貝合わせならぬ“兜合わせ技”のバディ映画2本!!
今回は“男+男&男+男”の映画で行ってみたい。この男+男というのは、男たち同士の映画ってこと。男がやたら出てくるから、懐かしの上野の世界傑作劇場を彷彿とさせてしまうかもしれないな。いま流行りの限界突破映画ではなく、映画の中で限界突破した男たちの物語だ。
『最高の人生の見つけ方』(2007年)は、ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンの“死という宿命”を背負ったおじいさんたちによる、男+男の物語。
そしてもう一本、『ミッドナイト・ラン』(1988年)はロバート・デ・ニーロ演じる刑事くずれの賞金稼ぎと、チャールズ・グローディン演じるマフィア相手に義賊的な行為をした会計士による、男+男の物語という「バディもの」2本だわ。
「バディ」と聞くと、これまた往年のゲイ雑誌を思い出してしまうのも、オレの両親が新宿でやっていたスナックに集まっていた男+男だらけのお客様たちの影響なんだろうかね。
2本を一気に紹介というのも面倒だけども、この2本はCS映画専門チャンネル ムービープラスで観ることができるので、今回は特別編として、女性同士だったら「貝合わせ」だけども(日本版は吉永小百合と天海祐希の貝合わせだな)、男性同士なので「兜合わせ」技で行ってみよう。
それでは優秀なる編集部さん、2作品の説明よろしく!
『最高の人生の見つけ方』
46年間、家族のために働いてきた自動車整備工カーター(モーガン・フリーマン)と、会社を大きくすることに人生をつぎ込んだ実業家エドワード(ジャック・ニコルソン)。ガンで余命6ヶ月と宣告され、病院のベッドで隣り合わせた2人は、死ぬまでにしたい“リスト”を実現しようと生涯最後の冒険へと旅立つ。
『ミッドナイト・ラン』
シカゴ警察を退職し、ロスでバウンティ・ハンターをしているジャック(ロバート・デ・ニーロ)は、ギャングの金を横領したマデューカス(チャールズ・グローディン)の行方を追っていた。ほどなくマデューカスを捕まえるが、彼の命を狙うギャングと、逮捕しようとするFBIの両方から追われるハメになり、2人は珍道中を繰り広げる。
一つ一つの作品について書くと、こりゃオレも大変だ。この2作品に出てくる4人の男をひとりづつ切り取ってみる。
4名の男たちをシャッフルしたらどんな物語になるか……?
まずは、2作品計4名の主人公たちをおさらい!
『最高の人生の見つけ方』
①エドワード・コール(ジャック・ニコルソン)
暴君タイプの大富豪。自分の経営する病院には「リゾートじゃないんだから個室なぞ作らない」と啖呵を切るが、病に倒れ自分の病院の相部屋に入る羽目に。開頭手術で一命を取り留めるが、余命半年から1年という宣告を受ける。
②カーター・チェンバース(モーガン・フリーマン)
真面目なヴェテラン自動車工。実現しなかったが、若い頃に大学教授になる夢を持っていただけにとにかく博識で、職場の仲間とクイズをやるのと、テレビのクイズ番組(往年の「クイズグランプリ」風)でも視聴しながらバンバン答えを当てていく。これまた体調が優れず、半年から持って1年の余命を告げられる。コールより先に入院して静かに自分の死を受け入れて、死ぬまでにすること=「棺桶ノート」を書いていたが、そこに暴君コールが入院してきて棺桶ノートに自分のやりたいこと以外のトンデモナイ事柄を書き込まれ、余命短いタッグチームとなり、波乱万丈な旅に巻き込まれていく。家庭は妻・二男・一女・孫に恵まれ、本当に父親としての役目をやり遂げた男。
『ミッドナイト・ラン』
③ジャック・ウォルシュ(ロバート・デ・ニーロ)
元シカゴ警察の刑事。仲間に裏切られ、妻も盗られて刑事をやめて賞金稼ぎ生活に身を落としている。報酬を得る為には手段を選ばず、躍起になり血が登りやすい性格。賞金稼ぎ生活に嫌気がさしていたジャックは、ギャング相手に横領を働いた会計士を5日間で捕まえてくれば大きな報酬が転がり込んでくる話に乗る。賞金稼ぎをやめてカフェを開くという、本当なのか嘘なのか夢があり、即、行動に移して会計士の身柄を確保するが、面倒なことに巻き込まれる。身体に悪い食生活やチェーンスモーカーで自暴自棄な粗野な男。別れた妻と娘がいる。
④ジョナサン・マデューカス(チャールズ・グローディン)
会計士でありながら、ギャングから大金を横領して慈善事業に寄付したという、ねずみ小僧の様な会計士。ギャングのフロント企業とは知らずに働いていて、正体を知ったのでギャングを敵に回し命まで狙われる羽目に。とても悪いことをするような人間には見えないし、本人も悪いことをしたと思っていない、おっとり屋会計士。ジャックの夢であるカフェ経営の夢に、会計士として厳しいアドバイスや、食生活~喫煙までも咎め、ジャックをキレさせる。ジャックに巻き込まれた筈の男だったが、逆にジャックを大変なことに巻き込んでしまう無意識な悪魔的能力ありな男。
……まぁ、4人それぞれキャラクターは出来上がっていて、コンビも決まっているのだが、映画を見た人間はそこからファンタジーを膨らますことだってかまわないのである。なので、4人をシャッフルしてコンビを結成させてみるのだ。
パターンA | エドワードは楽器ケースに隠れて高跳び! 彼の金をジョナサンが横領!
