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いま明らかに! デニス・ホッパーからのメッセージ 全長3mの映画ポスター、完全再現!『ラストムービー』

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ライター:#セルジオ石熊
いま明らかに! デニス・ホッパーからのメッセージ 全長3mの映画ポスター、完全再現!『ラストムービー』
『ラストムービー』

【ポスターは映画のパスポート】第3回
真の映画作家にしてアーティスト、デニス・ホッパー

ピーター・フォンダの訃報(連載第1回:前編後編)、『ジャック・ニコルソンの『シャイニング』(連載第2回)ときて、デニス・ホッパーを忘れるわけにはいかない。と思っていたら、タイミングよく『ラストムービー』4Kリマスター版が公開されることになった。

1971年の製作から48年、日本では31年ぶりの上映。すごいことだ。

『ラストムービー』©1971 Hopper Art Trust, 2018 Arbelos

このデニス・ホッパーの監督第2作は“呪われた作品”ともいわれ、アメリカで短期間上映されただけで海外で公開されることもなく、お蔵入りになったとされている。初めて海外で一般公開されたのは1988年の日本。翌年にはデニス・ホッパーが来日して「東京デニス・ホッパー・フェスティバル」が開催され、ホッパーはトヨタ自動車やバスクリンのコマーシャルに起用されるほどだった。これもすごいことだ。

『ラストムービー』©1971 Hopper Art Trust, 2018 Arbelos

ホドロフスキーも協力していた突然変異的ハリウッド映画『ラストムービー』

『ラストムービー』は、西部劇のスタントマンがロケ先のペルーの山村で村人たちの不思議な儀式に取り込まれていく、シュールでビザールな幻想譚。ロック・サウンドに乗せてアメリカの現実に斬りこんだ『イージー★ライダー』(1969年)とは打って変わって、内省的で時間軸が定まらない、まるで“抽象画”のようなテイストなのだが、そもそもジャン=リュック・ゴダールやルイス・ブニュエルが好きだと公言していたデニス・ホッパーの作品なのだから、当然といえば当然な仕上がりだ。

『ラストムービー』©1971 Hopper Art Trust, 2018 Arbelos

ロケ地にペルーを勧めたのがアレハンドロ・ホドロフスキー(編集にも参加)だというエピソードもうなずけるし、今となっては2人の名を聞いただけでなんだか嬉しくなってくる。写真家としても知られるホッパーだが、それ以前から画家として絵筆をとっていて、そのほとんどが抽象画だった(初期作品はすべてロサンゼルスの山火事で焼失した)。『ラストムービー』は1971年のヴェネチア映画祭に出品され、CIDALC賞を受賞している(当時はグランプリや⾦獅⼦賞などの選出はなく、黒澤明の『どですかでん』などを押しのけての受賞だった)。

『ラストムービー』©1971 Hopper Art Trust, 2018 Arbelos

デニス・ホッパーは『イージー★ライダー』の記録的大ヒットで、時代の寵児となっていた。1969年秋、ブロードウェイ・ミュージカルで演奏を担当していたシンガー・ソング・ライターのジョン・バック・ウィルキンは、ニューヨーク・マンハッタンで開かれたあるパーティに出席し、アンディ・ウォーホルやボブ・ディランのバンドメンバーたちと一緒に楽しんだが、パーティの中心はまさにデニス・ホッパーとピーター・フォンダで、ルキノ・ヴィスコンティやベルナルド・ベルトルッチと語り合っているホッパーには近づくことすらできなかったと回想している(彼はしばらくしてクリス・クリストファーソンからホッパーを紹介され、『ラストムービー』に出演し音楽を担当することになる)。

監督第2作『ラストムービー』でデニス・ホッパーは、当時のハリウッドでは異例だった最終編集権を確保する。つまり、監督以外は勝手に編集を変えられないのだ。それでもユニバーサル社は、なんとか少しでも多くの観客に理解できるようヴェネチア映画祭で受賞したホッパーに再編集を申し出るが、拒絶される。結局、ニューヨークで2週間、ロサンゼルスで1週間、サンフランシスコで3日間上映されただけで倉庫にしまい込まれ、“封印”されてしまったというわけだ。わけのわからない映画を全米で公開しても赤字が増えるだけ、という企業らしい判断だろう。

