ロッキーが「遠い昔」と語る勝利は、ドラゴにとって「昨日」の屈辱
本作のタイトルは言うまでもなく『クリード 炎の宿敵』であり、原題は『CREED II』なのだが、その真のタイトルというか心のタイトルは、やはり「ドラゴ」だと言いたい。1985年の『ロッキー4/炎の友情』におけるロッキーとアポロの敵、ソ連のボクシング・サイボーグだったイワン・ドラゴとその息子ヴィクターが、この映画の真の主役だ。
もちろんストーリー上の主役は前作に続き、アポロの息子・アドニスではある。今回はドラゴ=父を試合で殺した仇敵の息子であるヴィクターと闘うこと、自身も父になることで成長を見せる。ただ、そこにクリード家だけでなくロッキーのバルボア家、さらにドラゴ家のドラマが加わることで、映画の味わいが何倍にも増しているのだ。
オープニングシーンはドラゴ親子の朝。殺風景な部屋を出て、これまた殺風景な(冷たい色調で撮影された)街をランニングするヴィクターとドラゴの姿が映し出される。年老いて、しかし風雪に耐え抜いて凄味が増しているともいえるドルフ・ラングレンの皺だらけの顔がたまらない。
かつてロッキーに母国のリングで負け、それからどんな苦労を味わってきたのか。それがくどくどとした説明なしでも嫌というほど伝わってくる。ロッキーが「遠い昔」と語る勝利は、ドラゴにとって「昨日」の屈辱でしかない。
人生は報われる。“人間核弾頭”に栄光あれ!
個人的なことを言えば、1972年生まれの筆者は『ロッキー4/炎の友情』リアルタイム劇場鑑賞世代。ロッキー=アメリカが、ドラゴ=ソ連を倒してハッピーエンドといういかにも80年代らしい映画を見て、しかし日本の中学生は「ドラゴもかっこいい!」と興奮したのだった。ロッキーの山小屋トレーニングもいいが、ドラゴのSFみたいな器具を使ったウェイトトレーニングもやってみたかった。あの頃の「80年代筋肉アクション」はずっと馬鹿にされがちだったんだけど、リアルタイム世代には宝物だ。あれ見て映画好きになってんだ、こっちは。
そんな思いがこみ上げて、もうドラゴの顔だけで胸が詰まる。40代の人間にとって『クリード 炎の宿敵』はそういう映画だ。実際に物語のテーマとしても、ドラゴ親子が担うものは大きい。世界王者になったアドニスに対し、ドラゴ親子は挑戦者だ。うだつが上がらない人生を送ってきた人間が、なんとか「自分は負け犬じゃない」と証明しようとする。それが『ロッキー』の根底にあるマインドであり、そのマインドを今回、担うのはドラゴ親子なのだ。
クライマックスの試合は、シリーズ全体でも最高と言えるフィニッシュシーンを迎える。そこには、33年前のある出来事も関わってくる。ドラゴはロッキーにはできなかったことをやった。人生は報われる。“人間核弾頭”に栄光あれ。
文:橋本宗洋
【特集:俺たちのクリード】BANGER!!!執筆陣が全力で読み解く!アポロVS.ドラゴから、アドニスVS.ヴィクターへ。
『クリード 炎の宿敵』
『ロッキー4/炎の友情』でロッキーの最大のライバルにして親友のアポロは、ロシアの王者イワン・ドラゴと対戦。壮絶なファイトを繰り広げた末に倒され、そのまま帰らぬ人となった。あれから歳月が流れ、ついにその息子同士がリングに上がる。シリーズに新風を吹き込んだ傑作と全世界から大絶賛を受けた『クリード チャンプを継ぐ男』でロッキーのサポートを受け、一人前のボクサーへと成長した亡きアポロの息子、アドニス・クリード(マイケル・B・ジョーダン)。対する相手はドラゴの息子、ヴィクター。ウクライナの過酷な環境から勝ち上がってきた最強の挑戦者だ。アドニスにとっては、父を殺した男の血を引く宿敵となる。アポロVS.ドラゴから、アドニスVS.ヴィクターへ。時代を超えて魂のバトンが手渡される因縁の対決。絶対に見逃すわけにはいかない。世紀のタイトルマッチのゴングが、いま鳴り響く!
制作年: | 2018 |
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監督: | |
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