スーパースター・三島由紀夫の姿を収めたドキュメンタリー
三島由紀夫の小説は大学生になってからいくつか読み、なかでも「永すぎた春」(1960年)が好きだった。堅苦しくなくとても明瞭な日本語で、男女の恋愛で起こる大小のトラブルから、いくつも人生における普遍的な問いかけを読者にしてくるようで、軽い語り口ながらズシンとくる素晴らしい作品だと思った。
ドキュメンタリー映画『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』は彼の小説というよりも、作家・三島由紀夫が当時どういう存在であったかが知れるようになっている。彼はまごうことなきスーパースターであり、社会での捉えられ方、メディアとの接し方、周囲の人間との付き合い方を、インタビューやかつての資料をもとに、様々な角度から見ることができる。
三島がすごく好きな人であれば当たり前の情報なのかもしれないが、いくつか作品を読んだことがある程度で詳細なパーソナリティまで知らない自分にとっては、入門編として簡潔にまとまっているように感じた。そういった彼の多くの情報があった上で、メインの東大で全共闘の学生たちと行った討論の映像があり、彼の思想をかなり立体的に見ることができる。
バチバチに火花を飛ばしつつ学生たちと同じ目線で語る三島の姿に感動!
学生たちは、思想的には逆の立場にいると思われる三島と対決すべく彼を招いていて、三島はときおり激しく学生と舌戦を繰り広げるのだが、ユーモアを交えながら、あくまで同じ目線でリスペクトをもって対話を続け、いわゆる敵地に乗り込んでいるとは思えないほど和やかな瞬間や、思いがけず根っこの部分で思想が重なっていることを、隙を見せつつも聴衆へ鮮やかに伝える。
その凄まじさは、実際の映像でこそ伝わる部分だと思った。芸術論や哲学、天皇などについて討論していて、その内容自体もとても面白かった。なかでも芥正彦氏(俳優・劇作家)とのやり取りには、とても心を動かされた。
三島と学生は、お互い未来をより良くしていこうという気持ちは確実に持っていて、ときに通じ合いながら、大きな問いに向かって真剣に語り合う姿には胸が熱くなった。ここから約50年が経ち、果たして当時よりも進歩した議論ができているか? と、この映画は問うているようにも感じた。自分を見つめ直すいいきっかけになった。
文:川辺素(ミツメ)
『三島由紀夫vs東大全共闘 50年目の真実』は2020年3月20日(金)より全国公開