1、『ゲティ家の身代金』(2017年)
孫を誘拐されたドケチ大富豪じいさん「お前らに払う身代金はねえ!」
『ストレイト・アウタ・コンプトン』(2015年)や『ボヘミアン・ラプソディ』(2018年)などの音楽映画をはじめ、2020年1月公開の『リチャード・ジュエル』や『フォードvsフェラーリ』などなど、伝記映画や史実ベース映画がちょっとしたブームになっている。2017年公開のリドリー・スコット監督作『ゲティ家の身代金』も、1973年に実際に起こった誘拐事件をもとにした映画だ。
本作の中心人物は、父の事業を受け継ぎ石油採掘で億万長者となったジャン・ポール・ゲティ(当時81歳)。彼の孫ジャン・ポール・ゲティ三世(当時17歳)が1973年に誘拐され、犯人から1700万ドル(約50億円)という破格の身代金を要求された事件が物語のベースとなっている。
これがフィクションであれば、世界一の大富豪が無事に孫を救い出すべくその財力で犯人たちに天誅を下す、なんともスリリングかつエキサイティングなお話になりそうなものだが、実在のゲティはドがつくケチ爺だったからさあ大変! なんと犯人の要求に対し「お前らに払う金はビタ一文もねぇ!」と支払いを拒絶したものだから、世界中で「なんてクソ祖父だ!」と大炎上したのである。
登場人物がそんなドケチ爺さんだけでは映画が秒で終わってしまうので、本作は三世の母でジャン・ポール・ゲティ・ジュニアの元妻、アビゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)が主人公となって物語を推進する。彼女に協力するのが元CIAのフレッチャー(マーク・ウォールバーグ)、犯人とゲティ双方の交渉役として協力。犯人だけでなく被害者とも交渉しなければいけないなんて、もはやたちの悪い冗談のような実話である。
そんなゲティだけに彼の子どもたちは波乱の人生を歩んでいて、誘拐のトラウマのせいかドラッグに溺れた三世をはじめ、大企業の重圧に押しつぶされ自殺した長男や怪死を遂げた他の孫など、控えめに言っても呪われているとしか思えない。中には写真通信社の大手<ゲッティイメージズ>の創業者や俳優のバルサザール・ゲティなど成功した者もいるが、ケチなうえに女性関係も節操のなかったゲティ爺の強烈さをつくづく思い知らされる映画だ。
2、『ドリーム』(2016年)
米ソ宇宙開発競争の裏側で活躍したのは黒人女性たちだった!
そんなお金持ち白人とは正反対の“持たざる者”たちによる知られざる功績を描いた感動の実話が『ドリーム』(2016年)だ。本作の主人公は米バージニア州、NASAのラングレー研究所で働いていた宇宙飛行士……ではなく、優秀な数学者キャサリン(タラジ・P・ヘンソン)を筆頭とする黒人女性たち。ソ連とアメリカが宇宙開発で競っていた1960年代に計算手として計画に参加し、アメリカ初の地球周回軌道に大いに貢献した。
タラジ演じるキャサリンとともに計画を支えたドロシーをオクタヴィア・スペンサーが演じ、アカデミー賞助演女優賞にノミネートされた。また、エンジニアを目指すメアリーをジャネール・モネイが演じ、まだ人種差別がまかりとおっていた時代のピリッと張り詰めた空気の中でも、終始ユーモアと友情たっぷりの掛け合いで楽しませてくれる。
また、彼女たちと対等に接しようとした研究所の本部長アル・ハリソンをケヴィン・コスナーが好演。差別心を秘めた上司という難しい役をキルステン・ダンスト、キャサリンの夫役に今をときめくマハーシャラ・アリ。そしてファレル・ウィリアムスが手掛けたサントラが物語に彩りを添えている。
数学者云々以前に一人の女性として強い3人を軸に、現場での貢献はもちろん前例のないキャリアアップに果敢に挑む姿や、家庭での母としての姿を描く本作。女が、黒人が……と幾重もの壁が立ちはだかる中、人一倍の努力とホンモノの才能で乗り越えていく姿が眩しい。これからウチらの下剋上が始まるで! 的なケレン味もあって、粋なセリフも満載。大なり小なり困難に立ち向かっている人の背中を押してくれる、ハートフルでソウルフルな宇宙開発物語だ。
https://www.youtube.com/watch?v=Go1PPh1iT74&feature=emb_title
3、『アポロ13』(1995年)
もはや説明不要の月面チャレンジ伝記映画!
宇宙開発モノといえば、オスカー受賞作品『アポロ13』(1995年)はマストだろう。史上3度目の月面着陸を目指し1970年に打ち上げられたアポロ13号が見舞われた予期せぬトラブルから命がけの生還までの顛末を、トム・ハンクス、ケヴィン・ベーコン、エド・ハリスら豪華キャストで描く。
ご存知の通りアポロ13号は月面へは辿り着けなかったわけだが、様々なトラブルをクリアしながらなんとか地球に帰還しようと奮闘する宇宙飛行士たちのスリリングなドラマが繰り広げられる。幾度となく地上波放送されてきた名作なので誰もが一度は観たことがあると思うが、『ドリーム』でも少し描かれた飛行士側の「ちょっと間違えたら即死亡」「工夫すれば意外と融通が効く宇宙船」などリアルな緊張感を知るには本作がうってつけと言えるだろう。
『ゲティ家の身代金』『ドリーム』『アポロ13』はCS専門映画チャンネル ムービープラスで2020年4月放送