①エドワード(ニコルソン)+③ジャック(デ・ニーロ)
強烈な毒舌コンビ結成だ。どこで知り合うのかが問題だが、エドワードが自分の会社の有価証券報告書の虚偽記載で大きなトラブルが発生! 病室の隣で寝ているカーターと一緒に高飛びを考えているエドワード。その首を狙う賞金稼ぎのジャックは病院に押し入りエドワードをしょっ引こうとするが、エドワードが「そんな人の首を狙うような賞金稼ぎをしていてどうする? しかも、今お前がオレを捕まえてもオレはもうじき死ぬんだから、死体の首持って帰っても報酬は半額だぞ! なら、そんなチンケな稼業から足を洗って、オレが海外に逃げるからお前はボディーガードをするべきだ!」と説得。カーターは置き去りにされ、エドワードとジャックの互いに毒舌で相手を罵倒しながらの旅が始まる。
しかし、エドワードは容疑者である。大きな夢は国内では叶えられない。そこでジャックは、大きな楽器を入れるケースを入手してエドワードの自家用ジェットでレバノンに高跳びって寸法。2人はベイルートで幸せに暮らしましたとさ。……と行きたいが、エドワードに寿命が来てしまった。ジャックはエドワードの遺言で莫大な財産を手に入れたが、それは汚れた金。賞金稼ぎのジャックは、今度は自分が賞金首となり追われる人生となってしまった。
パターンB | 貪欲な大金持ちエドワード、会計士ジョナサンに騙される?
①エドワード(ニコルソン)+④ジョナサン(グローディン)
エドワードは大富豪だが余命半年。自分の会社に戻っても、あの世に持っていけないお金の話を弁護士やら会計士やらと話すことに辟易している。そんなエドワードのもとに、ギャングの汚れたお金を横領して慈善事業に寄付した会計士のジョナサンのニュースが。目の前にいるハゲタカたちと比べ、この会計士は面白いことをやる人間だと興味を持ってアポを取る。ギャングのフロント企業ということを知らないで会計士をしていたジョナサンの話は痛快だった。エドワードは、命を狙われるにも関わらず慈善事業に寄付して飄々としているジョナサンを気に入って、それまでの会計士を馘首して自分の会社の会計士として雇い入れたのだ。
いよいよエドワードに死が訪れようとしていた。ベッドで死を待つエドワードの元に、馘首にしたはずの会計士が顔色を変えて飛び込んできた。「社長、大変です! 我が社の資産が全て横領されていて、会社は総て無くなりました! あいつの仕業です!!」という報告を聞くと、エドワードは「あいつ、オレが過去にギャングに頼んでトラブルをまとめて大金を稼いだことを知ったんだな。まぁどうせ向こうに持っていける金もない。あの会社はオレ一代で畳もうと思っていたから丁度いい。よくやってくれたよ! いいことに金が回るってことが大事だと、あいつから教わったよ……」と遺し、息を引き取ったのだった。
パターンC | ジャックはその後タクシードライバーに!? そして偶然が生んだ絆……
②カーター(フリーマン)+③ジャック(デ・ニーロ)
賞金稼ぎのジャックの仕事は荒っぽい。今日も愛車のシボレーで賞金首を追いかける為に派手なカーチェイスをして、ボディや足回りはボロボロ。移動費やら食費はクライアントから支給されるが、車の修理代はジャック持ちだ。いつものクルマ屋に持っていっても「もう廃車にするしかないぜ、ジャック。地球を何周も走るというよりも、太陽まで走った距離だぜ!」と言われ、長く付き合ったクルマ屋のオヤジと大喧嘩。このシボレーを直せる腕のあるメカニックを探すジャックがたどり着いたのが、汚い自動車修理工場。ジャックの車を見たカーターは「この程度なら、まだ慣らし運転だ、ちょっと揉んでやれば太陽から地球まで戻ってこれるよ」と修理を受ける。
