豪華キャストだけじゃない! 王道ミステリーだからこそのカタルシス
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』(2019年)が少し損してるかもなと思うのは、映画の概要だけ聞くと、なんだか普通な感じがしてしまうことだ。
ダニエル・クレイグ、クリス・エヴァンスほか豪華キャストという以外は、たとえば「森の中の豪邸での密室殺人」であるとか「クセのある登場人物たちは全員が犯人の可能性あり」、「輪をかけてクセのある名探偵」と、とにかく王道なのである。王道とは「よくあるやつ」と思われやすいということだ。
しかも監督はライアン・ジョンソンである。『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』(2017年)で世界規模の賛否両論、まあハッキリ言えば特大の“否”を喰らってしまった男である。ゆえに、ポスターやツイッターでパッと見て「おっ」となるタイプの映画ではないかもしれない。
しかし、だ。この映画、見てみたらとにかく面白い。いや「面白い」ってなんのひねりもない表現だけど、グイグイ引き込まれて気がついたらクライマックスになっている。そのクライマックスで、見事なカタルシスがもたらされるのだ。
アカデミー脚本賞ノミネート! 老若男女にオススメできるエンタメ映画
そもそも“王道”とは誰にとってもとっつきやすいということだし、古典的な設定を“オリジナル脚本の新作”として見る新鮮さもある。殺されたベストセラー作家の子供と孫たちのキャラクター、それぞれが抱える問題と殺人の動機たりうる要素、また彼らの会話は非常に現代的で、間違いなく“2019年の映画”でもある。監督も、家族の描き方にはとりわけこだわったようだ。
テンポよく進むストーリーはまったく飽きることがなく、被害者の看護を担当していた移民の女性マルタ(アナ・デ・アルマスが好演)の見え方、観客にとってどんな存在なのかが、どんどん変わっていく感じも楽しい。意表突きすぎのギャグもあり。
そしてダニエル・クレイグ演じる主人公、ブノワ・ブランだ。図々しいようで繊細、鋭いようでボンヤリした面もあり、そんな個性に南部訛りが拍車をかける。クレイグにとって『007』シリーズに続く(と同時に毛色が違う)当たり役。続編の準備も始まったとのことだが、本作を見たら誰もが次なるブランの活躍を見たくなるというものだろう。
第92回アカデミー賞の脚本賞にもノミネートされ、ライアン・ジョンソン監督としては前作での賛否両論を吹っ飛ばした形。考えてみれば、それまでの作品が評価されて『最後のジェダイ』に抜擢されたわけで、この『ナイブズ・アウト』であらためて実力を証明したと言えるだろう。
「○○な人にオススメ」ではなく、老若男女全員にオススメしたい。個人的な話をすると、実家でよくケーブルテレビのミステリーチャンネルを見ている母親にチケットを送ってあげようかなと思う。
文・橋本宗洋
『ナイブズ・アウト/名探偵と刃の館の秘密』
NY郊外の館で、巨大な出版社の創設者ハーラン・スロンビーが85歳の誕生日パーティーの翌朝、遺体で発見される。名探偵ブノワ・ブランは、匿名の人物からこの事件の調査依頼を受けることになる。パーティーに参加していた資産家の家族や看護師、家政婦ら屋敷にいた全員が第一容疑者。調査が進むうちに名探偵が家族のもつれた謎を解き明かし、事件の真相に迫っていく―。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
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2020年1月31日(金)より公開