ポン・ジュノ監督最新作『パラサイト 半地下の家族』(2019年)が世界を席巻中の今、面白い韓国映画をもっと観たい! と飢餓気味の映画ファンも少なくないのでは? 2019年末だけでも『エクストリーム・ジョブ』(2019年)や『スピード・スクワッド ひき逃げ専門捜査班』(2019年)、『ザ・ソウルメイト』(2018年)『EXIT』(2018年)などアクションからコメディ、サスペンスまで豊作だった韓国映画界から、新たに感動のヒューマンドラマが上陸した。
微笑み番長チョン・ウソンが不器用な弁護士を演じる!
2020年1月24日(金)より公開の『無垢なる証人』(2019年)は、『私の頭の中の消しゴム』(2004年)の大ヒットで日本でも絶大な人気を誇るチョン・ウソンが主演。『アシュラ』(2016年)や『人狼』(2018年)などのシリアスな演技でさらに支持層を拡げた、言わずもがな韓国映画界におけるトップスターの一人だ。
そんなウソンが演じるのは、出世を諦めかけている中年弁護士スノ。人権団体の弁護士として長年働いてきたため質素な生活をしていて、一緒に暮らす父親には「彼女を連れてきたこともない」と心配される男やもめ。イケイケの大手弁護士事務所に移籍して1年ちょっとのスノだが、実力はあるのに良心を捨てることができない性格のため、相変わらず出世街道からは外れていた。
しかし、あるときスノに上司が「君をウチの看板弁護士にしたい」と声をかけてくる。彼の清廉な出自を利用して、大企業と癒着した事務所の高感度を上げようという算段だ。上司からの厚意という名のプレッシャーに負け、理想を捨てて妥協することを選ぼうとするスノだったが、ある事件を担当したことにより自閉症の少女ジウと出会い……。
若干ハタチの若手実力派キム・ヒャンギの自閉症演技がスゴい!
この物語の鍵を握るのが、『神と共に』シリーズ(2017~2018年)での好演も記憶に新しい若手女優、キム・ヒャンギ演じるジウだ。彼女は2000年生まれという驚きの若さだが、5~6歳の頃から子役として活躍している実力派。本作で見せる自閉症の演技はすさまじく、『神と共に』シリーズの時点では15~16歳だったことを考えるとますます驚きだが、なんとも将来が楽しみな女優である。
前置きが長くなったが、登場人物の背景をしっかり見せることで感情移入度も自然と高くなるので、そのあたりはさすが本国で記録的大ヒットを飛ばした『ワンドゥギ』(2011年)のイ・ハン監督。ひとクセある証人が物語の鍵になるという作品は過去にもあったが、本作のジウは被害者側の有利になる証人とは限らない、というのがミソ。スノは自閉症の少女の証言能力の無さを利用しようと、唯一の目撃者であるジウを法廷に立たせようと画策するというわけだ。
自閉症児の特徴でもあるが、ジウも驚異的な記憶力や計算能力を持ちながら不安障害や強迫障害のような症状が頻発するため、スムーズに話を聞くのは容易じゃない。最初は利用価値を探るためにジウに近づいたスノだったが、なんとか彼女の心を開こうとするうち自然と彼女のペースに合わせるようになり、その純粋さに曇った心を揺り動かされるようになるのだった。
ウソンの微笑み爆撃に萌えすぎ注意! やさしさと思いやりに満ちた感動ドラマ
こういったドラマでは肝心の裁判のシーンがヌルいとドッチラケになってしまうが、本作はそのあたりもしっかり描かれていて、法廷ドラマとしても見応えたっぷり。中盤過ぎ、どうにも容疑者のおばさんの動機がいまいち掴めないな……と観客が首を傾げたタイミングで驚きの展開を迎え、そこから目が離せない怒涛のクライマックスに向けて突き進む。
なお、スノの大学からの友人で中学生の娘を持つシングルマザー、スインとの微妙な大人の男女関係も描かれるので、ウソンのほのかな恋物語を期待したい人もご安心を。スインはある事件の被害者側の弁護士なのだが、スノの事務所は加害者側を弁護しているという、基本設定を有効活用した燃えるシチュエーションだ。
それにしても、理想と現実の間で葛藤するスノ……というか、苦悩するウソンのなんと美しいことか。ウソンの微笑み爆弾が何度も投下されるので、ファンは心して鑑賞するように。
『無垢なる証人』は2020年1月24日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開
『無垢なる証人』
長い間、信念を貫いてきたものの、現実と妥協して俗物になることを決めた民主弁護士会出身の弁護士スノ。自身の出世がかかった殺人事件の弁護士に指定されると容疑者の無罪を立証するため、唯一の目撃者である自閉症の少女ジウを証人として立たせようとする。自身だけの世界に入り込み、意思疎通が難しいジウ。スノは事件当日に目撃したことを聞くためにジウのもとを訪れるが、まともにあいさつもできない。だが、あの日のことを聞き出すためにジウと心を通わせていく努力をするスノ。少しずつジウへの理解を示していくが、2人は法廷で弁護士と証人として向き合うことになり…。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
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2020年1月24日(金)よりシネマート新宿、シネマート心斎橋にて公開