『猿の惑星:創世記』(2011年)を手掛けた鬼才ルパート・ワイアットが製作・監督・脚本を務めた社会派SF大作『囚われた国家』。地球外生命体による侵略下の世界を舞台に、権力者の暴走や政府による隠蔽、メディアを使った情報操作など、現代社会に通じる問題を盛り込んだ意欲作だ。
まさにタイトル通り“囚われた国家”をドキュメンタリータッチのリアルな映像で描いたルパート・ワイアット監督に、本作に込めたメッセージや撮影秘話を聞いた。
「撮影クルーが近未来でドキュメンタリーを撮影しているようなイメージで描いた」
―本作の企画はどういった発想から生まれましたか?
侵略者に反旗を翻すレジスタンス(抵抗運動)に興味を持ち、第二次世界大戦でフランスを占拠したナチスや、フランスに征服されたアルジェリアなど、歴史的な史実を参考にして物語を作りました。本作は、エイリアンが襲来し、人類が全面降伏した近未来が舞台です。エイリアンの手先となり、圧政を敷く米国政府に対し、市民が「Light a Match, Ignite a War(マッチをすり、戦争を起こせ)」と声を上げ、人類の主権を奪回する戦い、すなわち“革命の始まり”を描いています。
―本作には、どんなメッセージが込められていますか?
一人の行動が世の中を変えられる、大きな結果を生み出せると信じています。リーダーシップを執る人物は、自己犠牲を払ってでも世の中を変えるために貫く意志や行動が大事だと思います。占領下で、自分の家族、キャリア、生活が危機的状況になったとき、信念を曲げずに戦うことができるか。現在の米国社会や政府に対して「本当のリーダーシップとは、利益や名声を得るためのもの? それとも、自己犠牲を払ってでもよりよい社会のために尽くすこと?」そんな問いかけを込めて作品を作っています。
―CGを多用せず、シカゴの街並みを活かした世界観をドキュメンタリータッチで描いていますね。
本作は、撮影クルーが近未来でドキュメンタリーを撮影しているようなイメージで描きました。近未来の話ですが、観客が家の窓から外を見ているような、目の前で事件が起きていると思えるように描いています。いまの世界からかけ離れないよう注意し、違和感なく没入できるデザインになっていると思います。あえて、観察的な手法を取りました。
シカゴを選んだのは『インデペンデンス・デイ』(1996年)のような地球規模での派手な戦いには興味がなく、米国を象徴するような都市に根ざした物語を作りたかったからです。シカゴは高いビル群がそびえ立つ“米国の大都市”を象徴するような街並みです。そして、様々な民族やコミュニティが混在するダイバーシティに富む近代的な都市です。現代社会からかけ離れないようシカゴの街並みをありのままに使いつつ、市民生活は政府の監視下に置かれているので、通信テクノロジーを排除するなど社会的な構造を変えました。これは全体主義国家、例えば中国や北朝鮮、イランなど、インターネットへのアクセスがコントロールされている国を参考にしています。
「圧政を敷く政府こそが“真の敵”なのだと痛感してもらえると思う」
―様々なキャラクターが交差する複雑な構成にした理由は?
今回のような物語の構造を“ハイパーナラティブ(hyper-narrative)”と呼んでいます。蜘蛛の巣のように、様々なキャラクターの物語が交差し大きな物語を作り出す構造になっています。一般的なハリウッド映画でよく使われているアプローチだと、例えば『スター・ウォーズ』のルーク・スカイウォーカーのように、一人の英雄(主人公)に視点が当てられて、彼の成長が語られる物語があります。いまの観客は主人公が中心の構成に慣れているとは思いますが、今回は明確な主人公を置かずに色んなキャラクターが物語を構成していく作品にチャレンジしました。
―マリガン特捜司令官を演じたジョン・グッドマンの演技は、静けさがあり、感情を殺した凄みを感じる演技です。彼の演技をどう評価されていますか?
ジョンは、私が監督した『ザ・ギャンブラー/熱い賭け』(2014年)に出演していて、そのときとはまったく違うキャラクターを演じてもらいました。本作の撮影に入る前に、マリガンについて「白い壁にある白い点」のようなキャラクターだとジョンに説明しました。周囲に溶け込んでいて、あえて目立たない人だけれど、物語の鍵を握る人物となっています。ジョンは誰もが知るスター俳優ですが、監督の意図を汲んで演じることができる素晴らしい技量や謙虚な姿勢を持っています。
―本作で描かれていないバックグラウンドについて、詳細な設定が作られていたのでしょうか?
そうですね。どうやってエイリアンによる侵略が起こったのかとか、侵略後の9年間についてなど、細かく設定を作っていました。プロデューサーから「部分的に見せてもいいのではないか」というアドバイスもあり、冒頭のシーンで、エイリアンに世界規模で占拠される場面を短く描きました。ただ、意識的に映画の中で“あえて”見せない要素も考えつつ、必要な情報を入れるようにバランスを取りましたね。
―エイリアンを登場させるシーンには細心の注意を払われたのではないでしょうか?
この手のSF映画だと、観客はどんなエイリアンが登場するか期待して観ます。本作の主題は抵抗運動をする市民の物語なので、エイリアンを物語の早い段階で出すことで観客の興味が違う方向に行かないようにしました。エイリアンは根底にある脅威となる存在であり、圧政を敷く政府こそが“真の敵”なんだと痛感していただけるのではないでしょうか。
『囚われた国家』は2020年4月3日(金)よりイオンシネマほか全国公開
『囚われた国家』
地球外生命体による侵略から9年後の2027年、シカゴ。制圧されたアメリカ政府は「統治者」の傀儡と化していた。貧富の差はかつてないほど拡大し、街は荒廃。そして市民は、この圧政に対して従属する者と反抗する者に分かれた。自由を取り戻すために秘かに結成されたレジスタンス・グループは、市内スタジアムで開催される統治者による団結集会への爆弾テロを計画するが―。
制作年: | 2019 |
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出演: |
2020年4月3日(金)よりイオンシネマほか全国公開