「東京コミコン2019」のアーティストアレイに出展したカナダ出身の人気コミックアーティスト、チップ・ズダースキー氏(代表作:「Sex Criminals」「スペクタキュラー・スパイダーマン」「ハワード・ザ・ダック」など)のインタビュー後編をお届けします。マーベルで働くきっかけは前編(マーベルで働くきっかけは?スパイダーマンを描いてる超人気アメコミ作家にインタビュー!)をチェック。
マーベル・コミックスと、イメージ・コミックス、それぞれの魅力とは?
―「Sex Criminals」を出版しているイメージ・コミックスなどで自分たちのオリジナル作品を手掛けるのと、マーベルなど大企業のキャラクター作品を手掛けるのでは、どこが違いますか?
例えば、イメージ・コミックスでは誰も僕らがやっていることに口出しをしてきません。僕とマットが権利を持っていて、僕らが完成させたらすぐに印刷所に向かっていきます。
でもマーベルだと、脚本を書いたらまず編集者がチェックして、自分がアーティストに連絡して、すると編集者の上の人からまたメモが来て……といった感じで、自社のキャラクターを大事にしています。作家がキャラクターの権利を持ってるわけではないので、例えばスパイダーマンに人を殺させたりなんてことはできません。
Big brimping news, brimpers! SEX CRIMINALS was the #1 graphic novel in April, thanks to you! http://t.co/UU8nZ15qBg pic.twitter.com/2rfD67yKQe
— Image Comics (@ImageComics) May 9, 2014
イメージ・コミックスだったら「Sex Criminals」にいきなりドラゴンを出したり、全ページを真っ黒にして出しても、誰も止めに入ってきません。だからイメージ・コミックスでは完全に自由ですね。マーベルはより注目を集めることができますが、そのぶん自由はありません。あと、マーベルの場合は“終わらせる”ことができないんです。自分が1シリーズを最初から最後まで担当したとしても、そのキャラクターの物語は終わらない。また、キャラクターを大きく成長させるということもできないんです。
もしスパイダーマンが成長しきって失敗しなくなったら、そりゃもうキャプテン・アメリカみたいな感じになってしまいますから、誰もそんな「スパイダーマン」を読みたくはないでしょう。とにかく、エンディングがないというわけです。
―それで短編の「Spider-Man: Life Story」では、スパイダーマンがちゃんと年をとって死ぬところまで描いたんですね。
そうなんです。そういう話にすれば終わりがかけるんじゃないか? と思ってマーベルに提案したら、やらせてくれました。楽しかったですよ。
https://twitter.com/zdarsky/status/1141802009164681216
―マーベルなどの大企業では、有名なキャラクターを使えるのも魅力ですよね。何か担当してみたいキャラはいますか?
バットマンですね。実はDCコミックスのハーレイクインの短編(「Harley Quinn 25th Anniversary Special」)の中で、ちょっとだけライターとしてバットマンを書くことができましたが、それっきりで。アーティストでもライターでもいいので、バットマンをやりたいです。でも、今はDCに連絡しても返信すら返ってきません(笑)。
―その一方で、オリジナルのコミックは自分で権利を持てるのも魅力です。「Sex Criminals」はドラマシリーズ化の予定もありしたよね?
数年前にユニバーサルに権利を売りました。今はマットが脚本を書いている段階です。まだ実現すると決まったわけではないですが、実現したら嬉しいですね。
―何らかの形で参加する予定はありますか?
いまは忙しいし、あまり関わりたいとは思っていません。そもそもTVドラマの制作の構造が苦手だったりします。TVドラマは脚本を書いたらそれをお偉方がチェックして、メモをよこしてきて直したり、お偉方がクビになったら新しい奴が来て、やり直しになって……。時間がたくさんかかる上に、最初に目指した作品になってない! なんてことが起こりますから。でもコミックは純粋に、自分たちで描いたらそれで終わりですから、そこが気に入っているところでもあります。
―ご自身で描かれたキャラクターのキャスティングに意見を言いたくないですか?
完全に思い通りにいくものじゃないのであれば、関わりたいとは思わないですね。それで批判されたくはないですし、批判を受ける役はマットに任せておきますよ(笑)。
―最近イメージ・コミックスから出版したオリジナルの「The White Trees」は、アーティストのクリス・アンカから「オークのチ○チンが描きたい」とメールがあって始まったそうですが、マーベルではアーティストとのやりとりはどういった感じなのでしょうか?
イメージ・コミックスでは、例えば「The White Trees」だとクリスと話をして、彼が描きたいものを言ってきて、それに合わせてストーリーを作って、クリスが新しいアイデアを思いついたらストーリーを直していったりと、アーティストとのやり取りを繰り返しながら作っていきます。
マーベルの場合は、自分はストーリーを担当して、アーティストはアートをストーリーに合わせて担当するといった具合で、独立して仕事をしているような感じですね。
実は「The White Trees」は続編を考えているところです。クリスは中年の暗殺者と太ったエルフの婦人を描きたいと言ってるので、前と同じようなプロセスでキャラクターのアイデアを活かしたものになりますね。
https://twitter.com/kristaferanka/status/1151874355158118400
―マーベルでも、ご自身のストーリーに合わせたアーティストを選ぶことはできるのですか?