ジャックのシボレーは見違えるように生まれ変わった。ジャックは完全レストアされた愛車で新しい賞金首を次々と捕まえた。これも全てカーターのおかげだと、自動車修理工場にカーターを訪ねるが、カーターの姿はない。まさか目当てのカーターが自分にとってのお尋ね者になるとは。必死にカーターを探すと、彼は余命半年の宣告を受けて入院していた。ジャックが虫の息のカーターに「お前のおかげでクルマの調子は絶好調だぜ」と告げると、カーターは「オレのほうがあのクルマより先に廃車になる運命だ。そろそろスクラップになる時が来た……」という言葉を遺して旅立っていった。残されたジャックはカーターの残したクルマをタクシーに改造して、ニューヨークでタクシードライバーに転職したとさ。
パターンD | 本当の人間の美しさとは? 心温まる家族ぐるみの付き合い
②カーター(フリーマン)+④ジョナサン(グローディン)
人が良すぎる2人なので、話は膨らまない。しかし、2人の友情は直接的ではなく、カーターの出来の良い息子と、ジョナサンとの出会いからだった。ニューヨークに出張したカーターの息子と、ある会社のコンサルティングの集まりで顔見知りになる。カーターの息子はジョナサンに、安い賃金ながら自動車修理工場で油まみれになり自分たちを育ててくれた父親が誇りだと語る。しかし、父親は病魔に侵されて余命半年であることも告げると、ジョナサンは心を打たれて一度でいいからカーターに会いたい気持ちになり、身分を隠して自動車修理工場にカーターを訪ねる。会話会話の中に溢れるカーターの優しさや豊富な知識にジョナサンは夢中になってしまう。そんな自分に好意を抱いてくれるジョナサンに対し、嬉しくなったカーターは自宅の家族パーティーにジョナサンを招く。
ジョナサンが到着する前、まさか彼が内緒で父親を訪ねたことなぞ知らず、息子はニューヨークで遭った素晴らしい人間性の会計士の話をした。カーターは、息子が語る会計士に一度でいいから逢ってみたいと思った。そしてチャイムが鳴る。玄関に迎えに出た息子が「なんで、あなたがここに!?」と大声で叫んだ。リビングに通されたジョナサンに「お父さん、さっき話していた会計士はこの人なんだ」と興奮気味だ。一瞬「?」となったカーターだが、頭の回転が早い男である。総てに合点がいったが、多くを語らず家族をジョナサンに紹介し、最後に「あなたのことは、さっき息子から聞きました。ニューヨークでは息子が本当に世話になりました」と感謝の意を述べ、「さぁ、料理が冷めてしまいます」と続け、みんなで乾杯したのでした。
寿命が近づいてきたカーターの家族の中に、ジョナサンはいた。「わたしは会計士になるため、そして仕事で沢山のペンを使ってきました。液漏れするのもあったので、手がインクまみれになりました。あなたのお父さんの、自動車工場で油まみれになった手のようにです。油もインクもまみれるということは、人から見たら汚いものに映るかもしれませんが、家族にとってはかけがえのないものということを、カーターから教わりました。」キレイなように見えて、本当は汚れているモノがある。汚れているように見えて、美しいものがある。
……そしてカーターは旅立っていった。ジョナサンはその後、ギャングのフロント企業の会計士だった自分を呪い、ギャングの汚れた金を横領し慈善事業に全額寄付したそうです。
オレも含めて金玉10個の物語! ザ・ドリフターズの5人って凄かったんだなぁ~
うーん、これだけの名優たちをシャッフルして妄想してもコレぐらいなもんだから、自分の想像力の乏しさを痛感したね。
で、このメンバーの中でオレが誰を相棒にして生きることができたら楽しいだろうか? それも考えたんだけども、もう面倒になってきたからこのメンバー4人とオレを含めた5人で、限界突破のような生き方をしたほうが楽しいかもしれない。
待てよ、そうなると男+男+男+男+男で“金玉10個”の物語だ。各々ひとりずつのキャラクターが集まった5人の物語だなぁ。まぁ、無理やりに5人で括った物語で人を喜ばせることが娯楽とすれば、それを毎週成立させていたザ・ドリフターズの5人って凄かったんだなぁ。というのが、今回のオレのとんでもない結論だった。読者諸兄も是非ともこの2作をセットで見て、あなたの男+男+男+男の限界突破を妄想してくだされ!
文:玉袋筋太郎
『最高の人生の見つけ方』『ミッドナイト・ラン』はCS映画専門チャンネル ムービープラスで2020年1月、2月放送