ベルリン国際映画祭が新体制で開幕! 新部門設立のねらいは?
70回目の記念の年を迎えたベルリン国際映画祭(ベルリナーレ)が2020年2月20日(木)に開幕した。昨年勇退したディーター・コスリックに代わって、今年からロカルノ映画祭のカルロ・チャトリアンをアーティスティック・ディレクターに迎え、新体制での新たな始まりの年でもある。
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新しいベルリナーレの目玉は、<エンカウンターズ>という新しいコンペティション部門の創設。カンヌ映画祭の<ある視点>、ヴェネツィア映画祭の<オリゾンティ>に当たる部門といえるだろう。第1回の審査員は、東京フィルメックスのディレクター市山尚三、チリのドミンガ・ソトマイヨール、ドイツのエヴァ・トロビッシュの3名だ。
これまでベルリナーレにはコンペを補完する形で、<パノラマ>と<フォーラム>という2つの部門がコンペに入らなかった新しい才能を紹介してきたが、<エンカウンターズ>がこの2部門とどのようなバランスをとっていくのかはまったく未知数だ。
世界基準のベルリナーレ 歴史を修正せずLGBTQやマイノリティー問題にも敏感に
ベルリン国際映画祭は戦後まもない1951年にアルフレッド・バウアーによって創設された。創設の功労者バウアーの名は、昨年まで銀熊賞に冠されていたが、今年に入って彼のナチス時代の活動が明らかになり、映画祭は直ちに彼の名を冠した銀熊賞を中止。代わりに今年はThe Silver Bear – 70th Berlinale(銀熊賞 第70回ベルリナーレ)を授与すると発表があった。歴史を修正しない、断固とした映画祭の態度を表明する出来事である。
20日の午前中にはコンペティション部門の審査員の記者会見が開かれたが、冒頭、審査員長のジェレミー・アイアンズから、性的虐待、同性婚、妊娠中絶の3つについて、過去に自分が行った発言の謝罪と訂正があった。この辺も、ジェンダーやマイノリティーの問題に敏感で、常に厳正な態度をとってきたベルリンらしい対応といえる。
また、オープニングを控えた19日夜にフランクフルト郊外のハーナウという町で、シーシャ(水煙草)を吸うバーが襲われ、トルコ系クルド人9人が犠牲になる事件が起きた。メルケル首相は直ちに地方出張を取りやめ、国民に向けて「人種差別は毒である」というメッセージを伝えた。これを受けて、映画祭でもオープニング・セレモニーの前に犠牲者とその家族に1分間の黙祷が捧げられた。
オープニング作品は『ワンハリ』のヒッピー少女ことマーガレット・クアリー主演作!
オープニング作品はフィリップ・ファラルドーの『マイ・サリンジャー・イヤー』(2020年)。作家志望の女子大生がふとしたきっかけでニューヨークの老舗出版エージェントに就職し、世間との接触を断った謎の作家サリンジャーへのファンレターに返事を書く仕事を命じられるというストーリー。主人公のジョアンナに『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』(2019年)でプッシーキャットを演じたマーガレット・クアリー、彼女の上司にシガニー・ウィーヴァー。20世紀末のニューヨークの文壇事情をコメディタッチで描きつつ、シガニー・ウィーヴァーの名演が全体を引き締めていた。
主会場ベルリナーレ・パラスト前のレッドカーペットに、主演のマーガレット・クアリー、シガニー・ウィーバー、審査員長のジェレミー・アイアンズが現れ、映画祭の開幕を華やかに盛り上げていた。
Screen legend #SigourneyWeaver at the #Berlinale 2020. pic.twitter.com/liwDlmq5mL
— Berlinale (@berlinale) February 21, 2020
文:齋藤敦子(Text by Atsuko Saito)
第70回ベルリン国際映画祭は2020年3月1日(日)まで開催