たまにできますね。とりあえずマーベルにお願いすることはできます。例えば「Spider-Man: Life Story」では、マーク・バグリー(「アルティメット・スパイダーマン」)に担当してほしくて、彼が興味があるかどうかマーベルに確認してもらいました。
基本的には、マーベルが5人くらいに絞ったアーティスト候補者の中から選ばせてくれるといった感じですね。ただ、「Daredevil」の時は12人くらい候補者がいましたが、どれもしっくりこなくて、最終的にマルコ・チェチェット(「スター・ウォーズ:砕かれた帝国 」)を紹介されて、「彼しかない!」と思い起用しました。なので、マーベルもある程度の範囲で選ばせてくれています。
Marvel's "Star Wars: Journey to #TheForceAwakens - Shattered Empire." Coming September 2015. pic.twitter.com/sSg7srbQQ6
— Marvel Entertainment (@Marvel) March 13, 2015
―今後一緒にお仕事をされてみたいアーティストは?
いま仕事をしてみたいのは、スチュワート・イモネン(「Amazing Spider-Man」「All-New X-Men」)ですね。スーパーヒーローものの最高のアーティストだと思いますし、描くスピードも速く、いろんなスタイルをやれる人です。まぁ彼は忙しいですけどね。
Preview #AllNewXMen #29 by @BRIANMBENDIS and Stuart Immonen, on sale July 9: http://t.co/vtiUSUJauI pic.twitter.com/nbJUBGe8dA
— Marvel Entertainment (@Marvel) June 17, 2014
―「Sex Criminals」にはセーラームーン風アニメのファンであるキャラクターが登場しますが、日本のマンガやアニメはチェックされていますか?
もっとすべきだとは思うんですが、チェックし足りていないという状況ですね。そこにいるクリス(・ブッチャー。カナダのアーティストのイベント<TCAF>の主催者。今回のインタビューに協力していただきました)がとにかく詳しいので、彼に色々と教わっています。10代の頃は「らんま1/2」や「めぞん一刻」が好きでしたね。
―当時から英訳版が出ていたんですね。
クリス・ブッチャー:90年代に、小学館関連の会社が出していました。ただ当時、いわゆる日本の雑誌や単行本みたいな形ではなく、各話単位でコミックショップで売るという(アメリカのコミックのリーフと呼ばれる形式に近い)ものでした。
セーラームーンは大学生のときにハマってましたね。タキシード仮面が好きでしたよ(笑)
先輩から超貴重なアドバイス!「アメコミ界で活躍する秘訣は?」
―日本にはアメリカのマーベル・コミックスやDCコミックスといった大企業と仕事をしてみたいというアーティストがたくさんいますが、そういった人たちに向けて何かアドバイスはありますか?
まずは「自分のコミックをやれ」ということですね。オリジナルの作品を作り上げることで得られる楽しさを味わうべきです。そうすることで、速く描けるようにもなるし、上手くもなっていきます。それからマーベルやDCを目指したほうがいいでしょう。
マーベルやDCで働きたいからということで、その会社のキャラクターを使ったサンプルのページを作るなんてことに注力している人もいますが、まずは自作のコミックを仕上げた方がいい。完成品をマーベルやDCの編集者に見てもらえば、彼らを感心させることができるかもしれないし、そもそも自作のコミックが上手くできていれば、マーベルやDCの手なんて借りる必要はないという場合もあります。
コミックの出版社がまず見るのは、“作品を完成させられる”能力を持っているかどうかです。完成した一冊を見せれば、とりあえず作品を完成させられるという点で評価がもらえるんです。あとは、ちゃんと作り続ければ上手くなりますからね。テクニックは後からついてくるものですよ。
とにかく、マーベルやDCに見てもらおうと彼らのキャラクターを使ったサンプルを見せても、悪いところが見えてしまうのでダメなんです。
―ライターとして、良いストーリーを作り出す秘訣は?
まずはキャラクターの設定に注力することですね。そして、そのキャラクターが何を求めているかをしっかり描く必要がある。そこにストーリーがありますから。
何を書くにしても、キャラクターが何を求めているかを常に考えるんです。そしてストーリーを通じて、それをどう助けるか? ということを考えます。キャラクターを成長させる、もしくはマーベルの場合は成長したように見せるには、何を求め、それに向けて何をするか? を描くのがいいんですよ。
例えば、ひとりの人間を除いて全員ロボットの惑星という設定を作ったとして、ロボットが何を求めるのか? 人間が何を求めるのか? という部分を書けば、自ずとストーリーが前に進んでいくわけです。
―アート面では、現在も練習などはされていますか?
いまはもう忙しすぎて、仕事をしながら鍛えているという状態ですね。もちろん若手のアーティストであれば、いろいろな練習をしたほうが良いとは思います。
「お前がやらねぇと何も完成しねぇんだ」という標語を自分でポスターにしてスタジオに貼っています。いろいろ構図を考えてみたり、落書きをしたりしても、僕が机に向かって描かなかったら始まらないし、終わらないんですよ。
取材・文:傭兵ペンギン
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