人間同士の“関係性”に訪れる死! 新鋭監督が最新作に込めたテーマとは
前作『ヘレディタリー/継承』(2018年)で全世界に恐怖の鉄槌をブチかましたアリ・アスター監督の新作スリラー『ミッドサマー』がついに公開された!
家族にとんでもない不幸が起き、人生のどん底に若くしてタッチしてしまったダニー(フローレンス・ピュー)。彼女はズタズタになったその心をどうにか紛らわすため、大学生の彼氏クリスチャン(ジャック・レイナー)と、その男友達3人が計画していた旅行に参加することに。
旅の行き先はスウェーデン奥地のとあるコミューン、ホルガ。クリスチャンの友人で、スウェーデンからの交換留学生ペレ(ヴィルヘルム・ブロムグレン)の地元である。なんでも、ホルガでは今年、90年に一度の夏至祭が執り行われるらしい。そりゃあもう、すごいらしい。しかし、思わぬダニーの参加に、異国でハレンチな一夏を過ごしたかった男たちはゲンナリ。かといって、皆がダニーの事情を知っているから蔑ろにはできない。ダニーはダニーで男たちのテンションの下がりっぷりを感じ取っている。
このあたりの心情を丁寧に描くところに、アリ・アスターの作家性と本作のテーマのひとつが見てとれる。ようは「関係性」だ。家族、恋人、友人、社会、ぼくらが生きていく上で大事な「関係性」に訪れる死……。
そんなこんなで、すでに「こんなはずじゃなかった」気分の一行だが、ホルガに着くと人々は5人を満面の笑みで迎えてくれる。白夜ということもあり太陽は沈まない。ホルガで生活する老若男女は皆生き生きとしていて、ファンシーな刺繍の入ったかわいい服で着飾り、歌ったり踊ったりでどこもハッピームード満載。ここはまさに、地上の楽園! なのかもしれない……。
そう思った矢先、突如始まった謎の儀式は、一瞬でダニーたちの常識、倫理観を遥か彼方へぶっ飛ばす強烈なものだった……!
本作は劇薬につき、服用の際には用法用量に十分ご注意ください!
スウェーデンの歴史や北欧神話を基に構築された特殊すぎる世界観は、ダニーと観客もろともパワフルに飲み込んでいく。ルーン文字の多用など知的好奇心をくすぐる側面もありつつ、アリ・アスターは姥捨伝説を描いた『楢山節考』(1958/1983年)や、今村昌平の『神々の深き欲望』(1968年)も参考にしたらしい。思えば日本の風習もかなり特殊なものが多く、あの盆踊りだって戦後ぐらいまで乱行パーティに近いものがあったとか(※下川耿史 著「盆踊り 乱交の民俗学」に詳しい)。だから、いろんな場面で薄~くでもどこか既視感があるはずだ。
そんな居心地の悪さに加えて、思わず目を背けたくなるドぎつい人体破壊と、サブリミナル効果的に散りばめられる大量の伏線のおかげで積み重ねられてゆく不安感。その果てに迎えるラストは、意味合いは違うけど『時計じかけのオレンジ』(1971年)のラストの爽快感にも似ている。
平たく観てしまえば現代社会と地続きに存在している異世界コワ~という異文化交流スリラーでもあるけれど、ときには笑っちゃうほどのコントにも見えるだろうし、切なすぎる恋愛話にも見えてくる。観る時の精神状態によって見方が変わってくる、という点では、服用する時の環境や体調によってグッドにもバッドにも転がるドラッグのような映画だ。本作のファースト・カットは当初3時間45分あったみたいだけど、この内容なら全然アリだったのでは!?
『ミッドサマー』は2020年2月21日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー
『ミッドサマー』
家族を不慮の事故で失ったダニーは、大学で民俗学を研究する恋人や友人と共にスウェーデンの奥地で開かれる“90年に一度の祝祭”を訪れる。美しい花々が咲き乱れ、太陽が沈まないその村は、優しい住人が陽気に歌い踊る楽園のように思えた。しかし、次第に不穏な空気が漂い始め、ダニーの心はかき乱されていく。妄想、トラウマ、不安、恐怖……それは想像を絶する悪夢の始まりだった。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年2月21日(金)よりTOHOシネマズ日比谷ほか全国ロードショー