ファニーな2人が巻き起こす、ちょっぴりファンタジックな逃亡の旅
マーク・トウェイン原作「トム・ソーヤーの冒険」の続編である「ハックルベリー・フィンの冒険」は、アルコール中毒の父親の元から逃げ出したハックと、大金持ちの奴隷であった黒人ジムが、自由を求めてミシシッピー川を下る物語。口八丁手八丁で抜群のサバイバル能力を発揮するハックと、彼とは対照的に心穏やかで高潔なジムの友情、そして様々な人との出会いが描かれる。本作はそんな「ハックルベリー・フィンの冒険」を下敷きにしたゴキゲンなロードムービーだ。
物語は、ふたりの逃亡者が偶然出会ったことからスタートする。ひとりは、他人の漁場に手を出して命を狙われる極貧漁師タイラー。もうひとりは、プロレスラーになることを夢見て施設を脱走したダウン症候群のザック。ふたりはスマホすら持つことなく、ザックに至っては服すらないパンイチ状態で、ワイルドこの上ない逃亡の旅が始まる。
ザックはダウン症候群ということから、いつも誰かに人生を管理されてきたが、タイラーと旅をすることで生まれてはじめての自由を満喫する。そしてザックの手助けをすることで、次第に人としての温度を取り戻してゆくタイラー。永遠に観ていられそうなほどに愛おしい、ふたりのサバイバル生活。そこからは障害者、人種、貧困、テクノロジーなど、いくらでも汲み取れる問題はあるけれど、物語はあくまでちょっぴりファンタジックなエンターテインメントに徹している。その潔い姿勢のおかげで、色あせることがない神話のような風格さえ漂っている。
全てはダウン症の俳優ザックの「映画スターになりたい!」という一言から始まった
そんなわけで、単なる弱者の物語になってはいない本作なのだが、それもそのはず、本作はザック役を演じたダウン症候群の俳優ザック・ゴットセイゲンありきではじまった企画なのだ。「ぼくは映画スターになりたい!」と夢を語るザックに、共同監督の一人であるマイケル・シュワルツは「そんなの無理だよ」と一蹴し、ザックが「なら僕のために映画を作ってくれよ!」と食らいついたことから、すべてがスタートしたという。
そんなザックは、撮影では脚本通りに動かないことも少なくなかったそう。しかし、対応するのは子役からキャリアを積む歴戦練磨のシャイア・ラブーフ。役同様にザックのすべてを受け入れてアドリブにも柔軟に対応したそうだが、<世間をお騒がせしてきた人生に疲れ切った男>という役どころが本人と丸かぶりで、完璧にマッチしている。
そしてなによりも、ひたすらザックの夢を後押しする様は、ネット上でいまなお擦られ続けているシャイア・ラブーフの「Just Do It 動画」にも通じるところ満載。グリーンバックでシャウトするシャイア・ラブーフを思いだし、思わずニヤリとしてしまうところ多々。そんな確信犯的キャスティングに完敗だ!
『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』は2020年2月7日(金)より全国公開
『ザ・ピーナッツバター・ファルコン』
老人の養護施設で暮らすダウン症のザックは、子どもの頃から憧れていたプロレスラーの養成学校に入ることを夢見て、ある日施設を脱走する。同じく、しっかり者の兄を亡くし孤独な毎日を送っていた漁師・タイラーは、他人の獲物を盗んでいたのがバレて、ボートに乗って逃げ出す。ジョージア州サバンナ郊外を舞台に、偶然にも出会った二人の旅の辿り着く先は……? やがて、ザックを探してやってきた施設の看護師エレノアも加わって、知らない世界との新たな出会いに導かれ、彼らの旅は想像をもしていなかった冒険へと変化していく。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年2月7日(金)より全国公開