『ラストムービー』©1971 Hopper Art Trust, 2018 Arbelos

『ラストムービー』のアイディアは、ホッパーがジョン・ウェイン主演の西部劇『エルダー兄弟』(1965年)に出演した際、ロケ地となったメキシコ・デュランゴ郊外の村で生まれた。村に建てられた西部劇のセットが撮影後に村人に贈呈され、村人がそこに住むことになると聞いたことから思いついたのだ。撮影を見学している村人たちは普段から腰に銃を下げていて、まるで映画の中の登場人物のようだった彼らが、映画のセットを現実の住居として使うようになる。そんな村人たちが、お祭りで使うような木の枝で作ったハリボテの映画カメラを使って、映画撮影のまねごとを始めたら……そして、カメラはハリボテでもその前で繰り広げられるのは、すべて演技ではなく本当の出来事だったら……アクションも銃撃も本物だったらどうなるだろう……。

アメリカ版1シートポスター(スタイルA)1971年
US1Sheet Style A 104cm×69cm 1971 Universal

『ラストムービー』のオリジナル・ポスター(スタイルA)は、4000メートル以上のアンデス山脈をバックにハリボテ・カメラの横にスタントマン=デニス・ホッパーが立っているモノクロ写真を2つ並べたものだ。「死ぬべき時がある……死ぬべきではない時もある」と意味深なコピーが付けられている。写真は、撮影に同行したデニス・ストック。あのジェームズ・ディーンの写真で有名な写真家によるものだ(彼は映画の中にも本人として登場している)。

アメリカ版1シートポスター(スタイルB)1971年 
US1Sheet Style B 104cm×69cm 1971 Universal

もうひとつのパターン(スタイルB)は、「今年度最大の問題作!」とぶち上げた、いかにもスタジオ(映画会社)主導型のシンプルなもの。下のほうに「あなた自身が観てジャッジしろ」と書き加えているのが、どことなく弱気でおかしい。なにしろ、ほとんど上映されていないのだから『ラストムービー』のポスターは存在自体が超レアで、小生もこちらのバージョンしか所有していないのが残念だったのだが、今回各方面を調べてみたが、どうも「スタイルA」がオークションなどで売買された記録が⾒当たらない。デニス・ホッパーの家に飾られていたのは確認したが、それ以外にはほとんど存在しない幻の試作品……おそらくヴェネチア映画祭用に少数だけ作られた特製ポスターだったのではないだろうかと考えられる。

さらに今回、ひょんなことから大変な発見をするに至った。『ラストムービー』にはさらに別のポスターがあったのだ。

高さ3メートル! 革新的メッセージ・ポスター

ポスター以外に、『ラストムービー』のロビーカード(ロビーに飾られる場面写真で通常は26センチ×34センチ)を数枚持っていたのだが、あらためて見てみると、それぞれの裏に何やら文字が印刷されている。どうやら、ロビーカードの裏側を合わせると、何か長いメッセージにでもなるようなのだ。まるで、宝の島の地図のようだ。さっそく裏側を並べてみたが、なんとも意味不明……。持っていたロビーカードが7枚しかないのだから仕方がないのだろうか。通常ロビーカードは8枚あるいは10枚セットだ。そこで調べてみると、なんと、これはロビーカードではなく、当時一枚のポスターとして製作されたものだということが分かった。つまり、ロビーカード風の写真が9枚連なり、その裏に(おそらくデニス・ホッパーが書いた)メッセージのような、詩のような、警句のようなものがアトランダムな向きに印刷されているのだ。その両面印刷によるポスターのサイズは前代未聞(いや前代未見か)のタテ302センチ×ヨコ35センチ! おそらく世界映画ポスター史上唯一の形状だと思われる。

まさに“アーティスト”デニス・ホッパー監督作にふさわしい“異形”の映画ポスターといえるだろう。どうやらロビーカードだと思っていたものは、逆に「ポスター」を裁断して再利用しようとしたものだったらしい。

