第92回アカデミー賞で撮影賞、録音賞、視覚効果賞の3部門を受賞した本作。
第一次世界大戦における西部戦線の一幕を長回しで撮影し、まるで全編ワンカットのような驚異の映像を作り挙げた『1917 命をかけた伝令』。第92回アカデミー賞で作品賞、監督賞、撮影賞をはじめ10部門にノミネートされた本作について、重要な伝令を届けるべく命がけのミッションに挑んだ2人の英兵士スコフィールドとブレイクを演じた、ジョージ・マッケイとディーン=チャールズ・チャップマンに話を聞いた。
「有名な俳優が主人公を演じたら、観客が現実に引き戻されてしまう」
―名優たちが脇を固めるなか、おふたりが主役に選ばれた理由は何でしょうか?
ジョージ・マッケイ:サム(・メンデス:脚本・監督)にとって、ぼくらが無名であることは重要だったんだ。この映画は、観客に究極の没入感を与えるために作られているから。ワンカットは単なるギミックじゃなくて、主人公2人と一緒に観客を旅させ体験させるためのデバイスなんだ。その主人公を演じる俳優が、みんなの知っている顔だったら、観客は現実に引き戻されてしまう。だからこそ、ぼくらが選ばれたというわけなんだ。
ディーン=チャールズ・チャップマン:最初、ぼくはリチャード・マッデンに似ているとはぜんぜん思わなかった。だから、兄の役をリチャードが演じると聞いて、びっくりしたよ。でも完成作を見たら、「オー・マイ・ゴッド!」だった。ぼくが演じたブレイクの兄としてののリチャードの演技は圧倒的で、ぼくの訛りや動作をそのまま取り入れていたんだ。とてつもない仕事をやってのけたと思う。
―全編がワンカット撮影ではないとはいえ、ひとつひとつのシーンが長回しによって撮影されています。いったいどのように準備したのですか?
チャップマン:クランクインの半年ほど前にリハーサルを始めたんだ。リハーサルの第1週が11月で、それからリサーチのためにフランスとベルギーにも行ったよ。
マッケイ:撮影までの16週間をリハーサルに費やしたよ。舞台劇をやるときのように、会話のリズムを少しずつ作り上げていったんだ。まずは撮影予定の野原に行って、あるシーンのリハーサルを行う。その数週間後に同じ場所に戻ると、塹壕が半分ほど作られている。ぼくらのリハーサルの長さも計算して、セットが作られていったんだ。
「物語に完全に没頭できるワンカット撮影は、役者にとっては夢のよう」
―「カット!」となると、長い道のりを戻って初めからやり直したのですか?
チャップマン:その通り。監督がいるビデオヴィレッジ(※撮影現場のモニタールーム)ははるか遠くにあるから、「カット!」という声は届かない。だから、誰かが無線でぼくらに「戻ってこい!」と伝えることになる。それでスタート地点までとぼとぼと戻っていくんだ。たとえば、脚本ではたった3ページでも、現場に行くとそのシーンのために何キロにも及ぶセットが組まれていることがあって、移動距離の長さに圧倒されたよ。
―ミスができないというプレッシャーに押し潰されませんでしたか?
チャップマン:リハーサルのときのほうが、ずっとプレッシャーがあったね。数ヶ月リハーサルをこなしていくうちに、ワンショット映画に求められる“ダンス”を習得していくことができた。もちろん、本番においてまったく緊張しなかったとは言わないよ。本番で求められたのは、リハーサルでさんざんやってきたことをいったん忘れて、その瞬間に没頭すること。たとえハプニングが起きて、思い通りにいかなくてもね。足をすべらせたり、つまずくことがあっても、なるべくスムーズに見せて演技を続けていくしかないんだ。
マッケイ:うん、ミスをしたくないという気持ちはもちろんあったよ。でも失敗しても、みんなは許してくれた。スタッフもみんな人間だし、誰もがミスを犯していたからね。
チャップマン:ワンカット撮影は、役者にとっては夢のようだ。物語の世界に完全に没頭することを許してもらえる。ほとんどの場面で、ぼくはジョージと野原を歩くだけだから、映画を作っていることを忘れてしまうこともあった。会話に夢中になっていると、「カット!」っていう声で現実に引き戻される、っていうね。
マッケイ:まったく同感だね。映画作りの新しい形だと思うし、観客としてもこれほどの没入感は体験したことがないはずだ。今後、映画がさまざまな形に発展していくだろうけど、『1917』こそが、そもそものきっかけだったと評価されるといいなと思ってるよ。
取材・文:小西未来
『1917 命をかけた伝令』は2020年2月14日(金)より全国ロードショー
『1917 命をかけた伝令』
第一次世界大戦真っ只中の1917年のある朝、若きイギリス人兵士のスコフィールドとブレイクにひとつの重要な任務が命じられる。それは一触即発の最前線にいる1600人の味方に、明朝までに作戦中止の命令を届けること。
進行する先には罠が張り巡らされており、さらに1600人の中にはブレイクの兄も配属されていたのだ。戦場を駆け抜け、この伝令が間に合わなければ、兄を含めた味方兵士全員が命を落とし、イギリスは戦いに敗北することになる。
刻々とタイムリミットが迫る中、2人の危険かつ困難なミッションが始まる……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年2月14日(金)より全国ロードショー