イーストウッドが描く! 爆破事件の英雄にふりかかった冤罪事件
2020年で90歳を迎える名優・監督クリント・イーストウッドが記念すべき監督40作目の題材に選んだのは、1996年に米アトランタで実際に起った爆弾テロ事件にまつわる真実のドラマ! 2020年1月17日(金)より公開の『リチャード・ジュエル』はそのタイトル通り、爆発物の第一発見者として英雄となった警備員のリチャード(当時34歳)が、FBIとメディアの先走りによって一転して容疑者扱いされてしまう恐ろしい顛末が描かれている。
本作の詳しいあらすじと、事件の翌年に発表された記事「AMERICAN NIGHTMARE: THE BALLAD OF RICHARD JEWELL」を執筆したマリー・ブレナーのコメントは、こちらの記事をどうぞ。なお映画の原作となったブレナーの記事は、現在ヴァニティ・フェアのWEBサイトに掲載中。まるで映画を観てから文章に起こしたのかと勘違いするほど詳細に記されているので、補足として鑑賞後に読むことをおすすめする。
多くの命を救った英雄を、なぜFBIは第一容疑者と断定したのか?
アトランタ五輪に沸くアメリカで起こった、この凶悪な無差別爆弾テロ事件について記憶している日本人は多くないだろう。100人以上の負傷者を出しながら死者が2人に留まったことも理由かと思うが、これは爆弾の入ったバッグがあるきっかけで横に倒れた(内容物の飛散が抑えられた)ことによる不幸中の幸いだったようだ。もちろん本作ではその様子も描かれていて、そのきっかけを作ったのがリチャードだったことも分かる。第一発見者というだけでなく、模範的な避難警告を含む彼の一連の行動が多くの人の命を救ったことは疑いようのない事実だ。
見た目もクリソツなポール・ウォルター・ハウザー演じるリチャードは実際、うだつの上がらない人物ではあった。母親と暮らす肥満体型のアラサー独身男性で、ジョージア州だけに趣味はハンティング。ちゃんと仕事もあり犯罪歴もないのでホワイト・トラッシュと呼ばれるほどの貧困層ではなかったようだが、決して勝ち組とは言えない生活だったはずだ。しかし、リチャードには向上心や有言を実行する意志の強さがあり、現代社会では希薄になった人と人とのつながりを大事にする人物でもあった。疑いの目を向けられる一因となった過去も、旧知の弁護士ワトソンの献身的な協力を仰ぐことができたのも、かつてのリチャード自身の行いが生んだ結果なのだ。
他人事じゃない! 誰の身にも起こりうる恐怖の冤罪事件
映画で描かれるFBIの横暴な捜査に憤りを感じると同時に、これが実話だということを思い出してゾッとさせられるだろう。効率的に犯人を絞り込むためのプロファイリングは手段と目的が逆転し、“孤独なテロリスト”という犯人像に当てはめやすかったリチャードを第一容疑者に仕立て上げる。そこに数字取りが全てのマスメディアが便乗し、英雄になるはずだった一般人を、ささやかな人生の表彰台から引きずり下ろしたのだ。決して買収されない(というイメージの)“法の執行人”への憧れから、自分に不利になると分かっていてもFBIの強引な捜査に協力してしまうリチャードの姿が哀しい。
そんなリチャードと母ボビが捜査と報道に蹂躙されるパートには心が締めつけられるが、弁護を求められたワトソンが登場するあたりからは観客も「一発かましたれ!」と反撃モードになり、握る拳に思わず力が入る。演じるサム・ロックウェルが醸し出す、育ちは良いが欲の薄い“枯れプレッピー”なワトソンの雰囲気も、こちらの応援モードをさりげなく盛り上げてくれる。映画に登場するメインキャラクター(のモデルになった人物)の半数が既に死去しているという業の深い実話だが、政権への忖度捜査がまかり通っている日本の現状を鑑みるに、我々も他人事と済ますことはできないだろう。
『リチャード・ジュエル』は2020年1月17日(金)より全国ロードショー
『リチャード・ジュエル』
1996年、警備員のリチャード・ジュエルは米アトランタのセンテニアル公園で不審なリュックを発見。その中身は、無数の釘が仕込まれたパイプ爆弾だった。
事件を未然に防ぎ一時は英雄視された彼だが、現地の新聞社とテレビ局がリチャードを容疑者であるかのように書き立て、実名報道したことで状況は一変。さらに、FBIの徹底的な捜査、メディアによる連日の過熱報道により、リチャードの人格は全国民の目前でおとしめられていった。そこへ異を唱えるため弁護士のワトソンが立ち上がる。無実を信じ続けるワトソンだが、そこへ立ちはだかるのは、FBIとマスコミ、そしておよそ3億人の人口をかかえるアメリカ全国民だった……。
制作年: | 2019 |
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監督: | |
出演: |
2020年1月17日(金)より全国ロードショー