およばずながら、ここでポスターの再構成に挑戦してみた。

謎のメッセージが記されたロビーカードの裏面

全体像を見る前に、ロビーカードの裏側に描かれているメッセージの数々を紹介したい。

以下、一部復元画像のためデータが小さくて見づらいのはご勘弁を。高さ(長さ?)3メートルだと想像していただきたい。

(左)表 (右)裏
アメリカ版スペシャルポスター 両⾯印刷 1971 年
US Special Poster 302cm×35cm Double-Sided 1971 Universal

「象徴主義(シンボリズム)も現実主義(リアリズム)も神秘主義(ミスティシズム)も、ひとつだと信じている。俺は、本当の超現実(シュールリアル)になりたい」

続いて、縦書きで「SEE A MOVIE, BE A MOVIE=映画を⾒ろ 映画になれ」と太字で記し、その横に「違う種類の映画を作りたいが、世界が真っ当になるまでは、世界が俺を苦しめるとの同じように、俺は世界を苦しめる映画を作り続ける」と大胆に宣言。続いて「あなたが観てきたすべての映画にして、あなたが語られてきたすべてだ」と続き、今度は小さめの文字で「俺は拒絶しようとしている。スクリーンに映っているのが俺たちの現実だという古い概念を」とある。

(上)ロビーカード表 (下)ロビーカード裏

「この映画は、何かを裁くことも、明確にすることも、証明しようとすることもしないだろう。その問いかけと声明は、明確なものではなく、暗示的なもので、観客それぞれの体験を超えて道筋を指し示しはしない。すべては演技、すべてはゲームだ。けれども、観客はそのゲームに参加していない」

「人は、ファサード=外観(うわべ)を身に着けて、ファサードを手に入れようとする。人間はファサードの上に棲んでいる。そして、ファサードを引っ掻くことは、棲んでいる世界を引っ掻くことと同じだ」


(左)ロビーカード表 (右)ロビーカード裏

そして最後に長い文章が続く。

「死が避けられないという自覚は、常に人間にあり、その日常を支配している。その自覚は若い時に訪れる。自分もいつか死ぬとわかっている若者たちのグループをひとつ選び、世界を変革しようと誘おうじゃないか。そうすれば、より深く死を意識している半数の若者は変革を目指すだろう。最後に何かを得るために、何かをしたいと願っているはずだ。残り半分の鈍感な者たち、未来に待ち受ける現実を知ることを恐れすぎている連中は尻込みし、古い慣習とその繰り返しの中で暮らすだろう。生きることなく、変わることなく、何も得ることのない人生。歴史とは、自らが死ぬことを、切実にそれを理解している若者たちのことだ」

これが、『ラストムービー』を作った男からのメッセージだ。

……さて、いったいどれほどの観客が映画を見て、このポスターを見て、文章を読んだのだろうか。もはや、このポスターは“映画”そのものになったといってもいい。……監督デニス・ホッパーは、焦っていたのだろうか。周囲から、映画会社から「この映画は意味が分からない」と言われ続け、悩み、怒り、ついに見つけたのがこのメッセージに溢れたポスターの制作だったのかもしれない。しかし、冷静になってから、「余計なお世話だったかもな」と思い直したのだろうか。その後、このポスターについて語ることは一切なかった。……アルコール&ドラッグ中毒でそれどころでなかったとのかもしれないが。

実は、このポスターは2種類以上作られていたフシがある。手元にあるロビーカード(裏面にメッセージ印刷アリ)のなかには、発見されている(写真がつながった)ポスターにはない文面や写真があるのだ。

 

