『IT/イット』シリーズ(2017~2019年)や『ドクター・スリープ』(2019年)、『ペットセメタリー』(2019年)など、スティーヴン・キング原作映画が連発している昨今。その中でも、Netflixオリジナル映画『1922』は一見地味目ながらグイグイ観れちゃう拾い物!
S・キング原作を丁寧に映画化! 時代背景も絡めた家族スリラー
舞台はタイトル通り、1922年のアメリカ。農夫ウィルフレッド・ジェームズは、妻アルレットと14歳の息子ヘンリーと共に慎ましく暮らしていた。しかし、派手好きなアルレットは田舎暮らしに嫌気がさし、「こんな農場売っ払って都会へ出ましょうよ! いま売っちゃえば大金になるし!」なんて言い出した。都会でドレス店を開くことを夢見ているのだ。
映画ではしっかりと説明はされないが、アルレットの言動は時代背景が大きく関係している。1922年といえば、第一次世界大戦直後で世界恐慌前。「狂騒の20年代」と云われたこの時代は、これまでの価値観や生活様式が一変した。1920年に成立した憲法修正19条によって女性にも選挙権が与えられ、企業で働く女性が増え、カジュアルな服装、濃いメイク、飲酒、喫煙やセックスを積極的に楽しむ若い女性“フラッパー”たちが台頭。「新しい」女性たちが生まれた時代でもあった。
夫婦間の意見の食い違いが、やがて憎悪と殺意に発展……!
ウィルフレッドは焦った。なぜならジェームズ一家の農場の権利はアルレットが所有していたのだ。勝手に農場を売られちゃうかも! 手塩にかけた農場を離れる気のない昔気質なウィルフレッドはアルレットを説得するが、彼女は聞く耳を持たず。次第にウィルフレッドは妻に対して憎しみを抱くようになる。
日々のピリついた一家団欒によって、アルレットへのぼんやりとした憎しみが次第に殺意に変わってゆくウィルフレッド。そんな中、ウィルフレッドの年頃の息子ヘンリーは隣家の娘シャノンと恋に落ち、若さ爆発、暇さえあればセックスしていた。ウィルフレッドはそんなヘンリーの純な恋心と欲望に目をつけ、「母ちゃんの言う通りに都会へ行けば、彼女とも離れ離れ。それでいいのか?」とマインドをゆる~くコントロール。そんなわけでそれぞれの思惑が一致し、母ちゃんを殺しちまおうと結託した父子は早速アルレット殺害を決行。しかし、この選択が誤りだったことに気づく頃には、取り返しのつかない転落人生が待っていた……。
キング映画といえばこの人!『ミスト』の後悔親父がまたまた大後悔!!
主人公ウィルフレッドを演じるトーマス・ジェーンは、2004年版『パニッシャー』でおなじみのいぶし銀俳優。なぜだかキング映画化作品にゆかりのある人で、これまで『ドリームキャッチャー』(2003年)、『ミスト』(2007年)でも主演を務めてきた。この作品では、最初はギラギラのタフガイだが、狂気に走り、精神が崩壊し、徐々にやつれていく姿を熱演している。
原作は、2010年に出版された短編集「Full Dark, No Stars」に収録された同名タイトルの一編(翻訳版では「1922」「ビッグ・ドライバー」の2冊に別れて刊行)。ウィルフレッドによる手記という形式で書かれ、目に浮かぶほどのグロテスクな描写とじんわりとした胸糞悪さが満載。そして、スティーヴン・キング作品にとって重要なトウモロコシ畑(「ザ・スタンド」「トウモロコシ畑の子供たち」)や父親の変容(「シャイニング」)、家族の崩壊(「ペット・セマタリー」)なども盛り込まれ、さらには変わりゆくアメリカ社会と、その変化に翻弄される人々をも描かれている贅沢な一編だ。
ネズミ好きは必見!? キング印の恐ろしいネズミ描写が満載
そんな原作に映画はわりと忠実なのだが、忠実すぎて困っちゃったのがネズミの描写! キングは映画化もされた『地下室の悪夢』(1990年)でも凶悪なネズミを扱っているが、『1922』も原作映画版ともにネズミが大活躍。牛の乳首を噛み切る凶悪なネズミからはじまり、ぽっかり開いた死体の口の中からモゾモゾ這い出るネズミ、めちゃくちゃに踏みつけられるネズミ、わらわらと迫りくるネズミ、壁の穴を突き破って出てくるネズミ……もはやネズミ映画と言ってもいいくらいだ。
ちなみに、撮影ではなんと200匹のネズミが用意されたんだとか。監督のザック・ヒルディッチは、「撮影で一緒に過ごす時間が長くなるほど、ネズミたちが可愛く見えてしまうのが問題で……だって僕らはネズミたちを不気味に描く必要があるからね!」とチャーミングな発言を残している。
文:市川力夫
『1922』はNetflixで独占配信中
『1922』
ペンを取り、自ら犯した妻殺しの事実を書き残していく農夫。だがその殺人は、不気味な恐怖の物語への序章に過ぎなかった。
制作年: | 2017 |
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監督: | |
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