウディ・ハレルソンと共演済み。主人公マーティ(コリン・ファレル)の家に入り浸り、犬の誘拐で日銭を稼いでいるチンピラのビリーを飄々と演じている。また、“セブン・サイコパス”と冠しているだけあって、実在の人物から伝聞まで強烈な人殺しが続々登場。ただし、マーティが脚本家ということで彼の頭の中の出来事なのか現実なのかが曖昧で、かなり非現実的な描写も随所に挿入される。舞台畑出身のマクドナー監督だけに、戯曲的な演出は『スリー・ビルボード』との共通点だ。
名優クリストファー・ウォーケンが一人だけステージの違うさすがの存在感を放っているが、基本ヘタレの酒乱を演じるコリンにも萌え必至。トム・ウェイツらが演じるサイコパスたちのキャラ立ちも抜群で、終盤のまさか! なジワリと怖い展開がクセになる。それまで謎ポジションだったサイコパスに“ある史実”を絡めてくるあたりも、思わず声が出る意外性で最後の最後まで飽きさせない。あ、わんこ好きにもオススメです!
ティム・ロス&アナケンと共演!『バッド・バディ!私とカレの暗殺デート』
邦題からしてB級ドタバタ・ラブコメかな? と思ったら、なんとティム・ロスまで出てくるではないか。ロックウェルとロス、そこにアナ・ケンドリックという最強布陣で、面白くならないわけがない。とはいえ、ド天然ダメんず女子マーサと、改心した元殺し屋フランシスが出会い恋に落ちたことによって、マーサの殺し屋としての才能が開花していく……という筋書きはカタルシスたっぷりで、かつ「そんなに真剣に観なくても大丈夫ですよ!」とアピールしてくる。
ド派手な銃撃戦も、軽快なロックサウンドをBGMに終始ポップなノリで、あえて緊張感を削いでいく仕様。そこにロックウェルとロスの洒脱な演技が乗っかってくるものだから、『ジョン・ウィック』みたいに過激な殺し屋映画は苦手……なんて人にこそ観てほしいサスペンス・ロマンス・コメディに仕上がっている。ロックウェルに関しては、ケンドリックとのラブラブよりも、師匠ホッパーを演じるロスとの鍔迫り合いのほうに萌えてしまうのだが、それはファンとしての正常な反応だろう。
ウィットあふれる伝説的SFコメディ『銀河ヒッチハイク・ガイド』
ロックウェル出演作としてぜひ推したいのが、小説・TV映画化(1981年)もされた英BBCの傑作ラジオドラマの映画化作品『銀河ヒッチハイク・ガイド』(2005年)。公開から15年を経ても世界中の映画ファンの間で根強い人気を誇り、いまだに関連グッズがネット上に出回っているほど。その人気の秘密は、セリフの端々に散りばめられたウィットに富んだ英国ギャグの数々だろう。
基本的なあらすじは、銀河に敷くバイパス工事の邪魔になった地球がまるごと破壊されてしまい、(宇宙版の)ヒッチハイクによって唯一生き延びた地球人=主人公アーサーの珍道中が始まる……というもの。アーサー役のマーティン・フリーマンを筆頭に、モス・デフやゾーイ・デシャネル、ビル・ナイ、ジョン・マルコヴィッチに加え、アラン・リックマン、ヘレン・ミレンも声で出演する、超豪華キャスト陣も大きな魅力だ。錚々たるメンツの中でロックウェルが演じるのは、銀河帝国の大統領を名乗る(&2つの顔と3本の腕を持つ)チャラ男、ゼイフォードである。
とにかくぶっ飛んだ設定の本作を楽しむコツは、登場人物のややこしい肩書や常軌を逸した言動に、いちいちつまづかないこと。地球人の常識では測れない破茶滅茶なやり取りが徐々に可笑しみを醸成し、中盤を過ぎる頃にはもうニヤニヤが止まらなくなっているはず。『ジョジョ・ラビット』や『リチャード・ジュエル』(共に2019年)でロックウェルにハマった新規ファンが本作を見れば、彼の振れ幅の広さに改めて虜になるはずだ。