G・ルーカス製作総指揮×F.F.コッポラ監督！ 伝説のカーデザイナーの挑戦と苦闘を描く『タッカー』

夢の自動車を創った男の半生をコッポラが映画化！

「出る杭は打たれる」なんてことわざがあるが、『タッカー』（1988年）は40年代のアメリカに実在し、あまりにも出すぎた杭であった男、プレストン・トマス・タッカーを描いた映画だ。

『タッカー』 The Man and His Dream TM & © 1988 Lucasfilm Ltd.(LFL). All Rights Reserved.

タッカーは、それまでなかった独創的なデザインと、考えられる限りの安全性を両立した、夢の車を世に送り出そうと奔走した。なめらかな流線型のボディに、印象的な3つのヘッドライト。家族6人が悠々乗れる広い室内で、運転席には当時画期的だったシートベルトを装備。お披露目された試作品を見た誰もが驚嘆し発売を待ち望んでいたが、その画期的な発明を驚異に感じた大手自動車メーカーが政治家と組み、あの手この手で邪魔をする……。

『タッカー』 The Man and His Dream TM & © 1988 Lucasfilm Ltd.(LFL). All Rights Reserved.

ジョージ・ルーカスが製作総指揮を務め、フランシス・フォード・コッポラが監督するという夢のタッグで実現した本作は、まさしくコッポラの夢だった。というのも、コッポラの父親はタッカーに投資していて、幼いコッポラはその目でタッカー車の展示会を見ていたんだとか。しかし、映画でも描かれる通りタッカーは大企業と政治家に潰され、タッカー車はわずか51台の完成車を生産しただけで終焉を迎える。

『タッカー』 The Man and His Dream TM & © 1988 Lucasfilm Ltd.(LFL). All Rights Reserved.

それでもタッカー車にきらびやかな未来を感じ、ウズウズしっぱなしだったコッポラは、大人になってもタッカー車に取り憑かれていた。そして長年『タッカー』の映画化を夢見ていた。子供の頃に手に入れられなかったおもちゃは、大人になっても追い求めちゃうものだ（実際コッポラは現存する47台のうち1台を所有している。もちろん車大好きのルーカスも）。

『タッカー』 The Man and His Dream TM & © 1988 Lucasfilm Ltd.(LFL). All Rights Reserved.

結果はどうあれ「とにかく立ち向かうこと」を教えてくれる傑作

大企業に潰されたひとりの男の話というわけで、当初は暗い作風やミュージカル映画としての製作も予定されていたが、本作『タッカー』は終始明るく楽しい雰囲気をキープし続けている。それは40年代アメリカの雑誌のグラビアや広告を意識した構図やポップな編集もさることながら、ジェフ・ブリッジス演じるタッカーの、何が起きても動じない狂気すら感じるハイパー・ポジティブな人柄ゆえだ。

『タッカー』 The Man and His Dream TM & © 1988 Lucasfilm Ltd.(LFL). All Rights Reserved.

タッカーの夢に向かって突き進むエネルギーは超巨大台風のように徐々に勢力を増し、友人知人家族はもちろん、社会をも巻き込んでゆく。それはやがて観る者にも伝播し、まるでエナジードリンクのように翼を授けてくれる。

『タッカー』 The Man and His Dream TM & © 1988 Lucasfilm Ltd.(LFL). All Rights Reserved.

しかしまぁ、個人の思いさえも権力や大きな波にねじ曲げられかねない昨今。この映画で描かれることを「大昔のアメリカの出来事」なんて楽観視できるはずはない。結果どうこうではなく、＜とにかく立ち向かうこと＞を後押ししてくれる傑作だ。

『タッカー』 The Man and His Dream TM & © 1988 Lucasfilm Ltd.(LFL). All Rights Reserved.

文：市川力夫

『タッカー』4Kデジタル・リマスター版2019年12月13日（金）より新宿シネマカリテほか全国公開