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ポン・ジュノ監督がアジア映画の道を拓いた!『パラサイト 半地下の家族』作品賞・監督賞ほか4冠! 第92回アカデミー賞

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ライター:#齋藤敦子
ポン・ジュノ監督がアジア映画の道を拓いた!『パラサイト 半地下の家族』作品賞・監督賞ほか4冠! 第92回アカデミー賞
『パラサイト 半地下の家族』ポン・ジュノ監督 Adriana M. Barraza/WENN

言葉の壁を超える“映画言語”を持つポン・ジュノの歴史的勝利!

驚くべき幕切れだった。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』が、国際長編映画賞だけでなく、脚本、監督、作品賞も獲って4冠を達成。特に、韓国語を話す韓国映画が作品賞を受賞したことはアカデミー賞の歴史に残る革新的な出来事となった。

この番狂わせの理由の1つには、“白いアカデミー”と揶揄された数年前から、アカデミー協会が続けてきた改革(ジェンダーや人種の不均衡を是正し、世界中に会員を増やす)の成果が出てきたこともあるだろう。が、もちろん最大の理由は『パラサイト 半地下の家族』が素晴らしい作品だったからだ。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

基本的にアメリカでは字幕付きで映画を見る習慣がなく、外国映画は歓迎されない。最近の日本の若者もそうだが、字幕を読むのが面倒くさいというのだ。そんな中で『パラサイト』がこれだけ受け入れられたのは、先の見えないスリリングなストーリー展開と相まって、字幕を読まなくても映画を分からせるポン・ジュノ演出にある。映画をよく見れば、台詞だけでなく、必ず映像で語らせていることが分かるはずだ。だから、韓国を韓国語で描いているから分からないという部分がない。それは、とりもなおさずポン・ジュノが“映画言語”という国際語を身につけているからに他ならない。

『パラサイト 半地下の家族』© 2019 CJ ENM CORPORATION, BARUNSON E&A ALL RIGHTS RESERVED

助演の輝き、わだかまりを残した配信作品問題、前哨戦での賞疲れ……

第92回アカデミー賞もまた、ドキュメンタリー以外の配信映画は振るわず、主要部門では『マリッジ・ストーリー』のローラ・ダーンの助演女優賞のみに終わった。私はノア・バームバックの『イカとクジラ』(2005年)が大好きなので、同じ離婚をテーマにした『マリッジ・ストーリー』はちょっと食い足りなかったが、ローラ・ダーンの離婚弁護士役には瞠目した。

また、マーティン・スコセッシのファンなので『アイリッシュマン』を面白く見たが、傑作『グッドフェローズ』(1990年)や『カジノ』(1995年)と、どうしても比べてしまう。だから、この結果は配信映画に対する壁ではなくて、作品自体の問題かもしれないが、スティーヴン・スピルバーグが提起した「なぜ劇場で公開されない配信映画をアカデミー賞で扱うのか(エミー賞でなくて)」という問題に、答えを出さないまま来てしまったことへのわだかまりが残っていることも感じた。

意外に弱かったのは『1917 命をかけた伝令』で、鉄板だったロジャー・ディーキンスの2度目の撮影賞受賞の他は、視覚効果賞、録音賞という技術系2賞のみ。これは作品のせいというより、前哨戦で賞を獲りすぎた“賞疲れ”かもしれない。

『ワンハリ』こと『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』は、誰もが受賞を確信していたブラッド・ピットの助演男優賞と美術賞の2賞。クエンティン・タランティーノが脚本賞を逸したのは、もう十分報われているスター監督の彼より、『パラサイト』の斬新さに票が集まったからだろう。ハリウッドは新しもの好きでもある。

巨匠にスタンディングオベーション! ポン・ジュノが壇上からスコセッシへ感謝を伝える

主演男女優賞は本命中の本命、ホアキン・フェニックスとレネー・ゼルウィガーに。『ジョーカー』も『ジュディ 虹の彼方に』も、2人の演技がなければ成り立たない作品だから当然の結果だ。そのホアキンの受賞スピーチが素晴らしく、特に兄リヴァー・フェニックスの詩を引用しようとして一瞬声を詰まらせたところ(そして客席で涙を浮かべたルーニー・マーラ)が感動的だった。

授賞式の白眉は、ポン・ジュノの監督賞受賞スピーチで、映画学生時代に学んだマーティン・スコセッシの言葉を引用し(※「最もパーソナルなことが、最もクリエイティブだ」)、壇上からスコセッシに感謝を捧げると、スコセッシを囲んでスタンディング・オベーションが起こった。映画監督として優れているだけでなく、ポン・ジュノは人としても素晴らしかった。

文:齋藤敦子

『パラサイト 半地下の家族』は2020年1月10日(金)より公開

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『パラサイト 半地下の家族』

過去に度々事業に失敗、計画性も仕事もないが楽天的な父キム・ギテク。そんな甲斐性なしの夫に強くあたる母チュンスク。大学受験に落ち続け、若さも能力も持て余している息子ギウ。美大を目指すが上手くいかず、予備校に通うお金もない娘ギジョン… しがない内職で日々を繋ぐ彼らは、“ 半地下住宅”で 暮らす貧しい4人家族だ。

“半地下”の家は、暮らしにくい。窓を開ければ、路上で散布される消毒剤が入ってくる。電波が悪い。Wi-Fiも弱い。水圧が低いからトイレが家の一番高い位置に鎮座している。家族全員、ただただ“普通の暮らし”がしたい。「僕の代わりに家庭教師をしないか?」受験経験は豊富だが学歴のないギウは、ある時、エリート大学生の友人から留学中の代打を頼まれる。“受験のプロ”のギウが向かった先は、IT企業の社長パク・ドンイク一家が暮らす高台の大豪邸だった——。

パク一家の心を掴んだギウは、続いて妹のギジョンを家庭教師として紹介する。更に、妹のギジョンはある仕掛けをしていき…“半地下住宅”で暮らすキム一家と、“ 高台の豪邸”で暮らすパク一家。この相反する2つの家族が交差した先に、想像を遥かに超える衝撃の光景が広がっていく——。

制作年: 2017
監督:
出演: