ハリウッドが誇る人気女優シャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマン、マーゴット・ロビーが放つ、全米最大のTV局を揺るがしたセクハラ問題の真実を描く『スキャンダル』(2019年)。第92回アカデミー賞助演女優賞にノミネートされたマーゴット・ロビーが、本作のテーマとなるセクハラ問題や、『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『スキャンダル』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』といった話題作の出演が続いている今の心境を語った。
「誰かがセクハラであると定義しないかぎり、被害者が立ち上がって告発するのは難しい」
―どのように役作りしたのでしょうか?
私が演じるケイラは架空の人物で、FOXで働いていた2人の女性の体験を組み合わせたものなの。2人は守秘義務のせいで(セクハラについて)自ら証言することができなかった。でも、制作陣はFOXの女性社員の取材に何百時間も費やしていた。そこで得られた情報をもとに役作りをしたわけだけれど、彼女たちの体験を知ったことで、キャラクター作りができただけでなく、この物語をきちんと伝えなくちゃいけないという大きな使命感を抱くことができたわ。
―あなたとシャーリーズ・セロン、ニコール・キッドマンの3人がそろうエレベーターの場面がとても印象的でした。
あれは最初の脚本にはなかったの。最初に脚本を読んだときは、シャーリーズがメーガン・ケリーを演じることしか決まっていなかった。でも、そのあとにニコールとわたしが決まって、もしこの3人が同じ映画に出るなら、どこかで同じシーンに登場しなきゃもったいないということになった。そうやって作られたシーンなんだけど、あれは完璧だった思う。みんなそれぞれ苦境に立たされているんだけど、それぞれが孤立していて、あの時点まではお互いが助けを求めていない。あの場面の撮影をしているとき、台詞は全然ないのに、ものすごく多くのことを伝えられている実感があった。偉大な女優さんたちと共演させてもらえて本当に幸せだったわ。
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―この作品に参加を決めたのは、MeTooやTime’s Upなどでセクハラ撲滅の機運が高まったことと関係ありますか?
実は脚本を読んだとき、当初はセクシャルハラスメントの定義がナレーションで説明されることになっていたの。そこで、セクハラとは「歓迎されない性的な接近」と説明されていた。実は当時はすでにMe tooやTime’s Upのムーブメントが盛り上がっていて、職場の仲間とも話し合いの機会を積極的に持っていたので、セクハラのなんたるかを完全に理解していたつもりでいたの。でも、脚本を読んで、自分が何も分かっていないことを思い知らされたわ。それまでは、たぶん他の多くの人と同じように、セクハラとは肉体的に触れる行為だと思い込んでいた。でも、通りや飲み屋で冷やかしの言葉を浴びせることも立派な犯罪ということを悟ったわ。程度の差こそあれ、セクハラを体験したことがない女性は、おそらくこの世に存在しないことに気づいたの。その瞬間、この映画に参加しなきゃいけない、この物語を伝えなきゃいけないと思ったの。
―何がセクハラで、何が普通のコミュニケーションなのか、分かりづらいという声もあります。いわゆるグレーゾーンというものがありますが。
何がアウトで何がセーフといったルールを説明する人物として、私が適切だとは思わない。ただ、グレーゾーンは確かにある。そして、(米FOXニュースの元最高経営責任者)ロジャー・エイルズや彼のような人間は、グレーゾーンのなかでの行動を心がけていた。私が演じるケイラとのシーンで、ロジャーは肉体的には接触しない。だから、ケイラが部屋を出るときに、セクハラを受けたと断定できない。だらこそ悪質なの。権力のある人間が、あとで正当化できるように、意図的にグレーゾーンのなかでやっているから。ケイラの場合、自分が誤解しているんじゃないか、あるいは、自分が過ちを犯したんじゃないかとすら考える。被害を受けたのに、自分を責めてしまうの。同じ経験をしている人はたくさんいると思うから、本当に恐ろしいことだと思う。結論を言えば、あれは間違っているし、我慢すべきことじゃない。でも、誰かがはっきりとあれはセクハラであると定義しないかぎり、被害者が立ち上がって、告発するのは難しいことだと思う。
「女性同士が力を合わせないように、お互いを戦わせて、孤立化させた」
―いずれも野心を持った女性たちが、苦境に立たされるという展開になっています。
うん、この映画に登場する女性はみんな野心家で、ケイラにも野心家でいて欲しいと思った。最初の設定はそうじゃなかったので、チャールズ(・ランドルフ/脚本家)とジェイ(・ローチ/監督)に言ったの。「ケイラは野心家であるからこそ、最高経営責任者との面会を望んでいたんだと思う」と。ケイラはロジャーの部屋に入り面会をして、キャリアを推し進めたいと考えていた。まさかあんな展開になるとは予想もしていなかったわけだけれど。育ちの良さのせいで、ロジャーや職場環境を信頼しすぎていたのね。
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―あなたも野心家ですか?
もちろん。常にやる気に満ちていて、いつもキャリアのことを考えていた。子供の頃から、小さなビジネスを営んでいた。兄のおもちゃを盗んでは、道端で売ったり(笑)。
―(笑)。
いつもそんな感じだった。次はなにをしようと夢中になっていた。(出身であるオーストラリアから)アメリカに来たのもそう。役者としての次のステップはアメリカに来ることだと考えていたから。だから、夢中になってキャリアのことを考える人の気持ちはものすごくよく分かる。もっともロジャーの場合は、そうした女性たちをうまく利用した。自分が必要とされていることが分かっていたから、立場をうまく利用しつつ、女性同士が力を合わせないように、お互いを戦わせて、孤立化させたのよ。そうすることで権力の乱用を続けていくことができたんだと思う。
「たくさんの素晴らしい機会が同時にやってきて、ノーと言えなかった」
―あなた自身はニュースをよく見ますか?
これまでの人生で、ニュースとの距離感は近くなったり遠くなったりしているの。あらゆるニュースを追いかけている時期がある一方で、世の中でなにが起きているのかほどんど知らないときもある。ひどいことばかりで、目を背けたいというときとかはね。ただ、ドナルド・トランプが大統領になってから、私を含め、多くの人がニュースを知っておかなければいけないと思うようになったのは確か。これは不幸中の幸いともいうべきことね。個人的には「The Skin」というメールマガジンを購読しているの。二人の女性がはじめたもので、世界のニュースやおすすめのワインや書籍などをキュレートして、毎日メールで送られてくるのよ。ミレニアル世代の女性をターゲットにしたもので、すべてのリンクが貼られているから、詳しく知りたければソースに辿りつくことができる。いまの私にとっては、これが主な情報源ね。
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―野心的な作品につぎつぎと挑戦していますが、不安はないんですか?
他のみんなと同じように失敗するのは怖いわ。でも、仕事に関していえば、完成した映画がヒットするのか、どんなものになるのかは分からないものなの。参加したときは誰もが大ヒット確実だと思っていたり、あるいは、その映画のメッセージが世の中に響いてくれると思っても、見向きもされない結果になることがある。その一方で、きっと誰も観てくれないだろうなと思っていた作品が、爆発的にヒットすることもある。何が起きるか誰にもわからないし、だかこそ、分からないことに関して、必要以上に不安になるのは意味のない行為だと思うの。
―『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』『ふたりの女王 メアリーとエリザベス』『スキャンダル』『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』と出演作が目白押しで、『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒』に関してはプロデューサーも兼ねています。
あまりにもたくさんの素晴らしい機会が同時にやってきて、ノーと言えなかったから。ペースを落として、ちょっと休暇を取ったほうがいいのは分かってる。でも、素晴らしい機会があると断れないの。ただ、少しずつではあるけど、ペース配分を考えるようにはなってきてるわ。
取材・文:小西未来
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『スキャンダル』
FOXニュースの元人気キャスターのグレッチェン・カールソンが、テレビ界の帝王として君臨していたCEOのロジャー・エイルズを提訴した。そのスキャンダラスなニュースに、メディア界に激震が走る――。騒然とするFOXニュース社内。看板番組を背負う売れっ子キャスターのメーガン・ケリーは、上り詰めるまでの自身の過程を振り返り心中穏やかではなくなっていた。一方、メインキャスターの座を狙う貪欲な若手のケイラは、ロジャーと対面する機会を得ていた―。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |