日本を含む世界中で大ヒットを記録した『シャークネード』シリーズ(2013年~)全6作で監督を務めた男、アンソニー・C・フェランテ。竜巻に乗ったサメが空から降ってきて人を襲うという、映画『シャークネード』シリーズのブッ飛んだアイデアはどのようにして生まれ、多くの映画ファンに愛される作品となったのか? 知られざる『シャークネード』秘話をフェランテ監督自身が語ってくれた。
「サメが竜巻の中にいるのは不可能? 車もロボットに変身しないよ」
―『シャークネード』の成功、おめでとうございます。
ありがとうございます。とても感慨深いものがありますね。私は一風変わった高校生でした。映画を作りたかったし、自分のしたいことをする、映画好きのオタクだったんです。
高校生活では、ずっと映画を作りたいと思っていました。映画監督として一番変な仕事が『シャークネード』で、しかも、それが一番やりたかった作品であり、一番成功した作品でもあるという事実は凄いと思います。これこそがオタクの底力ですね、世界を揺るがすことだってできるんですから。それが、この作品に関わったことの一番の収穫だと思います。
私は、このシリーズが大好きです。世の中にはこの類の映画を嫌う人もたくさんいて、「サメが竜巻の中にいるなんて不可能だ」と言われますが、私の返事は「車もロボットに変身したりしないよ」ということです。両者の違いなんてなくて、ただ単にあちら側にはこちら側にはない潤沢な資金があるというだけなんです。
―『シャークネード』製作のきっかけを教えてください。
実は、映画製作会社のアサイラム社に関わる1年半くらい前には、『シャークネード』の脚本はできていました。何度か一緒に脚本を書き上げたことのある友人、ジェイク・ペアと2人でアイデアを出し合っていた時、ホラー映画畑の私でしたが、SF映画によくあるハチャメチャなタイトルをとにかく考えてみようと、2人で思いつく限りの題名を言い合いました。そこで『シャークネード』というタイトルが浮かんで、「うわっ、最高のタイトルだ!」と思ったんです。
他にも思いついたタイトルはありましたが、私たちはすぐに『シャークネード』のアイデアを売り込みにいきました。でも、当初は誰からも興味を持ってもらえませんでした。そこで、当時取り組んでいた『レッドクローバー』という作品の脚本に、シャークネードに言及するセリフを入れたのです。レプラコーン(妖精)を隠そうとする人物に言い放つ、「シャークネードの襲撃から被害を受けた、あの町の二の舞をしてはいけない」というセリフです。そのセリフに注目が集まり、『シャークネード』を実際に映画化するべきだという声が上がってきました。
私はその当時、アサイラム社の『ヘンゼルとグレーテル おそろし森の魔女』(2013年)の制作中でした。アサイラム社はSYFY(NBCユニバーサル傘下のケーブル局)と、たまたま『シャークストーム』という映画を計画中で、話題になっている『シャークネード』にタイトルを変更するよう要請を受けたのです。アサイラム社のスケジュール表を見たら『シャークネード』と記載があり、アイデアを盗られたのかと思いましたが、私を監督に指名してくれました。ずっとこのタイトルが気に入っていましたし、ジェイクと私が思いついた企画なので、観客が期待する展開通りに作れることは分かっていました。
「気負いなく楽しめる超娯楽映画を作る。それは“ロジャー・コーマン精神”でもあります」
―監督とアサイラム社の良好な関係の秘密は?
アサイラム社は、常に予算以上の映画を作ることを目標にしています。低予算であっても、あたかもメジャースタジオで制作された、潤沢な予算があるかの様な映画を目指しているんです。課題は、そのバランスをどう取るか。限られた資材でやりくりする必要があり、「あるものでどうにかする」という映画作りで鍛えられた私は、そういった制約の中でもあらゆるものを使って、最大限に表現することができるんです。そんな私の特性が“低予算という壁”を越え、それ以上のものを目指すアサイラム社の要望と合致したんだと思います。特に『シャークネード』シリーズでは、その方法が良い結果を出しましたね。
―低予算であること以外に、アサイラム社の映画の特色とは何でしょうか?
アサイラム社は独自路線を突き進んでいます。楽しめる映画を得意としていて、世界を良くしようとか、社会に問題提起しようとか、ドキュメンタリー映画を作ろうだとか、そういう課題を掲げていません。アサイラム社の特色は、ポップコーンを片手に気負いなく楽しめる超娯楽映画です。マーベル社もアサイラム社も目指しているのはそこであって、それがアサイラム映画の魅力と言えるでしょう。ただ、ポップコーンと言っても色々な味付けがあるように、アサイラム社は幅広くたくさんのジャンルの映画を作っています。それに、とんでもない発想を実際に映画作りに活かす怖いもの知らずでもあります。それは“ロジャー・コーマン精神”でもあるんです。コーマン監督は数多くのカルト映画を世に出し続け、その中からヒット作もたくさん生まれていますよね。
―監督は他にもたくさんの作品を制作されましたが、その中でも『シャークネード』が突出しています。これほどまでにヒットした理由を教えていただけますか?
