社会派なのは大前提? 重要なのは“面白い映画”を作ること!
第92回アカデミー賞で作品賞ほか4冠を達成した『パラサイト 半地下の家族』(2019年)の批評で最も多く使われた言葉は、おそらく「格差社会」だろう。豪邸に暮らす富裕層と、そこに文字通り“パラサイト”する半地下暮らしの貧困層。その対比が大きなポイントだったのは間違いない。
この映画は今年最大の話題作と言ってもいいくらいだから、映画メディア以外にも広く取り上げられた。結果として分かりやすい表現が多用され、「格差社会を描いた映画」というイメージも広まり、もしかしたら本作をメッセージ性の強い社会派映画だと思っている人も少なくないんじゃないか。そういう危惧もある。
いや、確かに『パラサイト』は社会性のある映画なのだが、監督のポン・ジュノによると、格差社会は現代を描く上での「前提」だそうだ。一番大事なのは、その前提を活かして「面白い映画を作ること」だという。
出世作『殺人の追憶』からNetflix『オクジャ/okja』まで一貫したスタンス!
そのスタンスは過去作を振り返っても一貫している。『殺人の追憶』(2003年)では連続殺人事件、『母なる証明』(2009年)では知的障害のある息子とその母の愛が描かれる。
ハリウッド進出を果たした『スノーピアサー』(2013年)は近未来世界を舞台に、全人類が暮らす列車の中で起きる“革命”の物語だ。そしてNetflixオリジナル作品『オクジャ/okja』(2017年)では、遺伝子組み換えで生まれた“スーパーピッグ”と少女の友情を邪魔する、利潤追求最優先の食肉産業が“敵”となった。
どれも“バリバリの社会派映画”になってもおかしくないのだが、ポン・ジュノはそうしない。見れば分かることだが、彼の映画はまずなによりも“面白い”のだ。オリジナリティがあって先が読めない。「この先どうなる?」とのめりこみ、それこそスマホで見ていても止まらなくなる。独創性のあるストーリーテリングの達人、それがポン・ジュノの本質だ。どの作品も内容を一言では説明しにくいが、それはつまり他の映画に似ていないということでもある。
加えて“画の力”も凄まじい。『母なる証明』の冒頭で繰り広げられる奇妙なダンス。『スノーピアサー』は容赦ない暴力描写で、オノや松明を使ったバトルが展開される。『オクジャ』におけるブサイクなのに可愛い巨大スーパーピッグ、野山を駆ける少女のダイナミックな演出は何度でも見たくなる。
「そもそも面白くなかったらメッセージも伝わらない」という韓国映画イズム
テレビや紹介記事のザックリした内容だけで、『パラサイト』を「なんか真面目で暗い映画なのかな」と思っている人がいたら、とにかく見てくれと言いたい。社会派映画はメッセージ性が強すぎて娯楽性を損なうことがよくあるし、見るほうもメッセージに賛同するあまり脚本や演出の弱点を無視して褒めてしまうことがある。しかしポン・ジュノ作品は、そうした要素とは無縁だ。
ソン・ガンホ主演作『タクシー運転手 ~約束は海を越えて~』(2017年:チャン・フン監督)もそうだったが、韓国映画は社会性と娯楽性の両立が抜群にうまい。「映画として面白くなかったら、そもそもメッセージなんて伝わらない」「メッセージを伝えることが映画の最大の目的ではない」というのが、韓国映画界全体の“イズム”のような気がする。そして、その頂点にいるのがポン・ジュノということだろう。『パラサイト』を見る前でも見た後でもいい、順不同で構わない。ポン・ジュノ作品に片っ端から触れてほしい。
文:橋本宗洋
『パラサイト 半地下の家族』『殺人の追憶』『母なる証明』はCS映画専門チャンネル ムービプラスで2021年12月放送
『オクジャ/okja』はNetflixで独占配信中
『パラサイト 半地下の家族』放送記念!ポン・ジュノ&パラサイト大特集
CS映画専門チャンネル ムービプラスで2021年12月放送
『パラサイト 半地下の家族』『下女』『殺人の追憶』『母なる証明』『グエムル−漢江の怪物−』『スノーピアサー』『ほえる犬は噛まない』