カンヌ映画祭「ある視点」部門グランプリ受賞作が4年越しの一般公開!
第69回カンヌ映画祭「ある視点」部門でグランプリを獲得し、日本でも第29回東京国際映画祭で上映された『オリ・マキの人生で最も幸せな日』が、晴れて一般公開と相成りました。「オリ・マキ」という、おそらく日本で暮らす人々の多くにとっては耳慣れない響きの名前に、レトロなムードのモノクロ映像。どこの国、いつの時代の映画なのか、ぱっと見だけではわかりづらいけれど、フィンランドのユホ・クオスマネン監督による2016年の作品です。
舞台は1962年のヘルシンキ。フィンランドで初めて開催されるボクシングの世界タイトル戦に出場することになった選手、オリ・マキの実話にもとづいた映画です。ヌーヴェルバーグの映画に封じ込められた60年代の空気の再現を目指して、撮影はモノクロの16mmフィルムで行われているそう。ちょっとザ・ベンチャーズみたいなサーフ・ロック風味の劇伴もごきげんに、「そういう気分」を盛り上げます。
主人公のオリ・マキは、“パン屋の息子”の通り名を持つプロボクサー。アメリカ人チャンピオンとの試合に向けて、周囲からの期待とプレッシャーを一身に集めながら、かわいいライヤに恋をしてしまいます。そのうえ、減量しなければいけないのにスポンサーとの会食につきあわされたり、練習を撮影隊に邪魔されたりして、なかなかボクシングに集中することができません。
気の毒なシチュエーションと恋愛初期のキラキラに満ちたハッピーな場面とを淡々と積み重ねるうちに、オリ・マキは大切な試合の日を迎えます。ボクサーとして、恋する男として、彼は勝利を掴むことができるのか。そして、そもそも勝利とは?
スポ根ものとは非なるとぼけた味わいに、かわいらしいキャストたち
普通ボクシング映画というと、まず血のにじむようなトレーニングを重ねてドラマチックに対戦相手を倒す熱い物語の数々が思い浮かびますが、この作品にはそれを期待してはいけません。スポーツものの定石を外す、とぼけた味わいを楽しめるひと向けの映画です。男たちだけでサウナではしゃいだり、自転車2人乗りで木漏れ日の下を駆け抜けたり、「森と湖の国フィンランド」へのあこがれがつのる場面も。特に突然の凧揚げには笑顔になってしまいました。
オリが恋するライヤが髪型とスタイリングも含めて、たいへんかわいらしいのも見どころです。演じるオーナ・アイロラは歌手としても活躍しているそう。オリを見つめる横顔はまるで80年代少女漫画のヒロインのようです(岩館真理子とかくらもちふさことか、そういうイメージ)。とはいえ、オリが小柄でライヤのほうがすらりと背が高いあたり、現代の映画だなあと思います。女性のほうが背の高い男女のカップル、60年代の映画ではあまり見かけなかった気がしますよね。
興行化・商業化するスポーツと、個人に国を背負わせるような大衆の熱狂に対する批判的な視点を含みつつ、飄々として愛らしい映画です。東京でのオリンピック開催が予定され、アスリートへの勝手な期待がますます過熱していきそうな2020年。オリンピックに盛り上がれないほうの人間として、こういった作品が街の映画館にかかっているのは、ちょっとほっとするというか、素敵なことだなと思うのでした。
文:野中モモ
『オリ・マキの人生で最も幸せな日』は2020年1月17日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開
『オリ・マキの人生で最も幸せな日』
1962年、夏。プロボクサーのオリ・マキは、世界タイトル戦でアメリカ人チャンピオンと戦うチャンスを得る。
ヘルシンキの明るい陽射しの中、お膳立てはすべて整いあとは減量して集中するだけ。周囲の期待を一身に背負い、フィンランドの誇りのために闘うはずだった。
そんな時、なんとオリはライヤに恋をしてしまった!
国中の期待を背負う周囲が勝手に盛り上がり、赤の他人に期待される中、自分なりの幸せをつかむために彼が取った行動とは?
制作年: | 2016 |
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監督: | |
出演: |
2020年1月17日(金)より新宿武蔵野館ほか全国順次公開