アサイラム社もたくさんの映画を作ってきましたし、SYFYに至っては、10数年の間に200~250にも及ぶ映画を世に送り出してきましたから、このようなヒット作が生まれても不思議ではありません。また、この映画の予告編が公開された2013年の夏は、大作がこぞって不振だったのです。そういう状況の中、“大作のふり”をした、でも明らかに低予算で作られたちょっとおかしな映画に、観客の皆さんが興味をそそられたのでしょうね。大きな映画製作会社であれば、ひとつの映画に1億ドルの予算で100日費やすところを、私たちは全力を尽くして、100万ドルの予算でたったの18日で仕上げるのです。それが私たちの映画の魅力につながるし、できるかぎりチャレンジします。同じ低予算の映画と比べてみると『シャークネード』は本当に見応えがあります。
私とアサイラム社の相性がいいのは、私がアサイラム社の「大作を作りたい」という気持ちを汲み取り、その限られた予算内で、とにかくできるかぎりのことを詰め込み、面白いハチャメチャな映画を作るからです。それと、3人の役者陣の存在も大きいと思います。このジャンルの映画に出演経験のなかったジョン・ハード、タラ・リード、アイアン・ジーリングの3人が、この映画の価値を高めたと言えるでしょう。
そして観客は、お金がかからず自宅で気軽に楽しむことのできる映画を探していたのだと感じます。劇場で公開される映画の多くは、深刻だったり暗かったりしますが、これは楽しそうでハチャメチャでおバカっぽいところが多くのファンを獲得したのだと思います。
放送を重ねるごとに、ファンの口コミの力で視聴率がどんどん上がっていきました。それはとても稀なことなので、嬉しかったですね。ファンの力が私たちをここまでにしたのです。もともと宣伝予算も少なかったので、ファンが私たちを見つけてくれたと言えるでしょう。そういったファンのために、さらに5作品を作りました。
2作目に至っては、1作目よりさらに成功しましたよ。何よりも、ファンはずっとファンでいてくれたのです。ですから、このシリーズはファンのために作ったと言えます。
「ファンのために作り、ファンが応援してくれて、全6作という大ヒットにつながった」
―『シャークネード』が日本をはじめ、海外でも受け入れられると考えていましたか?
全く考えていませんでしたね。『シャークネード』はスロットマシーンになり、「アーチーvsシャークネード」というコミックになり、テレビや映画でもよく話題にしてもらっています。トレーディングカードの販売や地下鉄での宣伝もありました。このタイプの映画では、ありえないことばかり実現したんです。そのトレンドを実体験できたことは素晴らしい経験でしたね。
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翻訳されたことで、どの国に行ってもその地で楽しんでもらえ、私たちのことを知ってもらえるようになりました。世界に旋風を巻き起こすなんて、並大抵ではできません。私たちには“変なタイトル”しかなかったのですから。それにも関わらず、世界中にインパクトを与えたんです。
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―『シャークネード』シリーズ中のシーンや登場人物でお気に入りはありますか?
シリーズの中から選ぶなら、やはり一番人気のある『シャークネード カテゴリー2』(2014年)ですね。というのも、予算が1作目より多くて細かいところまで仕上げることができたのと、ニューヨークでの撮影だったんです。1作目と比べて難易度があがったぶん達成感もあり、素晴らしい出来になったと思っています。
登場人物は全員個性的で素晴らしいですね。フィンは面白いヒーローですし、エイプリルの役もブっ飛んでいます。その中でも、ノヴァが私のお気に入りですね。1作目で彼女のセリフをたくさん書きましたが、私と話し方が似ています。頭で考えていることを口に出してしまうところや、話す内容があちこちに飛ぶ感じ、変なことを口走る様子など、とにかく変人で、そこが好きです。不器用で最後の方は錯乱してしまいますが、そういう人物を描くのは面白いですよ。
―最後に、日本の『シャークネード』ファンにメッセージをお願いします。
日本の『シャークネード』ファンの皆様、いつも熱心に『シャークネード』を応援してくれて、ありがとうございます。日本で作られた素晴らしいポスターも拝見しました。日本での人気の凄さと、作品を大いに盛り上げていただいていることが伝わってきました。先程も申し上げたように、ファンの皆様がいなければ『シャークネード』が作られることはなかったんです。ファンのために作り、そしてファンが応援して下さり、その結果、シリーズ全6作という大ヒットにつながりました。本当に、ありがとうございました。またお会いしましょう!
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