アメリカ版ロビーカード 27cm×35cm 1971年
US Lobby Card 27cm×35cm 1971

「表⾯。表⾯を引っ掻け。別の表⾯を作れ。表⾯の下にあるのは何だ︖ それとも、表⾯は表⾯でしかないのか?」

つまり、このポスターもひとつの「表⾯」でしかないのかもしれない。

封印を解かれた『ラストムービー』各国版ポスター

さて、“封印”されていた『ラストムービー』は1988年になって、ようやく海外で一般公開された。何を隠そう、それは日本であった。「ロードムービー・シアター」と題された特集上映(渋谷PARCO劇場)で披露上映され、その後、全国で順次公開された。デヴィッド・リンチの『ブルーベルベット』(1986年)で再注目されたデニス・ホッパーの幻の監督第2作ということで、ツウな配給会社が英断しての公開だった(同時期にフランスでも公開されたようだが未確認)。その際に作られたポスターは、ホッパーとサミュエル・フラーが映った、なかなか味わい深いスチ―ル写真(これも撮影はデニス・ストック)が使用されている。

日本「ロードムービー・シアター」版半裁ポスター 1988年 企画制作・PRC
Japan B2 72cm×58cm 1988 PRC

日本版半裁ポスター 1988年 日本ヘラルド映画
Japan B2 72cm×58cm 1988 Nippon Herald

おそらく70年代後半に映画祭で上映されたときの物と思われる、イギリス版ポスターがある。これは、デニス・ホッパーの顔を大きくアップで使っている。「今までにあなたが見てきたものは、ただの“フィルム”でしかない。これは“シネマ”だ。最初から、最後まで」と、コピーもかっこいい(ちょっと長いけど)。

イギリス版クォード ポスター
UK QUAD 104cm×69cm ICA Projects

アメリカで2018年に上映された際に作られた近作ポスターは、どれもビビッドで鮮やかなカラーを強調している。4Kリマスターがウリということだからだろうが、なんだかまったく別の映画のように感じるのが面白い。そして、日本での再公開に合わせて、最新日本版も作られた。コピーは、どことなく最初のオリジナルポスターに近い気がする。

アメリカ版1シートポスター スタイルB 2018年
US1Sheet Style B 104cm×69cm 2018 Arbelos Film

アメリカ版1シートポスター スタイルA 2018年
US1Sheet Style A 104cm×69cm 2018 Paific Motion Piture

日本版半裁ポスター 2019年 コピアポアフィルム デザイン・成瀬慧(restafilms)
Japan B2 72cm×58cm 2019 copiapoafilm Designed by Kei Naruse(restafilms)

2010年に世を去ったデニス・ホッパーは、『ラストムービー』を半年以上かけて編集したニューメキシコ州タオスのインディアン(ネイティヴ・アメリカン)居住区に眠っている。死に場所は、すでに⾒つけていた……。

文:セルジオ石熊

翻訳協力:野崎敦子

『ラストムービー』は2020年1月31日(金)よりテアトル梅田ほか全国順次公開

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『ラストムービー』

ペルーのクスコにある小さな村で、ハリウッドからやってきた監督(サミュエル・フラー)一行は、ビリー・ザ・キッドの生涯をもとにした西部劇を撮影している。初めて映画の撮影現場を見る村人たちは、暴力に溢れた撮影風景を恐怖と好奇に満ちた目で眺めている。スタントマンのカンザス(デニス・ホッパー)も撮影に参加するが、ハリウッドのスノッブさを嫌う彼は、撮影隊の乱痴気騒ぎをうんざりとした顔で見つめている。
撮影隊が帰った後も村に残ったカンザスは、現地で知り合ったペルー人女性マリア(ステラ・ガルシア)と暮らし始め、自然のなかで彼女と過ごす幸福に酔いしれる。だが金塊探しに妄執する友人ネヴィル(ドン・ゴードン)を介して知り合った裕福なアメリカ人、アンダーソン夫人(ジュリー・アダムス)らと戯れるうち、カンザスは徐々に酒とドラッグの世界へはまり込んでいく。
一方、アメリカ人たちの撮影に感化された村人たちは、自分たちの手で“本物の映画”を作ろうと村に集結していた。彼らは木製のカメラやマイクを手に撮影風景を模倣するが、演技という虚構を理解しないこの撮影隊の前では、すべての行為は現実に行われなければいけない。たとえ暴力や死でさえも。
やがてドラッグの見せる幻覚に酩酊していたカンザスは、“本物の映画”で処刑される白人役として担ぎ出され、奇妙で不条理な世界に入り込んでいく――。

制作年: 1971
監督:
出演: