偏り気味と自称する映画嗜好やアーティストとしてのキャリアに影響を与えた“映画体験”と、それにまつわる人生の様々なエピソードをお届けします。
目に見えるものだけを本当に信じていいのか?
『ゼイリブ』(1988年)
まず(ジョン・)カーペンターが大好きっていうのと、『ゼイリブ』は自分の作るものの手法というか、内面的なものにいちばん影響を与えている映画です。
サブリミナルというか裏に隠されたメッセージというのが全部、どこにでも隠されてるんだよっていう設定じゃないですか。自分たちの目に見えて当たり前のように信じているものを、本当に信じていいの? って問いかけている映画な気がしていて。
僕は自分が作るものにはそれをすごく重要視していて。作って出して、それを見てもらって、いいねって言ってもらって、それを純粋に信じていいの? っていう作り方を常にしていて。どこかに普遍的なものを入れたりとか、遊びじゃないですけど、そういうことを作品の中に入れるようにしているんですけど、常に作品の中にイタズラみたいなものを入れるようにしていて。それの基になったのは『ゼイリブ』がすごく大きくて。
これを観て、なんか怖くなったというか(笑)。ぜったい無いと思うんですけど、でも絶対とは言えないなって。僕はこういう(エイリアンの)顔を見たことがないのでアレなんですけど、ただ見たことがないだけで……。なんかUFOとかと一緒で、見たことないだけで、いないってことが当たり前になってるけど、裏でこういう人(エイリアン)いてもおかしくないよなって、2回目に観た時にその不安がデカくなったというか(笑)
すごくカッコつけてるのにナチュラルに微妙
そんな大きなテーマのくせに、作りがものすごく雑じゃないですか(笑)。それがまた僕の何かをものすごくくすぐって。サングラスかけただけで見えるとか、どんだけ金かかってないんだっていう(笑)。出てくる奴も全員ショボい、その感じがたまんなくて。見極める唯一の道具がサングラスって……もうちょっとなんかあっただろうとか思いながら(笑)
でも、やっぱりすごくカッコいいんですよね、色味とかも。どこかにちょっとイタい感じがあるのもすごく好きなんです。すごくカッコつけてるのにカッコよくないという(笑)。これまでに挙げた作品とは逆ですよね。カッコつけて撮ってるんだろうけど、予算がなかったのかカーペンターの本質が出ちゃってるのか、カッコよくはない。というか、カッコはつけてるけどナチュラルに微妙っていうのが、すごくほっこりして観てると安心するというか。
『ダーク・スター』(1974年)とかも、初めて観たとき同じように思って。B級だけどすごくいい題材だなあと思って観てて、一番最後で「ええ……」って、やっぱカーペンターだった、って(笑)
普通だったら風刺的な部分をオブラートに包むというか、全面的に出すのはカッコ悪いとかってあるじゃないですか。でも、この人はストレートに結構バンバンやっちゃうなと思って、そこが好きなところですよね、裏に隠してるのにボロが出ちゃうというか。『ゼイリブ』でも、メッセージとしてものすごく分かりやすく出てたりとか、それこそエイリアンとかにしても。
『ゼイリブ』の影響は現在進行系
まさに、サングラスをかけてるときとかけてないときの差。あのギャップというか、あそこからの影響がめちゃくちゃ強いですね。
特に、いま作っているシュレッダーのシリーズの作品とかはまさにそうで、同じ写真を2枚使って1枚の作品を作ってるんですけど、2枚の写真の倍率ををちょっとだけ変えるんです。それで上下反転させて、交互に貼っていくんですけど、そうすると昔よくあった“レンチキュラー”っていう、観る角度で絵が変わるやつ、まんまああいうふうにはならないんですけど、目の錯覚で一瞬だけそう見えるんです。
肉眼だとパッて見たときには人が描かれているっていうのは分かっても、それ以外はグチャッとなっているように見える。すごく面白いのが、それをケータイとかカメラで撮って画面越しに見ると、この(『ゼイリブの』)サングラスをかけたときみたいに、脳が補正するのか目が補正するのか分からないんですけど、はっきりと絵が2枚入ってることが認識できるんですよね。
そういうところで言っても、すごく影響を受けてます。今まで挙げた映画の中で、自分の作品の技法に影響を受けてるのは『ゼイリブ』ですね。もうDVD何枚買ったかわからないです(笑)
<河村康輔「『グッドフェローズ』はマフィアの弱さも見えて、“分かるな~人ってそうだよね”って(笑)」(2/5)>