キング「J・ニコルソン? 最初からヤバい奴に見えるじゃねえか!(怒)」
2020年2月にCS映画専門チャンネル ムービープラスで放送される「特集:原作 スティーヴン・キング」は、文字通りキング原作の映画を集めたもの。でも、その中の『シャイニング』(1980年)は原作者キングが、ことあるごとに「あれはダメだ」と腐してきた作品でもあります。
周知の通り、映画版『シャイニング』はスタンリー・キューブリックが手掛けたホラー映画の金字塔。展望ホテルの印象的な六角形テキスタイル、エレベーターホールに溢れる血の洪水、不気味な双子、斧で破壊した扉から顔を出すジャック・ニコルソン……それらの首根っこを掴むような力強いビジュアルを、キューブリック印のバキバキにキマッたシンメトリー構図や当時まだ珍しかった浮遊感満載のステディカム撮影で捉え、強烈に禍々しくも美しい! という奇跡的な作品でありました。
そんな映画にキングは不満たっぷりだったわけですが、そもそもキングはキャスティングの時点でも「ジャック・ニコルソンは違う!」と表明していたんです。なんでかというと、ご存知の通りジャック・ニコルソンはもう顔の造形からしてちょっとヤバい人。しかし、原作のジャック・トランスは良きマイホーム・パパ。良きパパが邪悪なホテルに取り込まれて徐々に変容していく様が怖いのに、ジャック・ニコルソンだと最初から不穏すぎるよ! ということなんですね。
そしてキングは、『真夜中のカーボーイ』(1969年)などのジョン・ヴォイト、『スーパーマン』シリーズ(1978年~)のクリストファー・リーヴなどをビシバシ推薦。しかし、これはキューブリックにサクッと却下されてしまいます……(ちなみにキューブリックはジャック・ニコルソンのほかにロバート・デ・ニーロやロビン・ウィリアムズでいく案も考えていたんだとか)。
キングとキューブリックの埋められない溝…‥でも「みんなちがって、みんないい」!
そんなわけで、キャスティング段階からすでに両者の思惑の不一致があったわけですが、出来あがった映画もまた原作と映画ではかなりの違いが……。
まず、原作では展望ホテル自体が善良なジャック・トランスを暴力人間に変えてしまうほど邪悪な意思と歴史を持つ呪われた存在であるのですが、映画版でのジャック・トランスはどちらかというと家庭不和と仕事の板挟み、加えて閉鎖された空間という状況でトチ狂っていくように描かれています。それから原作のジャックは、キング自身のアルコール中毒という過去を投影させてキングの半自伝的内容にもなっているのですが、これも映画版ではちょろっと匂わせる程度。そして、ジャックの妻ウェンディのキャラクターもほとんど正反対ともいえるぐらいのものだし、タイトルになっている“シャイニング”という超能力も映画版ではなんだかよくわからない。そしてトランス家が辿る結末も、映画版と原作では印象としては真逆のもの。
しかし、もうこれはしょうがないというか……。ディテールを積み重ねて読者の目の前に確固たる映像が立ち上るような小説を書くキングと、『2001年宇宙の旅』(1968年)が顕著のように極力説明を省いて映像だけで示唆していくキューブリック。そもそもアプローチの仕方がまったく違う両者なので、当然ともいえる結果な気が……。
ただ、考えようによってはキューブリック版を先に観てわからないことだらけなので小説を読んだという人は絶対に多かったはずだし、原作を読んで「あの巨匠が撮ったのなら観てみよう」という人も多かったはずで。どちらにせよ夢のコラボは大成功だったのでは? とも思うわけです。そんな「みんなちがって、みんないい」という金子みすゞな気分にしてくれる映画と原作の関係って、どう考えても素敵!
『シャイニング』はCS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:原作 スティーヴン・キング」で2020年2月放送
『シャイニング』
小説家志望のジャックは、ロッキー山上のリゾートホテルの冬季管理人として妻子と共に住み込むことになった。そこは「前任の管理人が家族を斧で惨殺し、自殺した」といういわく付きの物件。猛吹雪で外界と隔離されたホテルで、一家3人だけの生活が始まるが……。
制作年: | 1980 |
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監督: | |
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CS映画専門チャンネル ムービープラス「特集:原作 スティーヴン・キング」で2020年2月放送